real local 鹿児島【鹿児島県霧島市】“食”に付加価値をつけ、世の中に一石を投じる / ノアコーヒー 東さつきさん -後編- reallocal|移住やローカルまちづくりに興味がある人のためのサイト【インタビュー】

【鹿児島県霧島市】“食”に付加価値をつけ、世の中に一石を投じる / ノアコーヒー 東さつきさん -後編-

インタビュー

2022.09.22

前編では“食”を供給する側の意識を変えるための1つの取り組みとして、国産のコーヒー豆の栽培に至った経緯を伺いました。後編では、コーヒー豆の栽培に付加価値をつけるための取り組み等について紹介していきます。

【鹿児島県霧島市】“食”に付加価値をつけ、世の中に一石を投じる / ノアコーヒー 東さつきさん -後編-

自分の事業を成功させる

2016年になると、コーヒー豆100kgの収穫を達成した東さん。

収穫したコーヒー豆で国産コーヒー豆の付加価値を追求するための研究と新商品の開発に乗り出していきます。

2018年には『かごしま新特産品コンクール』にて「沖永良部島コーヒー豆100%木樽入り」が奨励賞を受賞しました。さらにコーヒー豆の収穫量が300kgにまで成長したのです。

「島の人たちとの関係性が深まっていくことで、強い味方も増え、さらに雇用が結果的に発生してきました。だから、色々なことで良い循環になっていると思っています。」

「コーヒー豆に対して熱弁するよりも、島に経済効果をもたらした方が、島の人たちは関心をもってくれます。そうすることで、関わる人・関わりたい人を増やしていきました。」

「その中で「コーヒー豆は体にいいんだよ」「商品化もできるんだよ」といった、飲むこと以外にも関心をもらえたら生産者も増えていくのではと考えました。」

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写真提供 ノアコーヒー 沖永良部島コーヒー豆100%木樽入り

その中でも実感したのは“まずは事業を成功させる”ことでした。

その真意とは何だったのでしょうか。

「事業を成功させることで、自分たちのやっていることが色々な人に経済効果をもたらすことができました。そうなったことで、自分たちだけではなく、みんなで経済を回していくことになり、それが信頼関係構築にも繋がっていったんです。」

「今、私が精神的に安定しているのは、経済を一緒に共有していく仲間が増えたからだと思っています。それが心の安定に繋がり、夢を追いかけることに意識が綺麗に向かえているんです。」

「そういう状態になって初めて、元々『カフェのあ』をオープンさせる時に掲げていた原点に戻ることができました。体に良いものをお客さんに安心して食べてもらいたい。ようやくコマが揃ってきて、その目標に進むのがこれからだと感じました。」

「だから、国産のコーヒー豆を栽培することが私の目標ではないんです。それは私にとって、目標を成し遂げるための1つのフラグに過ぎなくて。」

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写真提供 ノアコーヒー かごしまの新特産品コンクールの様子

世の中に一石を投じる

2019年、鹿児島大学と共同で「コーヒー果実を丸ごと焙煎する方法」について特許申請を出しました。

コーヒーには通常トリゴネリンという機能性成分を含んでおり、

その成分は神経細胞を活性化させて、新たな情報伝達の回路をつくることで、結果的に認知症や脳の老化に効果的であるといわれています。

しかし、普段多くの人が口にしているコーヒーは、コーヒー果実のタネ部分のみを焙煎しているので、トリゴネリン等の栄養成分が少ない可能性があるのではと東さんらは考えました。

そこで、コーヒー豆に機能性成分がたくさんあることはすでに世の中で発表されていたため、果実を丸ごと焙煎して、さらに機能性を残し、飲める状態にするといったところまで研究を行うことにしたのです。

共同研究に手を挙げたのは鹿児島大学農学部の加治屋勝子博士でした。今回の特許取得には加治屋氏の尽力があったからだと東さんは話します。

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写真提供 ノアコーヒー トリゴネリン成分を多く含むコーヒーの果実

この特許取得の背景には国産コーヒー豆に付加価値をつけることで、食を供給する側だけではなく、消費者側も含め“食”の意識を変えていきたいという東さんの想いが込められていました。

「皮にはどういう成分があって、それが人にとってどんなメリットがあるのか等、国産コーヒー豆の隠された能力を知る人は少ないと思います。それを分析して発表すれば、多くの人が国産コーヒーの可能性を知ることになると感じ、2020年頭には大々的に記者会見を行ったんです。」

「多くの人が食に対して意識が高まれば、食品産業側もそこを考慮するようになってきて、体に良い食品を提供しようと意識が変わってくるはずです。だから、私のやっていることは、そこに一石を投じるような位置付けになればいいかなと思っていて。」

「コーヒー1つ提供するにも、そこが劇的に変われば、他の食材に対しても繋がっていくかもしれない。私は何をするにも「食を供給する側が徹底して考えていく」ことは常に頭にあって、それを自分の軸に寄せてブレないようにしています。」

2020年の春にはさらに農園を開拓し、コーヒーの木がついに2000本になります。

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写真提供 ノアコーヒー 特許申請をした「コーヒー果実を丸ごと焙煎する方法」に関する記者会見

自分たちのやってきたことを正直に見せる

2021年、東さんは念願叶って、沖永良部島でコーヒー収穫体験観光ツアーを開催しました。

コーヒー豆の収穫時期に合わせて、収穫・洗浄・果実分離・乾燥・脱穀・栽培・抽出までの行程を現地で体験でき、県内外から多くの人が参加したそうです。

東さん自ら、沖永良部島の観光協会へ企画を持ち込んで提案し、実現に至ったといいます。

「国産コーヒー豆といっても、見たことがない人はたくさんいます。だから、農園を実際に開放してお客さんに見せることで、私たちの事業に対する信頼を得て、安心してコーヒーを飲んでもらうことに繋がると考えたんです。」

「そこで、手段として体験観光ツアーをしたいと思うようになりました。それはお金を稼ぎたいとか、そういう意味ではありません。私たちがやってきたことを「苦労してここまでやってきた」と正直に見せて信頼してもらう。それをお客さんがどう評価して、どの豆を買うのか選択してもらいたいと考えています。」

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写真提供 ノアコーヒー コーヒー収穫農園観光体験ツアーの様子

しかし、国産コーヒー豆が普及していく反面、危惧される点もあると話します。

「私たちは10年以上かけて、たくさん苦労して、今では2000本以上の栽培に至ることができ、収穫量もコーヒー果実で約1トンを達成して、これだけ増やしてやっと国産コーヒー豆の事業として軌道に乗せることができるんです。」

「国産コーヒー豆は法律等で基準が定められていません。だから、行政側が国産コーヒー豆の実態を正確に把握できていないのが現状なので、国産かどうかの真偽がわからないんです。私たちはそういった意味でも、農園を実際にお客さんに見てもらうことの意義を感じています。」

「もしかしたら、外国産のコーヒー豆を国産と謳う人も出てくるかもしれないですし、10~20本栽培しているだけで国産コーヒー豆に関する事業をしていると言う人も出てくるかもしれない。国産と謳うだけで、皆同じように捉えられてしまうのは問題があると思っています。」

「だから、農園を見せることは、お客さんからの信頼を得るだけではなく、私たち自身の襟を正すことにも繋がっていると思うんです。1つ1つ、やることを噛み締めて。じっくり深掘りして、どこまでやっていくか。これからもしっかり考え抜いて、動いていきたい。そんな気持ちです。」

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写真提供 ノアコーヒー コーヒー農園観光体験ツアーの様子

オセロのように1つ1つ

ノアコーヒーとしての経緯を辿ってきた上で、このように振り返ります。

「国産コーヒー豆栽培に取り組み始めたのは、栽培した食材や開発した商品の全てを私がコントロールできる状態にしたい気持ちからでした。色々と深掘りをして、安心して供給できると確信した上で1つ1つ商品を増やしていっています。」

「コーヒー1つにしても、お客さんにとって選択肢が増えてきたと思います。飲み方にしても、豆の選び方にしても。私たちがやってきたことを通して、コーヒーの素材について初めて情報発信できたと自負しています。」

「コーヒーに関しては嗜好的なものから健康的なものにというスライドで進められたらと考えていました。最初の数年はとても苦労しましたが、今は段々とそれが定着してきているなと実感しています。」

証券会社、飲食店、製薬会社での気づきで自身の軸が定まり、

そこに向けて今まで突き走ってきた東さん。

これから先、どんな未来を見据えているのでしょうか。

【鹿児島県霧島市】“食”に付加価値をつけ、世の中に一石を投じる / ノアコーヒー 東さつきさん -後編-
写真提供 ノアコーヒー 沖永良部島コーヒースイーツ

「オセロのように黒が白に1枚、2枚と少しずつひっくり返していくような感覚でいいなと思っています。白が売れるようになれば、黒が白に次第になっていき、効果がはっきりしてくるんです。」

「国産のコーヒー豆が無いから自分で作ろうと決意し、それを成し遂げるまで時間がかかったので、他の食材に関することが据え置きになってしまいました。でも、結局コーヒー豆の栽培が成し遂げられないとスタート地点に立てない気がしたんです。」

「その経験があるからこそ、どの食材でも徹底的に深掘りすれば、もっともっと花が開く食材がいっぱいあると思います。」

「私のような視点に着目してコーヒーの仕事をしている人がいてもいいと思っています。もしかしたら、コーヒーを極めている人たちからしたら邪道かもしれません。それでも、私はコーヒーに限らず、“食”に関して目を向けられていない部分に少しでも光を当てて、お客さんに安心して食べられる健全なところまでもっていけるように走り続けたい。そう思っています。」

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写真提供 ノアコーヒー 夫・純平さんとコーヒー農園にて

(終わり)

屋号

ノアコーヒー

URL

https://noah-coffee.com

住所
鹿児島県霧島市隼人町1449-1
備考

本店とは別店舗でテイクアウト店もあります。

●ノアコーヒー テイクアウト店

住所:鹿児島県霧島市隼人町666-3

電話番号:0995-50-0455

営業時間:10:00~18:00

定休日:水曜日