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山形移住者インタビュー北條祥子さん「起業するなら『山形にないもの』と考えました」

移住者インタビュー

2022.10.22

#山形移住者インタビュー のシリーズ「センイルケーキ」と呼ばれるケーキがブームになっていることはご存知でしょうか。「センイル(생일)」とは韓国語で「誕生日」の意味。つまり韓国版の誕生日ケーキのことを指します。日本の誕生日ケーキとの違いは、そのデザイン。淡いカラーのケーキに直接「HAPPY BIRTHDAY」などの文字をのせるのが主流で、花のデコレーションで華やかにするのも人気です。20226月、その専門店が山形市にオープンしました。店主は2年前にUターンしてきた北條祥子さん。製造販売ともにひとりで行なっています。山形に初となるセンイルケーキ店を始めたきっかけとは。北條さんが山形に戻ってくるまでの話からお伺いしました。

山形移住者インタビュー北條祥子さん「起業するなら『山形にないもの』と考えました」

韓国で出会った“かわいいケーキ”に感銘を受けた

山形市の出身です。短大進学とともに上京しました。卒業後は、羽田空港でグランドハンドリングスタッフや美容部員などの仕事を経て、韓国へ1年半留学。日本に戻ってから不動産売買の仕事に就き、結婚を機に山形に戻ってきました。韓国にいた時代も含めると約12年離れていたことになります。

韓国の魅力を知ったのは、短大時代に東方神起にハマったこと。初めての海外も韓国でしたし、彼らを好きな気持ちが落ち着いた後も食べ物やコスメなど韓国のものを好きになっていました。東京にいる頃、英語圏に留学するために貯金をしていたのですが、たまたまAirbnbが韓国で求人を出していたのを見つけて。カスタマーセンターの仕事で、対応する相手は日本人の宿泊者か日本人のホスト。少しの英語と日本語が話せればできる仕事だったので、チャレンジしてみよう! とワーキングホリデーで韓国に行くことを決めました。そこで1年働き、残りの半年は語学学校へ。韓国はカフェがたくさんあるので、休みの日はいろんなところを巡りました。でも当時の韓国って、スイーツがそこまでおいしくなかったんですよ。見た目は華やかでかわいいのに、食べてみると…というのが多くって。そんな中でブームになっていた「レインボーケーキ」は別物で、見た目も味もパーフェクト。こういう“かわいいケーキ”が日本にもあればいいのにって、その頃から思っていました。

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韓国は今でも大好きだそうで、先日も家族で旅行に行ったばかり。

山形でなら自分の好きなことができると思った

元々料理をするのも食べるのも好き。お菓子作りも趣味だったので、数年前から月1でお菓子教室に通い始めました。そこには「手に職をつけたい」という思いが少なからずあったと思います。でも東京で起業することには不安がありました。そんなときにコロナ禍となり、その不安はどんどん大きくなっていたんです。

2020年、コロナ禍が始まったばかりのときの東京は今よりもっと状況が悪かったように思います。街に人はいないですし、外に出ることも許されないような雰囲気。友達に会うこともできませんでした。その年の7月、山形に帰省したとき、何かに解放された気持ちになったんです。「ここなら安心して暮らせるかも」って。山形に住む彼との結婚も決まり、戻ってこようと決めました。

2020年の10月に山形に戻ると妊娠がわかり、しばらくは専業主婦に。その暮らしに憧れてもいたけれど、将来的には働くことも考えていました。でも、いざ働こうって思ったときに、お給料の面で都会と違うのもあってモチベーションを保てるのかも心配。子供とできる限り一緒にいたい思いもあったので、せっかくだったら自分のやりたいようにできる仕事を起業してみようと思い立ちました。

起業するならば「山形にないもの」にしたいと考えました。それで韓国のケーキを思い出したんです。K-popもブームですし需要があると思いました。オーダーメイドのケーキにしたのは事前に準備ができ、取りに来られる方と時間をお約束することができるから。子供との時間を確保しつつお店を回していけるのではないかと。オープン以前はそう考えていましたが、実際はそこまで時間配分はうまくいってません(笑)。

パティシエとしての資格はなくて、ケーキ店を起業するには製造場所を確保して菓子製造業許可と食品衛生責任者の資格を取得できればオープンできます。大変だったのはアトリエとする物件探し。私のケーキ店は店舗にお客様が来てその場でケーキを買うわけではなく、ネットでの注文、直接引き渡しもしくは発送という販売形態。アトリエはケーキ製造のために使いたいと思い、物件を探していました。最近は増えている業態ではありますが、山形では前例があまりないらしく、不動産会社に問い合わせても相手にされないことも…。正直、かなり苦労しました。運良く今のこの物件が見つかったことで、オープンできたと言ってもいいぐらいです。

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基本のセンイルケーキ。日本にはない色味とメッセージのデザインが特徴的。写真:北條さんご提供

他店との差別化を図るために県内産の米粉を使用することにしました。またいろんな情勢で小麦粉が高くなっているので、米粉のほうが今後メリットがあるかもしれませんよね。後から知ったのですが、県内産の材料を使うと助成金が降りることもあるそうで、その申請もしています。

2022年の6月にオープンしてから、いくつかメディアに取り上げていただきました。山形で初となる“センイルケーキ”であること“県内産の米粉”を使用していること。この2つが大きな柱となって、注目していただいています。もしも東京で起業していたとしたら…同じことをしていても見つけてもらえなかったかもしれません。同業者や似たような形態のお店に埋もれてしまって、チラホラ注文がある、ぐらいだったかも…。山形だからこそ、ここまで注目していただけていると思っています。

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フルオーダーケーキは、お客様の要望に沿ってデザインする。写真:北條さんご提供

将来的にはケーキが並ぶ店舗も持ちたい

センイルケーキって見た目重視のお店が多い印象があります。私も買ったことがあるんですが「見た目はいいよね」って感じ。山形にはおいしいものが溢れている分、私のケーキはそれではいけないと思って。「かわいいし、おいしいよね」って言ってもらえるケーキを目指しています。

日本でケーキというと特別なイメージがあるかもしれないんですが、韓国ではもっとカジュアル。ピクニックに、ちょっとしたお祝いにケーキを持っていきます。私のケーキもそういう位置づけでいたい。お弁当箱のケースにケーキを入れているのも“カジュアルさ”を演出するため。誕生日じゃなくたってかわいいケーキを食べる日があってもいいですよね。今のところ山形県内では韓国っぽいケーキを売りにしているお店はないので、日本のケーキにはないデザインを取り入れて「写真に撮りたくなるケーキ」を販売するお店として力を入れていきたいと思っています。

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花をあしらったデザインのケーキも韓国が発祥だそう。写真:北條さんご提供

オープンして1番驚いているのは「推しケーキ」の多さ。オーダーの半分以上は、自分が好きなアイドルやアーティストの誕生日を祝うためのケーキなんですよ。すごいですよね! 人気の方だと、同じカラーリングのケーキの注文が続くこともあったので、需要が多いときには限定ケーキを販売することにしました。お声がけをいただいてコラボしたりもしています。ありがたいことに翌月の予約を開始すると、23日で売り切れに。想像以上の反響に自分自身戸惑いながらも、充実した日々を送れているとも感じています。

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オープン当初はお子さんをおんぶしながらケーキを作ることもあったそう。

韓国ではセンイルケーキがショーウィンドウに並んでいて、事前にオーダーしなくても買えるお店がほとんどです。いつか私もその形態でお店をオープンさせるのが夢。かわいいケーキが並んでいて、どれにするのか悩みながらワクワクする感覚を味わえるお店にしたいと思っています。

 

写真:伊藤美香子
取材・文:中山夏美

CHOOSY CAKE https://www.instagram.com/choosycake/