ヒト・モノ・コトが集う「やおよろず」
町家を改修したセレクトショップ「八百萬本舗」
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金沢の3大観光地といえる、兼六園・ひがし茶屋街・近江町市場。この3つの結び目となる場に、金沢の過去と未来を繋ぐ、ユニークなスポットが誕生しました。その名も「八百萬本舗(やおよろずほんぽ)」。元金物店だった町家をリノベーションした店頭の銅板張り看板に、真鍮でつくられた店名5文字がキラリと輝いています。
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この八百萬本舗がある「尾張町」という町は、江戸時代に前田利家が金沢入城の際、出身地である尾張の荒子から商人たちを連れてきて住まわせたことに由来すると言われています。
明治初期までは、当時国内5番目の人口を誇っていた金沢市の中心地として、大通りには大店(おおだな)が軒を連ね、大変な賑わいを呈していましたが、時代の移ろいとともに、商業の中心地も移動し衰退。
しかし、幸か不幸か、観光スポットに囲まれながらも再開発が進まず、エアポケットのように残った尾張町には、江戸時代からの商店や町家、モダンな近代建築が数多く現存し、「建物の博物館」と称されるほど。
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「それはそうと、『やおよろず』って、一体何のお店なの?」というお声が聞こえてきそうなので、早速店内案内へ。1軒の町家の中に複数のテナントが入居する「八百萬本舗」には、石川・金沢の現在形の物産を伝えるショップが集まっています。
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暖簾をくぐるとすぐ左手にある、九谷焼の伝統的な技術にシールという革新的なアイデアを加えた「KUTANI SEAL」。その場でワークショップも体験できます。
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向かいには「titi(ティティ)」。エスプレッソベースの美味しいコーヒーや、輪島の米麹甘酒と旬の果実のスムージーを楽しめる、小さなカフェ&セレクトショップです。
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奥に進んで「能登スタイルストア」。能登の手仕事でつくられる特産品や生活雑貨をお取り寄せできる同名のオンラインストアの実店舗です。
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改装前の金物店の名を引き継いだ「志村金物店 by キッチンワークス」。日本各地の地場産業と手を組んで、土鍋や包丁、フライパンなど長く大切に使える台所用品を揃えています。
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そして店内一番奥にある「ひゃくまんさんの家」。石川県の観光PRキャラクター・ひゃくまんさんが店主という設定で地元の良いものをセレクトしたショップで、地元っ子が懐かしむローカルな品が並んでいます。
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こちらは元々あった町家の中にあった土蔵を改修し、2016年8月に新たに加わった保存食品専門店「stoock」。北陸を中心とした商品が集まります。
それでは螺旋階段を上って2階へと参りましょう。
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2階には畳張りの部屋が2つ。その名も「お座敷」というレンタルスペースはワークショップなどに使われており、今後はポップアップストア(実験店舗)やイベントなども随時開催予定です。
さて、ひとまず店内案内をさせていただいたのですが、このひとことでは言い表せないジャンルフリーな複合感にますます「何屋さん?」と首をかしげる方もいらっしゃるのでは。ここはひとつ「八百萬本舗」を運営する、E.N.N(金沢R不動産を運営する会社でもあります)代表の小津誠一さんにお話を伺ってみましょう。
「この場所はノスタルジックな土産物店ではなく、ヒト・コト・モノが集まるパブリックな町家にしたかったんです。
だからこそ、ひとつのテナントで独占するよりもコンセプトを共有する複数のテナントが集まった方がより開かれた場になると考えました。
それも、観光客向けというよりも、地元の人たちが行きつけにしてくれて、いつも人や情報が自然と集まってくるような、そんな場所にしたかったんです」
「東京であれば新築の再開発ビルに全国のコンテンツを集めてくるかもしれないけれど、ここ金沢ではもともとある町家を再利用して、この土地にある個性を集めるだけで、歴史を継承しながらストーリーを創造していくことがしていくことができると思うんです」
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八百萬本舗の特筆すべき見どころはまだあります。細長い廊下を進むと小さな覗き窓が2つ。中を覗き込むと、なんと建物の下を用水が流れ、金沢城の石垣が建物の中を横断しているではありませんか!
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「金沢城や兼六園など、豪華絢爛な『加賀百万石の伝統』も良いけれど、金沢には、もっと身近なところに物語がある。
ご近所の方もよく見に来てくださって、『うちの近くにも用水があってね』と、とても懐かしそうに話されるのです。この遺構はきっと、金沢市民の誇りなんですよね」
2階のお座敷では今後、尾張町の歴史を伝える企画展や、地元のおじいさん達からこの街の歴史をうかがうトークショーなども行っていきたいと小津さん。まるで公民館のようなローカルっぷりが、なんだかかえって新鮮です。
さらに、尾張町には他にも新たな胎動が。近隣では、金沢在住者を含むクリエイターのシェアオフィスなどもでき、さまざまなオープン計画も進行中。内外からクリエイティブな人々がこのエリアに集いつつあります。
江戸時代の遺構から未来に向けたアイディアまで、「やおよろず」のコンテンツが集まって、かつて金沢一の繁華街だったこの尾張町から、新たなカナザワが発信されていくことでしょう。