【鹿児島県東串良町】醤油とデザインを両輪に、新しいカルチャーを ／ 山中醤油株式会社　村山立樹さん

2020年6月、醤油職人として7年勤めた会社は醤油事業を停止を決めました。

村山さんは「醤油をつくり続けられる道はないか？」と模索しました。

「配達等を通して、飲食店や個人のお客様の声をダイレクトで聞いてきましたし、この土地でずっと受け継がれてきた味が消えてしまうのは勿体ないし、まだできることはたくさんあると思いました。」

そこで、事業規模を縮小し、醤油の他にデザイン等を加えた切り口で、『山中醤油株式会社』として独立する決心をしたのです。

「出資者は私を含め、全国各地から21名集まりました。醤油関連は私だけで、他の20名は物流・音楽・飲食・酒屋・医療関係など様々な業種の経営者たちがほとんどです。この醤油に携わるのは私だけ。という１：20の客観的視点を活かした会社運営、連帯性や連動性を意識しているので、色々な人の会社だと思っています。」

「“つくる”意義みたいなことをつくり手である私たちがしっかり見直して、食べてもらう人に、より楽しんでもらえる提案も行うことにしました。醤油はもちろんですが、他社の商品もブランディングしていくデザイン事業等を展開しています。それが、この地域での１つの役割だと認識しています。」

「私は会社の代表ではありますが、投資者を含めた1/21の一人だと思っています。この会社をうまく活かして、21人それぞれが飛躍して、皆さんの事業にフィードバックされる新しい会社の在り方を実践したい。例を挙げると、投資者の一人と私でアップサイクルを切り口に空間デザイン等を手掛けているんです。その方と手を組んで、醤油とアップサイクルを組み合わせた空間づくりも店内で行いショールームの役割も重ねています。」

「150年前に誰かがつくったものを繋いでいく。醤油づくりを始める時から、それが私の役割だと決めてやってきました。つくり手は私ですが、私がつくっているんじゃない。誰かがつくってきたものを自分もつくらせてもらっている。そんな感覚なんです。」

「現在、大豆や小麦等の原料、生揚げ醤油などの原料の多くは外注していますが、将来的には、耕作放棄地を整備し畑を利用して、原料も一から自分たちを含む地元の人の手でつくれる環境を作っていく計画を進めています。それをこの会社では、10年かけて、１つずつ手前に戻していくようにしていけたらと。県内の他の醤油屋さんとも連携して、地場の産業を無くさないで済む“その土地の文化や味を繋ぐ”方法を探していきます。手段は色々あると思います。」

「その先に、醤油づくりに対して面白いと思う人が増えて、今よりももう一歩楽しんで醤油を食卓で使ってもらえるようになれたら嬉しいです。そこを通して「昔と今が繋がっている」と言えるようになりたいです。」

新しいカルチャーを少しずつ

店舗となる拠点は東串良町内で使われていなかった倉庫を自分たちの手で改修したといいます。

「できるだけ古くて使われていないところを探していました。まだ改修は完全に終わっていないのですが、この場所を再生させていくストーリーをゆっくり重ねていこうと思っています。」

店舗では雰囲気のある空間を活かし、音楽や植物、コーヒー等といった様々な切り口でイベントも開催されています。

「なんとなく興味が湧いたことに一歩踏み込み、関わってくれる人たちで空間を演出していくことで、他の場所にはないものになっていくのではないかと思っています。それがこの会社の一番面白いところかなと。」

「醤油を買わなくても、２Fで自由にお喋りしたり、本を読んだりできるような空間にしています。なので、気軽に足を運んで日常的にも使ってもらえたらとも考えています。そうすれば、みんなの場所に自然となっていくと思います。」

村山さんは、この場所だけではなく、東串良、そして、鹿児島を醤油屋として、どうワクワクするものにしていくか。その切り口も探求されています。

「近くに2年前に私たちで空き家を改装してオープンした『Food&spice Soerw Coco』というお店があるのですが、毎週木曜日に山中醤油で串焼きの販売を一緒に行っています。醤油屋ならでは楽しみ方を提案しつつ、地元の食材や珍しい食材を使うことで、気に入ったお客様が別の日に、それを取り扱っているお店に行ってもらえるような導線づくりができたらと考えています。」

「東串良の商店街も空き家が増えてきて、その問題を醤油とデザインの切り口で解決できないかなと模索しているところです。例えば、空き家を会社で買う、もしくは、借りて「何かしたい」と思っている人たちを応援できるような種蒔きをしていこうと思っていて。」

「ただ、それは私たちの会社だけではできません。地元の皆さんがそれぞれもっている職人技もですし、東串良について知らないことも多いので情報や知恵も必要です。そして、民間ではできないこともあるので、行政のサポートも不可欠かなと。」

「住む場所や環境は違えど、同じ鹿児島でも抱えている課題は近いものだと感じています。そんな県内各地で様々な動きをされている方々がたくさんいらっしゃいます。だからこそ、そういった方たちとも繋がることで学ばさせてもらったり、私たちにしかできないことでサポートしたりできるような関係性をつくって、一緒に面白い場所を作っていきたいです。」