【高岡】感情を、ゆらす。北陸工芸の祭典「GO FOR KOGEI 2022」開幕!/勝興寺編
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北陸を舞台とした工芸の祭典「GO FOR KOGEI」。今年も9月17日(土)に開幕し、10月23日(日)まで開催されています。今回は特別展「つくる −土地、暮らし、祈りが織りなすもの−」の見どころを、2日間に渡って開催された内覧会の様子からご紹介。まずは金沢から見て東側にあたる、富山県高岡市の会場・勝光寺から。
高岡市伏木古国府にある「勝興寺」にて、「GO FOR KOGEI 20022」が開幕が告げられました。勝興寺は浄土真宗本願寺派の寺院で、本堂をはじめとする12棟の建造物が重要文化財に指定されています。昨年に引き続き、勝興寺はじめ北陸三県の神社仏閣を舞台に特別展が開催されています。
「つくる」において、工芸とアートを隔てずに。
「私は工芸を、姿形を持った完成形である“プロダクト”とは捉えていなくて」と開幕式冒頭の挨拶で、総合監修を務める秋元雄史さん。
「もちろん、そういう捉え方もあると思いますが、私は“無形の技術”として工芸を捉えています。人がこれまで伝えてきた技術・技能が時代を超えて、現代の職人や作家、アーティスト、デザイナーに伝わってきている。それがあるときは“工芸”としての形をとり、またあるときはインスタレーションのような“アート”や、デザインの世界では“プロダクト”にもなりうる。
そういう意味で工芸をかなり広く捉えていて、今回の展覧会の中でも「これって工芸ですか?」と問いたくなる作品もあるかと思います。そこでポイントになるのはヒエラルキーや上下関係をそこに設けていないということ。同じ「ものをつくる」ということにおいてイコールで捉えています。今回の特別展のテーマ『つくる』にはその意味も込めていて、「工芸」をもっと引いて眺めて、『つくる』ということを再発見したい。その視点から、今日の工芸や工芸的な技術と関わりのあるようなアートやデザインといったところまでご紹介しています」
場を読み解く、サイトスペシフィックな作品群
勝興寺では大広間や式台、台所、書院などの建築空間と、庭園などの屋外空間を含む広大な敷地内の随所で作品が展示されています。「普段は祈りの場であるところにアート作品が入ることで、また違った表情を見せてくれるというのも、こういった神社仏閣で展示する醍醐味の一つです。日が照ったり陰ったり、時の流れの中で作品が生きて変化する表情もぜひ楽しんでいただけたら。(秋元さん)」
全20名の参加作家の中、勝光寺会場では11名の作品を展示。そこには「現代アート」や「アール・ブリュット(※)」といったジャンルの中で普段は紹介されている作家も多数見受けられます。
(※)アール・ブリュット…既存の美術や文化潮流とは無縁の文脈によって制作された芸術作品の意
時代の先端を行く、産業として生きる工芸「繊維」
また、今年度の「GO FOR KOGEI 2022」は、染色や織物など「繊維」に関わる作家や作品が多いのも特徴的。特に勝光寺には集中して展示されています。内覧会では2名のキュレーター・作家にお話をうかがうことができました。
まずは、西陣織の老舗の十二代目で、アートプロデューサー・クリエイターである細尾真孝さんの作品。作品紹介をしてくれたのは、キュレーターの井高久美子さんです。今回の作品はアーティストでプログラマーである古舘健さんとともに、職人の感性や経験を元に培われてきた組織織を、コンピューター・プログラムのコードによって生成する、という先端的な手法で制作されています。
「こちらの織物の模様は、作者が考えた「デザイン」ではなく、プログラムに基づく「構造」によって生み出されたものです。ジャガード織機(※)は複雑な組織を作ることが可能で、西陣は特に『綾織り』において世界に類をみないくらい高い技術を有しています。
(※)シャガード織機…フランスの発明家ジョゼフ・マリー・ジャカールが生み出した織機。明治6年に初めて日本に導入された。
ジャガード織機の「縦糸をどう上げ下げするか」ということは「0」と「1」で記載できるので、基本的にコンピューターのデジタルな言語と似ていて、いわば“母国語”が一緒なんです。縦糸と横糸の組み合わせというのは無限にあり、そこを計算することができたなら、「意匠性」を「構造」からつくることができるのではないか。そう考えた細尾さんが2017年から数学者やプログラマーを交えて研究をスタートさせました。」
「けれど当初、プログラムに従ってランダムに折り上げた織物が全く美しくなかったんです。データを“書き出す”ことはできても、そのままでは“織れない”ということが分かった。糸の選び方や表情のつけ方、構造をどう引き立て織り上げるかということは、職人さんの手でしかできないんです。そして人間が有史の中で磨き上げてきた三原組織(※)が如何に機能的に優れていて、かつ美しいかということを改めて実感しました」
(※)三原組織…平織り・繻子織り、綾織りの織物における最も基本的な織組織。」
「近代化を迎えたときに、西陣は全国に先駆けてジャガード織機をフランスから取り入れた産地です。もちろん現代でも手織りの素晴らしい部分はありながらも、ジャガード織機を取り入れ“できること”を拡張するスタイルでこれまでやってきたのが西陣織です。その長い歴史の中でも、織屋さんはプロデューサーとしての役割があったと聞いています。“その時代の最先端をどう織るか”、それが彼らの仕事だったのだと思います。(井高さん)」
麻布に透けて見える、土地の記憶と人の手仕事
そしてもう一人お話をうかがったのは、現代アーティストであり、自然布の蒐集家・研究家としても知られる吉田真一郎さん。今回出品する大麻布は、40年以上に渡って収集された大麻布を自ら漂白し、織りや糸の微妙な変化が浮び上がらせたもの。今年度のメインビジュアルにもなっている大麻布も、吉田さんの収集品のひとつです。
「越中というのは奈良時代からの麻の産地でした。「越中布(えっちゅうふ)」として古文書にも出てくるし、正倉院の御物にも入っている。特に福光は、江戸末期には麻の集積地となり「福光麻布」として盛んに売り出していました。しかしそれは今や、地元の人さえほとんど知らない事実となっています。
今回並べているのは手織りの大麻布を、ひとつひとつ天日で晒して白くしたもの。だから十枚全て違っていて、ひとつとして同じ「白」はないんです。それを「白の布」ですとひと塊りで捉えて問題解決しようとする。これは子どものいじめなど現代の様々な問題に通ずるところがあるんじゃないかと私は思うんです」
今日ではタブー視されがちな植物・大麻。しかし日本人と大麻は文化的に切っても切れない関係にあり「そのことに興味があって麻布を集め始めました」と吉田さん。
「福井県にある鳥浜貝塚は縄文初期のもので、今から一万年前の貝塚です。そこから大麻の網の断片が出土しているんです。つまりそれ以前から大麻はあって、私たちは一万年以上麻を身に纏っている民族だということ。けれどアメリカ占領下での大麻禁止法によって一方的にタブーとされて以降、大麻について日本は思考停止に陥っています。無難に無難にという慣習は、海外から見ると異様です。それはこの“白”とも通ずるところがあります」
歴史や政治、様々な要素が交差する「工芸」
「今回は染色系や織物系の作家さん多くフィーチャーされています。“繊維”って、工芸の中でも一番近代化や技術変化が激しい分野の一つで、今も産業として“生きている”ものの一つです。“芸術”や“伝統工芸品”としてだけでなく、いまだに“工業”として残っている。その振り幅が面白いと思っていて」と、総合監修として今回のテーマ設定に関わった秋元さん。
「今回メインビジュアルに選んだ古布は、繊維が大麻です。日本の繊維としては一番古いものだし、天皇家との関わりなど日本の歴史と非常に深く関わっている。工芸って単に技術的な問題だけじゃなく、歴史や政治といった様々なものがそこには交差していますよね。
そしてあの布は糸から手作業で紡いであって、物凄く忍耐の要する作業です。繊維は女性が相当関与している分野でもある。ファインアートは頭で考えたり、男性的というか観念的なところがあるけれど、工芸は非常に忍耐強く繰り返された作業の集積だったりもする。工芸のベースにはやはり“忍耐”があるのだと僕は思うんです。そしてその多くの部分を無名の職人や女性たちが担ってきた。そういう美意識も今回表現できたらという想いも、あの麻布には込めています」
勝興寺にはその他陶芸、金工、ガラスなど様々な素材の作家も展示されているので、是非自分だけの切り口や気付きを糸口にお楽しみあれ。
北陸三県の会場を1日で巡るのは相当タイトなので、記事も二本立て。後編は金沢から見て西側の福井・小松会場の下記記事に続きます。
会場 | 【特別展会場】 勝興寺(富山県高岡市伏木古国府17番1号) |
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期間 | 会期:2022年9月17日〜10月23日 時間:9:00〜16:00(那谷寺9:15〜) |
料金 | 共通パスポート:2000円 ▼チケット購入はこちらから |
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