【山形/連載】穏やかな休日のための音楽21
地域の連載
「穏やかな休日のための音楽」では、毎回山形に縁のある南米のアーティストとそのアルバムを紹介しています。
もう随分前のことなのに、いまだに山形に来ていただいた時の感激が忘れられないアーティストがいます。もちろん全てのアーティストが忘れがたい存在なのですが、率直にいえば中には嫌な意味で忘れがたい、忘れてしまいたい(笑)場合もあります。当たり前ですが、音楽が素晴らしいだけではなく、やはり短い山形滞在中に人として尊重しあえて、交流がしっかりできたアーティストこそ、記憶に強く残ります。
そんな中で特に美しい思い出を残してくれたアーティストが、2009年と2010年に山形公演を行なったヘナート・モタ(Renato Motha)とパトリシア・ロバート(Patricia Lobato)の夫婦デュオです。彼らのプロフィールなどはこちらをご覧ください。
2009年、初めての公演は山寺風雅の国「馳走舎」。ちょうど桜が見頃の時期でした。とても気さくで美しい二人は、山形の人々との交流を厭わず、常にギターを持ち歩き、山寺の蝉塚では演奏を始めてしまうなど、まさに音楽そのもののような、常に音楽を纏っている二人でした。美しい二人にステージ背後の桜が映えて、とても印象深い公演でした。
二度目の山形は2010年、文翔館議場ホールでの公演でした。10月とは思えない寒い日で、さらになんと暖房が故障。二人とも鼻の頭が赤くなるような状況の中、服を重ね着しつつ、嫌な顔もせず文句も言わず、美しいパートナーシップで暖かくなるような公演を見せてくれました。この二人はとにかく尊敬できる人たちでした。
文翔館での公演の模様。多分私のとった映像だと思います。
さて、今回紹介するのは彼らの「Cateiro vol.1」というアルバムです。Cateiroとは自然を愛でる詩作を残したAlberto Cateiroというポルトガルの詩人の名前です。実はこのAlberto Caeiroは、今世紀最大のポルトガル語詩人と言われるFernando Pessoa(フェルナンド・ペソア)の異名です。ヘナートとパトリシアは、過去にFernando Pessoaの詩に曲をつけた「Dois Em Pessoa」というアルバムを2作リリースしていますが、本作は同じ詩人の別名での詩集を題材として取り組んでいるというわけです。このシリーズは3作までリリースされることが既に決定しているようです。
本作の予告動画では、彼らの自宅と思われる自然に囲まれた美しい景観の中での演奏がみられます。
以前彼らと話しているときに、「僕たちの自宅には小さな滝があるんだ」と話していましたが、確かに動画の後方に小さな滝がみえています。なんとも贅沢な庭(というより森?)ではありませんか。自然を愛する詩人の作品を取り上げた本作は、こういう恵まれた土地に住む彼らならではの美意識の賜物であり、自然の中で日常的に過ごし、物事を深く静かに考える豊かな時間が音楽として表現されています。穏やかな休日に相応しい、美しい作品です。ぜひのんびりと、できれば自然の中で聴いていただきたいです。