【鹿児島県枕崎市】後世にも残る、南薩にしかない特色を表現した場所 / 山猫瓶詰研究所
インタビュー
今年9月9日にオープンした鹿児島県枕崎市の『山猫瓶詰研究所』。築100年を越える旧郵便局をショップ・カフェ・宿にリノベーションしています。オープンするまでの背景やこれからも想いを運営会社である『株式会社下園薩男商店』代表取締役・下園正博さんに伺いました。
『注文の多い料理店』の山猫をイメージして
昨年夏のこと。
今後の事業展開について考えているタイミングで、ふと下園さんの目に留まったものがありました。
それはSNSから流れてきたレトロな雰囲気の旧郵便局の写真、そして、そこが売りに出されているという旨の投稿でした。
問合せ先に連絡をとり、早速翌日に現地へ見に行ったといいます。
「現地へ行く前は1日1組限定の宿をしようと考えていました。でも、周辺には高齢者が住んでいる民家が多く、かつ、金山や遊郭があった歴史もあるミステリアスな雰囲気だったので、違う切り口で店舗展開できないかなと思ったんです。」
「帰りの車の中で『注文の多い料理店』(※1)に出てくる山猫が頭に浮かんだんです。枕崎は鰹節の産地でもありますし、山猫との相性も良さそうな気もして。阿久根で北薩の産物を中心した品を扱っているイワシビル(※2)を運営していたので、こちらでは南薩の産物を中心にしたいと思いました。」
物件購入も決まり、枕崎周辺の協力者から得た情報を参考に事業開始に向けて動き始めました。
枕崎を中心に周辺地域の生産者のもとへ足を運ぶ中で
お話を聞いたり、時には、一緒に作業をしたりすることもあったそうです。
「お話を聞きながら、同時に「これを使ったら、これができるな」と商品やメニューのイメージをしていました。何となく名前を聞いたことがある場所もあったのですが、実際に行くと、想像以上に素敵な場所が多くて、さらに南薩の産物をメインにするイメージが湧いてきました。」
「『注文の多い料理店』は猫が人間を食べようとする部分を描いているので、それなら「健康的な人間をつくる」をコンセプトにしたほうが面白いのではと思ったんです。」
「南薩の有機野菜を扱ったり、なるべく添加物を扱わないようにしたりする等、コンセプトとリンクして面白いと感じました。例えば、カフェで提供するマフィンには米粉やキビ砂糖を使うとか。」
南薩の作り手との出会いやそこでの発見を通して、次第に『山猫瓶詰研究所』としての方向性が見えてくるようになりました。
段々とパーツが積み重なってできてきた土台
『山猫瓶詰研究所』は様々な力をもつ人たちの手によって手がけられてきています。
「メインスタッフは3名でして、イワシビルに長年勤務し将来カフェを開業したいと考えているスタッフもいれば、昨年採用した文学少女の雰囲気のある広報担当のスタッフもいます。そして、残り1名は料理人で海外のお店で修行した経験もあります。」
「建築デザインに関しては信頼する『37design-サンナナデザイン-』にお願いしました。たまたまなのですが、代表の方の親族が枕崎にルーツがあって、それもあり喜んで快諾してくださったんです。この建物をちょっとミステリアスな雰囲気に、かつ、外観をスッキリさせたかったので、お願いしてよかったと思います。」
「今年の春頃にクラウドファンディングを行ったのですが、その際にフェイスブックグループを作りました。随時、近況報告をしたり、グループの方と情報交換をしたりして、交流を深めていきました。皆さんから、知らないことをたくさん教えていただいたおかげもり、多くのアイデアが生まれたので感謝の気持ちしかありません。」
ふとしたことで建物と出会い1年。
試行錯誤を繰り返す中で、想像以上にオープンまでの準備期間を過ごすことができたといいます。
「最初からしっかり内容を固めず、ふんわりとしたイメージで進めてきました。そうすることで、段々とパーツが積み重なって『山猫瓶詰研究所』としての土台ができてきた気がします。お店の名前やメニュー、デザイン等、その時のアイデアや出会いがあったからこそ1つ1つ生み出されました。」
「今回関わるメンバーには『注文の多い料理店』の一部を共有し、読んでもらったんです。想い描いている世界観を共有できたので、一人一人が想いを込めて表現してくれました。想像以上のものばかりで、それがいいなって。」
「南薩に何度も現地に運んで過ごすうちに、多くの情報や仲間を得ることができました。改めて鹿児島の広さを感じましたし、実際に現地で過ごしながら日常に触れることで得る情報の濃さも体感しました。一緒に動いていたメンバーもその感覚があったからこそ、お店としての方向性をきちんと認識できたのだと思います。」
後世まで残るようなお店づくりを
ロゴマークをデザインしたのは『細原意匠研究室』。
イワシビルの雑貨等、下園薩男商店に関する商品のロゴを数多く手がけてきました。
「私のイメージを伝え、可愛い猫や怖い猫等の候補を挙げてくれました。その中でも、化け猫っぽく狸に見えて、人間を騙すような雰囲気の猫を描いてくれて「そうそう!イメージにぴったりだ!」と思って、そのデザインを採用しました。」
また今回のお店の特徴として挙げられるものの1つに雑貨の多さがあります。
「ターゲット層として幅広い層を想定しているのですが、その中でも、食や雑貨といったものにこだわっている方々が足を運んでくれるのではと考えています。それはイワシビルを運営していて「雑貨も需要があるんだ」と実感した出来事があったからでした。」
「以前、都市部の百貨店で販売会をした時に、売上の半分以上が雑貨だったことがあって。雑貨は大手の会社が作っているものが世の中に多く流通している中で、地域オリジナルの雑貨も面白いと感じました。」
最後に『山猫瓶詰研究所』を通して描きたい未来について伺いました。
「私自身、その地域にしかないお店が非常に好きでして。そこでデザイン的に素敵な商品を見つけたり、美味しいものを食べたりするのが旅先の楽しみでもあります。そんなことをこのお店でも体現できたらと思っています。」
「でも、どんなに素敵なお店があっても、数年でなくなったりすることもよく耳にします。それはすごい勿体ないことだと思うんです。毎回お店ができては消えてを繰り返してしまうと、そのまちが面白くなくなるんじゃないかなと感じています。」
「イワシビルを運営していて良かったなと思うのは、カフェ・工場・ゲストハウスを複合させるといった今まで地方にあまりなかったスタイルを取り入れたことでした。どこも人口が減少していく中で、色々な販売チャンネルを持てるというのは強みだと感じました。だからこそ、ここも同じ感じでいこうと早い段階で決めたんです。」
「何十年先まで、自分の孫や後世の世代まで続く、その地域にしかないお店を残していけたら。そして、そういうお店が世界中に残っていったら、さらに楽しい世界になるんじゃないかなと思います。そんな想いを胸に試行錯誤しながらですが、『山猫瓶詰研究所』を含め、色々なお店を残していきたいです。」
(※1)『注文の多い料理店』とは宮沢賢治の児童文学の短編集で、その中に収録された表題作の童話のこと。
(※2)2017年に鹿児島県阿久根市にオープン。1階はお土産ショップとたい焼きが食べられるカフェ、2階は見学可能な加工工場、3階はホステル(簡易宿泊施設)といった複合施設である。
屋号 | |
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URL | |
住所 | 鹿児島県枕崎市金山町722番地 |
備考 | 枕崎市街地から車で15分程度にございます。 送迎等やバスはございませんので、自家用車かタクシーでご移動をおすすめします。 |