【愛知県豊田市】つくる、あそべる、つながる。 一日遊べる!住宅展示場
インタビュー
トヨタ自動車本社の北向かいに、住宅展示場とは思えない住宅展示場があります。「つくる・あそぶ・つながる」をテーマに、縁日を思わせる遊びや屋台のようなテナントショップ、お祭りイベントでにぎわう場所「MATSURIBA」。地域の人たちの居場所となる新しい時代の住宅展示場で、運営スタッフの上坪さんに話を聞いてきました。
【real local名古屋では名古屋/愛知をはじめとする東海地方を盛り上げている人やプロジェクトについて積極的に取材しています。】
自遊にたのしむ場をつくり、地域をよくする装置になること。
駐車場からまず目に入ってくるのがドッグテラスとワンちゃんのお店。そして入口正面に広がるテントホールには人工芝が敷き詰められ、子どもたちが元気よく駆け回っています。無料レンタルできるラグやクッションを使ってそれぞれが居心地良く過ごしていて、何とも気持ちよさそう。ここは、雨の日も日差しが強い日も楽しめる憩いの場となっているようです。
このテントホールを囲むようにして、8つのお店がトレーラーハウスで出店しています。感度の高い、東海エリア発の食やモノが集合し、このMASURIBAだけの限定品も登場。美味しいフードや買い物を楽しむことができます。
テントホールに隣接する縁日エリアでは、ヨーヨー釣りやピンボール、輪ゴム射的など8つのゲームが遊び放題。スタンプを5個集めたら景品がもらえるとあって、子どもたちは夢中になってチャレンジするのだとか。そしてその奥に、ようやくモデルハウスが見えてきます。平家とスキップフロアの2種類のモデルハウスが建てられ、この家の中でも自由に寛ぎ、時間を過ごすことができるというから驚きです。
MATSURIBAは、「家を建てたいから出かける」住宅展示場でなく、地域の人たちがいつでもここへ来て「自遊に楽しむ」場所なのだと上坪さんは言います。
顧客を取り合うでなく、ともに手を繋ぎあうこと。
MATSURIBAを企画・運営するのは、ワクワクする暮らしを提案するイビケンの「BinO(ビーノ)」と、リノベーション事業を中心に楽しむことにこだわる「エイトデザイン」。競合になりそうな2社が手を取り合ったのは、これからの住宅業界に対する危機感と、それを何とかして盛り上げていきたいという共通の想いだったと言います。
「ここはBinOが手がける2棟の住宅が建っていた場所で、いわゆる普通の住宅展示場でした。全国にはそうした展示場がたくさんありますが、どこも厳しく寂しい状況が続いています。正直言うと地域にとって、住宅展示場はなくてもいいものなんですよね。家を買う人だけが行く場所だから。集客イベントをやったところで、それは地域の人のものになっていないと感じていました。そんな中で、住宅を提供する場としてどうあるのがいいのかを考えた時、ここが地域の人の居場所になるのが一番だということになりました。
それぞれの目的で来た人たちに、ここでBinOの家に触れてもらい、知ってもらい、BinOの家のファンが自然発生的に増えていくことが理想。僕はエイトデザインの人間ですが、そう思っています。やっぱり自社だけが良くてもダメで、チームになることが大事。これまでにもさまざまな街づくりプロジェクトに関わってきましたが、街づくりをする上で大切なのは、僕らがやっていることを他の事業者の方たちもやってみたいと思ってもらえること。そうして業界全体が、地域全体が盛り上がっていくものだと思っています。」
広告であって広告ではない。ここではWebやSNSではできないことを、現代のリアルなやり方で実践しているようです。
事業者とテナントが、フラットな関係になるということ。
住宅に関わる2つの会社が同じ想いでつながり、共同事業者となったように、ここに出店しているテナントもまた同じ想いでつながっていると言います。どのテナントもMATSURIBAのコンセプトに賛同して参加しているのであって、ただ売上が上がるという理由だけで出店していません。なぜなら、ここはもともと人が当たり前に集まる場所ではなかったからです。その分、調整区域でも商いができるようトレーラーという出店スタイルをとり、事業の継続性を担保しながら出店コストも抑えられるようにしているのだそうです。もちろん、いいものに対して感度の高い人たちに向けたショップをセレクトしているのだとか。
「当たり前に人が集まる場所ではなかったからこそ、どれだけの売上になるのか誰も分からない中での厳しいスタートになりますが、ゼロイチの価値を生み出す、その価値に共感してくれる人たちがテナントに入ってくれています。だから仲間になれるんです。僕ら事業者だけが頑張るんじゃなくて、テナントもみんなで頑張ること。そうやって自分たちで賑わいを生み出し、流行ってくれたらみんなの価値も上がるんですよね。事業者とテナントがフラットな関係で、同じ目線でアイデアを出し合いながら一緒に作り上げています。だから、来ていただいた方には伝わっていると思いますが、それぞれのテナントスタッフも、遊びながら楽しく働いています。」
全国の学生インターンが作り上げた、縁日エリア。
子どもたちに人気の縁日エリアを手がけたのは、BinOでもエイトデザインでもなく、全国から募った学生インターンたち。MATSURIBAのコンセプトを伝え、価値観を同じにする24名のインターン生がオンラインでつながり参加してくれました。
「ここでも大事なのは価値観で、縁日をテーマにどうしたら子どもたちやご家族に楽しんでもらえるかを、3つのチームに分かれてとことん考えてもらい、オンラインと定例会で打ち合わせを重ねて作り上げました。作業としての仕事でなく、能動的に働くということを楽しんでもらえたように思います。学生ならではのアイデアやアクションに、こちらが学ばせてもらうことも多く、若い人たちの力を感じました。子どもたちには、輪投げやヨーヨー釣りなど、何度でもやり直せる8つの遊びを通して、できたことをいっぱい経験してほしいですね。遊び方や片付けなどのルールを守って楽しむことも大切にしています。」
MATSURIBAは、コミュニティを育てる祭りの場。
テナントが並ぶ様子は一見、よくあるマルシェのようにも見えますが、マルシェであれば地域の人はただ用意されたものに参加するだけです。一方、お祭りは地域の人たちが作り上げるもの。MATSURIBAと言う名前には、地域との関わりを大切にしたい想いが込められています。
「元来、日本人は「ハレ」という非日常を楽しみに、「ケ」という日常を頑張ってきました。祭りは「ハレ」であると同時に、地域の人と関わりコミュニティを育てるという側面も持っています。その時にしかできない交流も生まれます。MATSURIBAで企画されるイベントでは、会場のデコレーションなどに参加してもらい、みんなで「おまつり」を作り上げてもらいたいと思っています。」
すでにこのMATSURIBAを作る時には、3人の地元アーティストが参加しています。センターハウスやトレーラーショップのウォールアート、エントランスのオブジェなど、この場所すべてをギャラリーと見立てて作品を発表。あちらこちらでアートを目にすることができます。また、エントランスオブジェや縁日エリアの道具などは全て廃材で作られており、入口のウッドデッキの木材は、豊田市の森林組合から譲り受けた間伐材なのだとか。
現在は平日利用の場所貸しもスタート。ヨガ教室、クラリネット演奏会、ドローン実習など、地域の人のクリエイティブをアウトプットできる場となり、何かを始める良い機会になっています。
「家は売っていない。暮らしを売っているからこそ、日々の暮らしに触れていかないと。」と上坪さんは言います。休日に行くところがないという家族にもぜひ来てもらいたいと。このMATSURIBAという場所が地域の人に受け入れてもらえれば、その先にはいろんな可能性が広がっていきます。それがまた豊田という街の賑わいにつながっていけば嬉しいと話してくれました。