real local 鹿児島【鹿児島県南九州市】ゆるさを大工現場に。素人とプロの境界線を結びつける。 / コミュニティ大工 加藤潤さん -前編- reallocal|移住やローカルまちづくりに興味がある人のためのサイト【インタビュー】

【鹿児島県南九州市】ゆるさを大工現場に。素人とプロの境界線を結びつける。 / コミュニティ大工 加藤潤さん -前編-

インタビュー

2022.09.14

鹿児島県南九州市を拠点に九州各地で“コミュニティ大工”として様々な現場に入られている加藤潤さん。今回は姶良市蒲生の『結庵 むすびあん』(以下:結庵)の施主・山之内せり奈さん、サポーターの松元さおりさんと一緒に現場の様子を振り返りながら、“コミュニティ大工”について前編と後編に分けて深掘りしていきます。まずは前編からです。

【鹿児島県南九州市】ゆるさを大工現場に。素人とプロの境界線を結びつける。  / コミュニティ大工 加藤潤さん  -前編-

“コミュニティ大工”の潤さん

加藤さん:コミュニティナース(※)のことを以前から知っていて、素敵な活動だしネーミングもいいなあと思ってました。地元の南九州市頴娃町でまちづくり活動の一環として、自身で借り受けた物件でDIYでの空き家再生を手掛けていたのですが、2年ほど前の2020年頃から他の地域からも仕事として依頼されるようになったんです。

嬉しい話なのですが、僕は大工としての修行も受けたことがない素人のまま手掛けていたので、おこがましくてとても大工とは言えなかった。一方で大工って言葉にはちょっと職人気質的でとっつきにくいイメージをもつ方もいらっしゃるので「ネーミングをどうしようか?」と思いました。

色々と試行錯誤した結果、コミュニティナースを参考にして、自分のことを“コミュニティ大工”と言ってみたところ、案外としっくりきて、僕自身も言いやすかったので、思い切ってコミュニティ大工”と名乗ることにしました。

今まで携わった案件は元々関係性がある方からの相談がほとんどだったのですが、この結庵については、直接の繋がりがなかった本物のナースさんから、知人を通じて相談を受けたことが発端で、コミュニティ大工としては不思議な気分でした。()

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コミュニティ大工 加藤潤さん
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写真提供 加藤潤 結庵 改修前の台所の様子

せり奈さん:「“コミュニティ大工”の潤さん」と色々な人から耳にしていて、ずっと気になっていました。私は元々看護師だったのですが、コミュニケーションを一番大事にしていて、潤さんの肩書きを聞いて「とても面白そうじゃん」と思ったんです。

友人から「現場が始まれば、潤さんの凄さがわかるよ」「色々な人を集めて作業をするんだよ」とだけ聞き、紹介してもらいました。昨年12月に現場を見にきてもらって、4月から施工を開始しました。

この物件は元々職場の先輩の実家だったんです。よく庭で焼き芋をしたり、畑作業をしたりして、楽しい思い出ばかり詰まっている場所でして。潤さんに「僕が関わった案件の中で最大級に大変そう」と苦い顔で言われるくらい建物の中は朽ちていて、所有者の方も家の中の活用については諦めていたと聞いていました。

でも、この場所が好きな気持ちに変わりはありませんでしたし、「この建物を何かしらに使いたい」「皆で掃除知ればどうにかなるのではないか」の想いが強かったので、空き家改修することにしたんです。

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写真右 施主・山之内せり奈さん 写真中央 サポーター・松元さおりさん
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写真提供 加藤潤 改修前の様子 玄関

誰でも気軽に、一緒に汗を流せる雰囲気づくり

さおりさん:私は情報に疎い部分があるので“コミュニティ大工”と言われてもピンときませんでした。それよりも「大工作業ができないから、現場に行っても邪魔なのではないか?」「少しでもミスしたら怒られそう」と思っていて。

でも、せり奈ちゃんの想いを知っていたから、手伝おうと思い現場に足を運ぶと、想像と全く違った世界が待っていました。一番驚いたのは、現場初日に皆でいきなりお茶をしたことです。「え?お茶から?」と思って。その時間を通して、潤さんや初めましての方とも打ち解けるきっかけになりました。

加藤さん:“コミュニティ大工”の現場はランチタイムと休憩時間はとても大事なんです。初めましての方もいるので、お互いのことを知らないとチームって作れないので、少しでも関係性を作って一緒に作業するということを意識しています。

例えば、集落の草刈りも似たようなものだと思うんですが、皆で作業をして、合間にお茶をして世間話をするうちに、次第に関係性が深まっていくような。一緒に汗を流すことで「こき使われた」ではなく「こんなことができた」という感覚になることを大事にしています。

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写真提供 加藤潤 施主も参加者も交流を深めつつ作業に入る

せり奈さん:私はこの場所でコミュニティスペースを始めようと決意したのは「もっと、皆でゆっくりお話できる場所がほしい」と思ったからでした。それだけコミュニケーションを大事にしていて。今回の現場を通して、潤さんから大工の技術よりも、コミュニケーション力を学ばせてもらったと思っています。

それを看護師とは違う視点で学べたというか。誰かが悩み事を相談したら、皆で真剣にアドバイスをしてくれたこともありました。そんな空気感が居心地良かったです。「どうしてそうなるのか?」と考えたら、潤さんの1つ1つの声かけや接し方、雰囲気等、全部が気持ち良くなるんです。

加藤さん:技術では本物のプロ大工とは勝負できないので、コミュニケーション力で勝負しないと()。僕が関わった他の現場で一緒に作業した仲間も結庵に手伝いに来てくれたりもするんですが、面白いのは僕が現場にいない日にも来てくれたりもするんです。「結庵を応援したい」「ここに来て楽しい」と感じるからこそですよね。

あと、この現場で求めらているのは、早く綺麗に仕上げるという建築的なしっかりさではなく、参加した人が一緒に作業し交流が深まることで生まれる温かみなんだと感じました。せり奈さんの「コミュニティ的な空間を作りたい」という想いにも、コミュニティ大工として関わることで寄り添うことができたのではないかと思っています。

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写真提供 加藤潤 床張りをした場所にて皆で記念撮影

ゆるさがある現場だからこそ、引き出されるもの

加藤さん:2人とも僕のことを褒めてくれますけどね、僕だけの力じゃ、あの雰囲気は作れないんですよ。せり奈さんがもっている雰囲気、人柄、これまでの生き方とか、そういったものが大きく影響しているんだと思います。

現場に集まってくれた人の8割以上はせり奈さんを応援したいと手伝いに来てくれた人です。だから、僕の力ではなくて、施主のせり奈さんが作り上げてきたものだと思います。

この物件の改修予算は100万円くらいでしたので、一般の工務店での受注は難しかったかと。もっともせり奈さんの呼び掛けで多くの方が作業に参加してくれたし、時には大工や左官が出来るプロ級の方までもが手伝ってくれたりと、普通の工務店の現場とは異なることも多々ありました。

なので事前に見積もりを出して作業箇所をきっちりと決めるではなく、せり奈さんと日々一緒に作業しながら、この予算内で改修が可能な箇所をその都度話し合いゆるく決めていくスタイルで進めました。

この和室は床を貼り直して来訪者との交流のスペースに、キッチンとトイレは最低限必要だよね、トイレ前の廊下の床が抜けたままではトイレに行けないので直さないと…みたいな。

当初は飲食許可の取得も考えていましたが、予算的なことや、交流拠点としてまずは使い始めることを優先すれば、必ずしも飲食店開業にこだわることはないかもと考え直し、先送りしたことなんかもありました。

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写真提供 加藤潤 皆で台所の改修作業

せり奈さん:トンネルがある箇所は元々壁だったんですよ。「どうする?」って皆に相談したら「壊しちゃえ!」ってなって。話しているうちに「子どもが通れるくらいのトンネルを作れたら楽しいよね」と話が進んでいきました。

トンネルができたら、大人も子どもも関係なく、潜って楽しんでいました。作業を進めていくうちに壊すのが得意な人、ペンキを塗るのが得意な人、板を貼るのが得意な人等、大工現場の経験の無い人たちがどんどん個性を発揮するようになってきました。

さおりさん:潤さんとの作業をきっかけに、現場にいた皆はそれぞれの個性や能力を強めてもらった感じがするのかなと思っています。だって、「大工作業なんて、私絶対できない」と思っていたんですから。そんな私たちでも何かしらを任せてもらえるって、それだけでもすごい自信がつきますよね。

小さなミスをして失敗しても潤さんは絶対怒らないし、せり奈ちゃんも「いいんじゃない?」って言ってくれるから、安心感がある時間でした。せり奈ちゃんが作りたいと思っていたコミュニティとしての空間がリノベーションの作業の時点で作り上げられている気がしました。

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元々壁だった部分を改修して子供たちが通れるトンネルを
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誤ってペンキが付いてしまった箇所に上塗りしてアートのように仕上げ

後編では、加藤さんがコミュニティ大工として目指すものや課題等についてお話を伺っていきます。

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 ※『人とつながり、まちを元気にする』コミュニティナースは、職業や資格ではなく実践のあり方であり、「コミュニティナーシング」という看護の実践からヒントを得たコンセプトです。地域の人の暮らしの身近な存在として『毎日の嬉しいや楽しい』を一緒につくり、『心と身体の健康と安心』を実現。その人ならではの専門性を活かしながら、地域の人や異なる専門性を持った人とともに中長期な視点で自由で多様なケアを実践しています。実践の中身や方法は、それぞれの形があり、100人100通りの多様な形で社会にひろがり始めているところです。

(『Community Nurse Company』 HPより参照)

屋号
(株)まるのこラボ 代表
URL

https://note.com/okosoco_junkato/n/n415017066a0f

備考

加藤さんに空き家改修等のご相談・ご依頼の場合は上記のURLをご参考されてください。