わたしの山形日記/ ラーメン店の「小上がり文化」
連載
やまがたにUターンして暮らす筆者が、なにげない日々のなかで見つけたこの街の魅力について綴る連載日記です。
山形市はラーメン消費量全国一、二位を争う、とってもラーメン好きが多いまち。総務省が実施する家計調査において、年間1世帯当たりの中華そばの支出金額が8年連続全国一位という記録を持っています。そんな山形には、人口10万人あたりのラーメン店舗数も全国で最も多く、地元の情報誌ではしょっちゅうラーメン特集が組まれていますし、新規オープンのお店の紹介などもよく目にします。
さて、以前、ラーメン好きの友人が東京から遊びに来たとき、面白いことを言われました。それは「山形のラーメン屋には小上がりがある」ということです。小上がりって、お座敷席のこと。それを聞いたとき「え? それってめずらしいの?」と思いました。だって、ラーメン屋の小上がりって山形の人にとっては至ってふつうの風景だからです。店によっては「カウンターと、テーブル、お座敷、どれがいいですか?」と聞かれたりもします。
友人の話によると、東京のラーメン店の席はカウンターがメインで、あってもテーブル席。山形のように小上がりのある店舗はめずらしいとのこと。うーん、確かに都会のラーメン店は、カウンターでパッと食べてさっと出るイメージがあります。それと店舗が狭いイメージも。これは賃貸料なども関係してそうです。それに比べると山形は、一人でぱっと食べて出るときもあれば、家族でのんびり腰を落ち着けて食べるときもあり…いろんなシーンが思い浮かびます。
なるほど、意外な視点でおもしろいなと思いました。なぜ山形のラーメン屋は小上がりがある店が多いのかと考えると、それは『家族で行く文化』があるからだと思います。
山形のラーメンってちょっと不思議で、ラーメン店でなくともラーメンを出します。定食屋でも蕎麦屋でも、丼や蕎麦のメニューに並んで、中華そばや味噌ラーメンが書かれてあるのは全く不思議ではありません。むしろ蕎麦屋のラーメンが人気だったりします。ラーメンの種類も、山形発祥の冷たいラーメンや、中華麺をそばの出汁でいただく肉中華など多彩です。
子どもがいても、おじいちゃんおばあちゃんがいても、みんなで食べに行く。今でいうファミリーレストランのような存在です。そばが好きなおじいちゃん、ラーメンが食べたいお母さん、がっつり丼気分のお兄ちゃん、好きなものをそれぞれ頼んで、年代問わず楽しめる。昔から山形には「外食にはみんなで行く」、「いろんなところでラーメンが食べられる」、この食文化が根付いており、それゆえラーメン単体のお店であっても小上がりがあることに繋がっているのかなぁと。
家の目の前がお蕎麦屋さんだったこともあり、わたしもよく家族で食べに行っておりました。蕎麦屋と謳いながら、そば、ラーメン、定食何でもござれ。入店すると、そばの出汁や、ラーメンスープ、揚げ物の香りが鼻腔をくすぐります。混ざり合っても全然嫌でなく、むしろ相乗効果で食欲を刺激し、ますますお腹が減ってきます。座敷の隅に積み上げられた少し平たい座布団を出して、大体食べたいものは決まっているのに一応メニューを見て、少し悩んで、でも結局いつものものに落ち着く、というのがお決まりのパターンでした。
以前ほどではないですが、今でも兄家族が帰省したときなどは、小上がりで甥っ子や姪っ子と一緒にテーブルを囲んだりします。時代は変わっても、かつての我が家の姿が変わらずそこにあるようで、懐かしくなります。父母のラーメンを器に取り分け美味しそうに食べる姪っ子の姿に、小さい頃の自分の姿を重ねて見たりして…照れくさいようなあったかいような気持ちです。
そんな日常が当たり前の自分にとって、東京から来た友人の「小上がりがあるって、めずらしいね」という言葉はとても新鮮でした。新しくオープンしたラーメン店にお座敷席があるのを見ると、家族みんなで行く山形の外食文化が脈々と受け継がれているのだなと感じます。
撮影にご協力いただいたお店です。大変美味しかったです!ありがとうございました。
・麺屋 ほんわか(山形市若宮)
・自家製麺 鶏冠(山形市松波)
・食事処 玉子屋(山形市五十鈴)
・手打ちそば 港屋(山形市和合)