【石川・福井】北陸工芸の祭典「GO FOR KOGEI 2022」開幕!那谷寺/大滝神社・岡太神社 編
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※終了しました。
10月23日(日)まで開催されている北陸工芸の祭典「GO FOR KOGEI」の特別展。前編の高岡・勝興寺会場(記事はこちら)に続き、後編では金沢から見て西側にあたる「小松(那谷寺)/越前(大滝神社・岡太神社)」会場をご紹介。今回は総合監修・秋元雄史さんと作家とともにめぐるツアー形式でレポートします。
<那谷寺 会場>
高岡での内覧会に続き、快晴に恵まれた翌日は小松市の那谷寺からスタート。那谷寺は養老元年(717年)に泰澄が創建したと伝えられている密教系の仏教寺院。広い境内は奇岩遊仙境と称され、地元では紅葉狩りの名所にもなっています。
「工芸の通常考えるスケールからすれば、今回はかなり大きいもの、身の丈を超えるものも多いです。工芸を “眺める” というよりも、作品に“取り囲まれる” “入り込んでいく” というか、一種の体験として感じていただけたら」と総合監修の秋元雄史さん。
つくっているけど、つくってない
まず向かったのは参道に入ってすぐ左手の書院。那谷寺の境内にあった楢の倒木を素材とした鵜飼康平さんの作品が展示されています。虫喰いや雨風の侵食によって姿を変えた部分も生かしながら、木の骨格を残して掘り進め、その上に注意深く漆を施したこちらの作品。
「つくっているんだけど、ある意味でつくっていないというか。木本来の姿や、自然の作用の中で生まれてきた形、そしてそこにある“時間”をもう一度顕にする。そういう作業をしているのだと思います。(秋元さん)」
「普段は“素直”な素材をつかっているので、今回は野生的な素材というか、ある種の発掘作業のようで。チャレンジングでとてもおもしろかったです。(鵜飼さん)」
続いて隣に並ぶのは、入沢拓さんの作品。靭性の高いブナの木をひご状にして、伝統的な「楔止め」をアレンジした技法で組み上げられたオブジェは、シンプルながら複雑な構造が空間に特有の軽やかさを与えています。
「ひとつひとつは細かい仕事なんですけれども、そういうものが折り重なって一つの景色をつくるというか。いろんなレイヤーが挟まってひとつ見えてくるということを、今回やりたいと思いました(入沢さん)」
隣の部屋には、古家具を素材にした近藤七彩さんの作品。使われなくなった家具などに金属の組み込みやフレームを新たに与えることで、家具の概念を拡張するような作品を制作されています。ブリコラージュ的なその手法からは「つくる」ことの原初的な楽しさが伝わってくるよう。
「アートピースなのかデザインされたプロダクトなのかわからないというか、その両方にまたがっていてる軽やかさが、彼女の作品なのだと思います。(秋元さん)」
表現としての工芸。
境内の琉美園に進むと、湧き出るように存在するのは佐合道⼦さんの《Harmony》。磁器でつくられた1000個以上の球体によって構成された作品は、展示される場所やコラボレーションする作家にあわせてその都度バージョンアップして変容していくというスタイルで制作されています。
「工芸的な技法をベースにして、自分自身や自分と世界の関係を作品化するというか、佐合さんは「表現としての工芸」を実践している作家さんの一人です。(秋元さん)」
境内の山道を散策していると、樹木にさりげなく吊るされているのは新里明⼠さんの作品。磁器でつくられた抽象的なオブジェは、土地の気配や音を視覚化したかのよう。
「彼は実際に使える器と、このようなインスタレーション作品も同時に制作している作家です。そういう意味では、工芸とアートというジャンルの垣根がなくなってきている、新しいジェネレーションの作家だと思います。(秋元さん)」
白いワイヤーによって組み上げられた幻影のような白山と、川の流れを思わせる流線形が庭園に溢れ出すような井上唯さんの作品。
「白山の文化圏というか、信仰の広がりのようなものを表したいと思いました。今回白い繊維を使用したのは、清浄さ・生まれ清まるという“白の信仰”と、このお寺を創建した泰澄さんが大陸から織物と養蚕を伝えたという話から。また白山比咩神社の“くくりひめ”とかけて、結んだり括ったりしながら制作しています。(井上さん)」
<大瀧神社・岡太神社>
そして那谷寺を出発し、1時間半ほどの道程を経て福井県越前市へ。今回最後の会場となる大滝神社・岡本神社に到着しました。養老3年(719年)に泰澄が創設したと伝えられる大瀧神社と、日本で唯一の紙の神、川上御前が祀られる岡太神社。この二つの神社が下宮の本殿を共有していることから、二つの名が併記されるという、全国的にも稀有な神社です。
閉じていた感覚が、開いてくる
まず案内されたのは、神社からさらに山側に進んだ山林。橋本雅也さんの作品が展示されているというその場所には、なぜか草鞋が用意されていて…?
「今回鹿の骨からつくった作品を展示する場を探して、沢に沿って歩いていたらこの洞を持つ杉の木を見つけました。人が入るには少し難しい場所ですが、展示するにあたって“人の方が自然に寄る”ということをしたかった。木道を通せば平坦な歩行はできるけれど、それでは都市の歩行感覚を山中に持ち込むようなもの。人の内面で起こる変化を考えて、だったら靴を脱いで、草鞋で入ってもらおうと。すると普段は塞がれている感覚が、開いてくるようなところがあるんです。とにかくまずは、歩いていただくのが一番良いかと思います」
作品の方が、自然に寄っていく
そして大滝神社の境内に展示されていたのは鴻池朋⼦さんの「皮トンビ」。
「ここに展示されていれば台風の影響もうけるだろうし、強い直射日光も受ける。どこかがちぎれるかもしれないし、絵の具が劣化するかもしれない。しかし陽の光や雨・風は人間も植物も同じように受けているもの。そういった自然現象に対して「作品が自然に寄っていく」というスタンスで鴻池さんは制作されています。美術館では作品を守るということに大変な労力をかけているわけですが、「アートの在り方」もこの作品は問うています」とキュレーターの高山健太郎さん。
この皮トンビこの地でしばらく羽を休めた後は、静岡の美術館に飛び立つ予定だそうです。
素材の意味を、つくることで考える
そして観音堂に展示されていたのはカラフルでポップな絵画作品で知られる六本木百合香さんの作品で、いわば“現代絵巻物”。
越前和紙をこの地に伝えたとされる「川上御前」の神話を、現代風にアレンジして越前和紙の上に展開されています。「北陸を訪れたのも今回が初めて」という六本木さんが、時間をかけ地域に根差す文化を学ぶ中でまとめられた、アウトプットとしてのストーリーです。
「今回、“現代アート”や“工芸”など、それそれ別々の出自の作家さんが関わってくださっています。六本木さんも普段は絵画のアーティストです。そこでGO FOR KOGEIがお願いするテーマとして「工芸をどうあつかうか」ということがあります。絵画など表現の仕方はそれぞれですが、「素材がもつ意味」みたいなものを、より感じていただけるのではないかと思っています。(高山さん)」
二日間か特別展の旅を通して感じたのは、頭ではなく、心が揺れる爽快感。現地での感動を先に“ネタバレ”することは避けたく、作品写真などはなるべく数を絞り、全貌を載せないようにしているつもりです。
自然の摂理や人の叡智が凝縮された工芸、そしてその技を用いて新たな境地を開拓する作家たち。会場はもちろんのこと、会場までの道中も楽しみのひとつです。今年度は各地の工芸やアートにまつわるスポットを掲載した「私の見つけたKOGEI」も開設されているので参考にされてみてください。ぜひ北陸の三会場を巡って土地の自然や文化とともに、工芸を体感する旅をお愉しみください。
会場 | 【特別展会場】 勝興寺(富山県高岡市伏木古国府17番1号) |
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期間 | 会期:2022年9月17日〜10月23日 時間:9:00〜16:00(那谷寺9:15〜) |
料金 | 共通パスポート:2000円 ▼チケット購入はこちらから |
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