【鹿児島県南九州市】ゆるさを大工現場に。素人とプロの境界線を結びつける。 / コミュニティ大工 加藤潤さん -後編-
インタビュー
前編では、“コミュニティ大工”と名乗ったきっかけや結庵の現場の様子等について伺いました。
後編では、加藤さんが新たに立ち上げる法人のお話も含め、“コミュニティ大工”として何を目指していくのか深掘りしていきます。
これでいいんだと思える場所
加藤さん:この手の空き家を活用しようする時、綺麗事でいこうとしてもうまくいかないことが多いです。だから、皆で向き合って、腹を割って話さないといけないことも出てきます。
僕は、たいがい現場に泊まり込んで作業するのですが、ここではせり奈さんがお子さんを連れてきて一緒に遊んだり、お互いの家庭のことを話したりすることで信頼関係が深まっていきました。
表面的に「この金額でお願いします」の対価型のビジネスではなく、お互いが協力し合って作り上げていく共創型のプロジェクトなので、それは必要なことだと思っています。
結庵はせり奈さんのような看護師さんが集まる場だから、自然と僕の健康相談になったこともあって。僕が血圧が高いって話をしたら、血圧を測って、食生活について聞かれ、その上で僕の食事の改善メニューを提案してくれたなんてこともありました。これぞコミュニティナースって感じです。
また現場を手伝ってくれた行政マンの方が、補助金の活用や行政連携のあり方など、今後の方針について行政目線でアドバイスをしてくれたり。
時にはここで転職や創業などの人生相談をする人までいました。改修作業の最中から、せり奈さんが目指す結庵はすでに始まっていました。
ここは予算が限られているので、そこまで立派で綺麗な改修はできないけど、せり奈さんの「やろう」という想いが皆さんに伝わって、それぞれが自然とできることをその場で出せたのかなと思います。それはお金だけでは絶対できないことですよね。
せり奈さん:現場に手伝いに来てくれた友人たちからは「これでいいんだと思った」と言う人が多かったです。
空き家再生とか建築というものを「こうしないといけない」とガチガチに考えていたみたいで、その場の雰囲気で皆で話し合って作業を進めていくうちに「先入観で自分たちが固くなっていた」「もうちょっと肩の力を抜いていいんだな」と色々な人から耳にしました。
こういう空き家再生の過程で「失敗してもいいんだ」「えい、やっちゃえ」といったところは、それぞれの生活や仕事とかにも繋がる良いヒントにもなるかもしれませんね。
さおりさん:実際に作業したのは4月から7月のたった数ヶ月でした。まさか、この短い期間でこんなに濃い人間関係を築けると思いもしませんでした。潤さんに対しても、せり奈ちゃんに対しても、めちゃくちゃ素が出せるんですよね。
この場所だったら、ここのメンバーだったら…。そう思って話せることが多くて。しかも、興味本位とかではなく、皆さんちゃんと話を聞いてくれるんです。これがコミュニティのお仕事をされている人たちの力なのかなと感じました。
素人とプロの境界線を結びつける
加藤さん:実は9月に『まるのこラボ』という法人を立ち上げる予定です。30歳を過ぎてから趣味でDIYを始めて、色々な道具を使うのですが、その中でも丸ノコに対してはちょっとした怖さがありました。
でも、思い切って買って使ってみると、それまで手ノコで切るのに苦労していた木材が一瞬で切れて感動したんです。素人からステップアップした瞬間って気がしました。
日曜大工でDIYをやっている人たちが、素人からプロの世界へ足を踏み入れる象徴みたいなものが丸ノコなのだと思います。
だから、素人とプロの境界線を結びつけたい気持ちもあり、名前に“まるのこ”と入れました。“ラボ”と加えたのは、単に大工仕事を請け負うだけではなく、DIYを通じて一緒に作業したり、空き家再生の進め方を研究したり共有したり、そこにまちづくりの手法を絡めたりすることで建築だけではカバーしきれないソフト面も含めた空き家再生の学びの提供にまで踏み込みたいと思ったからです。
僕が最初にDIYを始めた30代前半の頃、まだまだ下手くそでしたが、賃貸住宅だというのに、何かDIYしたくなってしまって、覚えたての丸ノコ片手に見様見真似で庭にウッドデッキを作ったことが始まりでした。やり過ぎて大家さんに怒られてしまい、「ならば」ということで中古の家を買い、そこで思いっきりDIY三昧の日々を過ごしたことが僕の原点だったりします。
加藤さん:ただ単に個人で大工仕事を担うだけだったら個人事業主で良いと思います。でも、空き家再生が扱う領域は結構幅広くて根深くて、色々な場面に出くわすんです。
建築業なら建てる・直す、不動産業なら売買や賃貸を仲介するとなりますが、時には自身でリスクを取って空き家を買った方が良いケースもあって…。
その際にはお金がかかったり、登記をしないといけなかったりします。個人で出来る範囲には制約もあるので、法人化することで空き家再生とさらに積極的に関わっていくことにしました。
ありがたいことに“コミュニティ大工”という手法が空き家問題の解決につながると考えてくれる人たちが少しずつ増えつつあるという手応えを感じてます。
空き家問題とは色々な事情があって放置され、お金にならないと世の中の経済原理から切り捨てられてしまった物件の山のことです。
そうした状況に既存の業界常識や経済原理だけではなく、建築と不動産、プロと素人の融合や、コミュニティの力を活用して向き合っていくことが、これからの時代には必要なのだと思っています。
空き家とはそもそも産直に並ぶいわば規格外野菜みたいなもので、通常の流通に乗らなかったものなので、既存の業界常識や行政によるちゃんとした目線から脱して、DIY目線や、僕のような“コミュニティ大工”というゆるさをうまく組み入れることで、活用が可能になるのではないかと考えています。
コミュニティから波及していくもの
加藤さん:今このような立場で空き家再生と関わっていますが、もうちょっと“コミュニティ大工”として動ける人たちがいるといいなと思っています。
今も少しずつですが、行政職員が週末の活動として関わってくれたりプロの建築士が仕事の幅を広げるために僕の現場に関わってくれてコミュニティ大工として活動してくれたりと、広がりを肌で感じているところです。
空き家ってうまく使えば、家主にも活用したい人にも地域にも貢献するはずなのですが、残念ながら活用に至らずに解体か放置となるケースがほとんどです。
建築、不動産、地域、行政…。これまでそれぞれ別々に動いていたものに業界や世の中の常識やルールのみでない目線を注ぎ、繋いでいくことが出来るのがコミュニティ大工の役割であり、各地にコミュニティ大工として動ける人がいることで空き家の活用が進むはずと考えており、そうした人材の育成にも貢献していきたいと思っています。
加藤さん:施主となる皆さんはそれぞれバックグランドや状況も違うのですが、共通することもあります。
おおらかでオープン、ゆるさを受け入れる強さを持ち合わせていることが共通点でしょうか。だから、どの現場でも良い関係性の中で作業ができることがありがたいし、現場と現場の横の繋がり、人の行き来が生まれたりもしています。
そして、何よりも皆さん、夢や希望が大きい。そんなお施主さんたちに魅かれることで、色々な人たちが集まり、良いコミュニティが生まれるんだと思うんです。
そしてさらに嬉しいのは改修が終わって「はい、終わり」ではなく、そこで出会う人たちからまた新たな繋がりが生まれ、色々と波及していくことです。
例えば、「自分でも改修したくなった」「新しいことをしたくなった」という挑戦の輪が広がったり、作業を通して自己肯定感が強くなった人が暮らしやすさや生きやすさを感じるようになったり。空き家問題だけではなく、世の中にある様々なことに繋がっていくんだと感じるようになりました。
僕は空き家問題を解消したい想いで“コミュニティ大工”をやっているわけではなくて、ジワジワと広がってきた中の1つで結果的に空き家問題に貢献できたら面白いと思っていて。
それを僕だけの力ではなくて、“コミュニティ大工”のようなアプローチをする人たちが増えてきたら嬉しいなと思います。
屋号 | (株)まるのこラボ 代表 |
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備考 | 加藤さんに空き家改修等のご相談・ご依頼の場合は上記のURLをご参考されてください。 |