【名古屋市南区】場所にはこだわらず、人が集まる仕掛けにこだわる。
インタビュー
名古屋市南区のあまり知られていないエリアに、他では見られない衣食住を揃えてライフスタイルを発信している場所があります。古い建物を改装し、この「ニューモアビル」を手掛けた髙木さん。店舗設計やリノベーション事業を主軸として活動しながら、ディレクションや、人が集まるイベントを仕掛けるといった様々な顔を持つ髙木さんに話を聞いてきました。
思いがけない、アパレルから空間デザインへの転身。
アパレル業界にいた髙木さんが空間デザインの道に足を踏み入れたのは、思いもしない誘いがきっかけでした。それは不動産・建築業を営む方より「うちの仕事を手伝ってみないか」と声をかけられたこと。興味本位で引き受けたものの、髙木さんにとっては何もかもが初めての経験。何も解らない自分に、周りの方が様々な事を教えてくださったお陰で、自分の居た世界とはまた全然違った人生を歩むきっかけを頂きました。と当時を振り返ってくれました。
「会社の事務でさえ未経験だったのに、声を掛けて頂けただけでもありがたい話です。事務仕事に慣れてくると、社内の設計士の方が『アパレル業界にいたならデザインも好きなのでは?』と、壁紙選びなどを手伝わせてくれたんですね。それがもう楽しくて楽しくて(笑)。そのままのめり込んでいきました。もともと洋服をデザインして自分でつくったりしていたので、無いものを形にする作業は大好きでした。でも洋服とはサイズ感が全く違う、空間という大きなものを初めてつくったときの喜びは衝撃的でした。私がやりたかったのはこれだ!と稲妻が落ちたように感じてからは、もう前に進むだけ。仕事で実務をする傍ら、自分の時間のほとんどを資格取得の勉強に費やしましたね。」
会社に12年間勤務した後、もっと自分の世界観を生み出せるリノベーションをやりたいという想いが強くなり独立を視野にいれ始めたものの、当時は不安しかなかったと言います。それでも「これで食べられなければパートでも何でもしよう。ダメならダメでいい、とにかくチャレンジしてみよう!」と吹っ切り、独立を決めたのは5年前のこと。蓋を開けてみれば、持ち前のセンスの良さで人づてに依頼が舞い込み、現在は店舗デザインをはじめ、中古マンションやタイルのデザインなど活動の幅は多岐にわたります。
空間デザインとともに広がったイベント企画。
髙木さんがまだ会社員だった頃、リノベーション関係のイベント集客のためにマルシェを開くことになりました。そこで、たまたまマルシェへの出店経験があった髙木さんが企画運営を任されることに。イベントのニーズを捉えてアイデアを盛り込んだマルシェが集客に大きく貢献し、イベントは大成功。独立後も引き続きマルシェなどの企画運営を請け負っているそうです。そのうちに、空間デザインの仕事だけでなく、イベントの仕事も依頼されるようになりました。
「イベントの仕事は体力も使うので、本当に大変なんですけどね。始まった時の面白さや、みんなが喜んでくれる姿を見ると、“またやりたい!”って気持ちになるんです。そこで初めて出会う人もいて、イベントから設計やデザインの仕事につながることもあります。無駄なことは何もないんですね。」
面白いことをやれば人が集まり、まちは変わる。
髙木さんが手掛けるイベントには、髙木さんの会社が行うものとは別に『プレオープンズ』というチームで受けるものがあります。プレオープンズとは、料理人や美容師、アパレル業など、それぞれに本業を持つ専門家たちで結成されるチームのこと。関わるイベントやプロジェクトに応じて必要なメンバーが召集されます。告知は主にインスタだけというのに毎回たくさんの人が集まることからも、その注目度が伺えます。
「ちょうど独立したての時、あるプロジェクトでチームを組んだのが始まりです。建物のオープンに向けたイベントでしたが、当日は約500人近くの方が足を運んでくれて、たくさんの人に建物の存在を知ってもらうことができました。それだけでなく、周辺の飲食店も満席になり、近所の方々も喜んでくれていた、と後から教えて頂きました。1日だけですが、そのまちが変わったんだなぁと。場所はどこであれ、面白いことをやれば人が集まり、まちが変わるということを実体験させてもらったのは大きいですね。これで解散するのはもったいない、と同じメンバーで『プレオープンズ』を立ち上げました。現在は10名ほどの想いあふれる専門家が在籍しています。結成から何年も経って、ありがたいことにみんな個々に大活躍されている方ばかりなので、現在はあまり活動はできていませんが、久しぶりに集まっても毎日一緒に居たかのように感じる、とても良いチームワークの仲間達です。」とメンバーの皆さんのお話を伺いました。
注目してほしい場所、盛り上げたい場所に出没し、人が集まる仕掛けをしてくれるプレオープンズ。それも一度きりで終わらず、付き合いが続くことが多いというのも特徴のひとつ。例えば、古いお屋敷を活用できないかという年配のご夫妻から相談があった時には、最初の立ち上げイベントの後も、蔵でライブをやったりと、2年ほど定期的にイベントを開催していました。
「イベントを何度かご一緒して集客していくと、その場所を知ってもらえるのはもちろんのこと、ご夫妻もどうやって活動していくのかを肌で感じることができます。ここ数年はお二人で貸しスペースやレストランを展開されていますね。生き生きとしているお二人を見ると、こちらもやってよかったなと思います。建物が再び息を吹き返し、それで人が集まって、誰かの役に立てるのは本当に嬉しい。だから、誰かが必要としてくれることに対して、できるだけNOとは言いたくないんです。自分達が何かで役に立てたらという気持ちをメンバーが共通して持っていることが何よりすごい事ですね。」
仕事というより、ライフワークのようにも見えるイベント事業。現在は11月5・6日に美濃市のセラミックパークMINOで開催されるタイルのイベント「タイル百年祭」に向けて準備の真っ只中でした。タイルが“タイル”と呼ばれるようになって今年で100年。節目を迎えるイベントでの大役を任されました。いろんなイベントがある中で、「タイル」という建材でもある物がイベントのテーマになるという異色のイベントです。100年の歴史を紐解いて体感して頂けるような、古いタイルなどの展示から、現在のTILE+ARTをテーマにしたワクワクするような作品もたくさん並びます。フードやお買い物も一日中楽しんで頂けるような素敵な出店者の方が勢揃いしますので、ぜひ遊びに来てくださいね。もちろんプレオープンズも登場します。お楽しみに。
・タイル百年祭の詳しい情報はこちらから>「@tile_centenary_fes」・
場所はどこであれ、やっていける。
南区のこの場所にオフィスを構えて2年が過ぎたそうです。ニューモアビルと名付けられた建物の2階に、髙木さんのデザインオフィス「THÉÂTRE/テアトル」とご主人のセレクトショップ「POETRY/ポエトリー」、そして1階にはカフェ「Parlor Imom」とイベントスペース「SPACE PALETTE」があります。
様々なイベントを通して、「どこでやるか」よりも「何をやるか」が大事だと改めて感じた髙木さんは、自らのオフィスを移転する時にも、場所へのこだわりはなかったと言います。「今はまだ人が集まる場所でなくとも、これから人が集まる場所にすればいいのだから。」と、さらりと口にする髙木さんはどこか楽しげ。他にない衣食住を揃えてライフスタイルを発信するこの場所から、またさらに面白いことが生まれていきそうです。