【鹿児島県錦江町】日常に散りばめられた協働のタネを“たがやす” / 特定非営利活動法人たがやす 馬場みなみさん
インタビュー
鹿児島県錦江町にて今年春に設立された『特定非営利活動法人たがやす』は農福連携・認知症フレンドリー・民営図書館の運営といった3つの活動をされています。そこの代表理事でもある馬場みなみさんに活動をされる上で大切にされていることについてお話を伺いました。
「普通」や「社会」を問い直す
高校まで地元・兵庫県の高校でバレーボールに熱中していたみなみさん。
ゲームキャプテン(※1)として試合時にチームをまとめる役割を担っていたといいます。
そんなみなみさんが進学したのは福祉を学びながら、留学経験ができる大学でした。
「NPO論や国際ボランティアに興味があって「この大学しかない!」と思いました。講義の内容も充実していて、期待していた通りの日々でした。」
「でも、フィールドワーク中にショックを受けたことがあったんです。それは貧困家庭を支援している方へインタビューした時のことでした。」
「直接的ではないのですが「あなたたちみたいに恵まれている人に…」と言われてしまって。それがすごいショックで、その場で泣いた記憶があります。」
「私たちの助けたいと思う気持ちに対して、それを相手は求めてないかもしれない。そう感じることが度々あって…。」
「勝手に「かわいそう」と思って、ちょっと上から相手を見てしまっている自分が嫌でした。どうやったら、その目線を取り払えるか、大学時代はずっとモヤモヤしていました。」
ある時、大学の講義で作家・岸田奈美さんの講演を聴く機会があったそうです。
聴いているうちに、それまでモヤモヤしていた気持ちが一気に晴れたといいます。
「障がいや貧困に対する偏見は社会がつくっているんだと感じました。その植えつけられた感覚をもった私たちがさらに偏見を広げてしまっているのではないかって。」
「岸田さんは講演の中で「私たちの普通や社会を問い直してみよう」という考え方を教えてくれました。様々なところで思いやりが欠けて分断を感じる中で、それはとても刺激的で、この考え方を広げていきたいと思いました。」
その後、就職活動の時期へ。
地域で自分が納得できる仕事をしたいと思いつつも、中々ピンとくるものに出会うことができませんでした。
そんな中、たまたま足を運んだ東京のイベントで錦江町の行政職員と知り合うことになります。
「ちょうどゼミの先生が錦江町に行くと担当の方から聞いて、それに便乗して遊びに行くことしました。」
「その時は錦江町のことも地域おこし協力隊(以下:協力隊)の制度のこともよく知りませんでした。まさか、それがきっかけとなって錦江町で働くことになるとは思ってもいませんでした。」
「べき論」からの解放
何度か錦江町へ通ううちに地元の人や取り組みに心魅かれて地域おこし協力隊(以下:協力隊)として着任することに。
「錦江町の皆さんとお仕事をするのが楽しそうだなと思ったこともですが、役場の担当の方が時間をかけて向き合ってくださったことも大きかったでした。安心感があったから決めたんだと思います。」
協力隊として記事執筆やインタビュー、移住誘致の仕事をこなしつつ、
仕事の合間に農業や狩猟の資格といった様々なことにもチャレンジしていきました。
「やりがいも楽しさもあるのに、次第にモヤモヤするようになってきて。それで「これが本当にやりたいことなのか?」「苦なくできていることは何なのか?」と振り返ることにしました。」
「私がやってきたのは周りの仲間と知恵を出し合ったり、お互いを活かし合う関係性をつくったりすることでした。つまり、ひたすら人と向き合い、一緒に前に進んでいく方法を考えていていたんだなって。」
「それまで私は一人で生きていくための技術を身につけることに注力していたことに気づきました。もちろん、それも大事なのですが、皆で肩を組んで、足りない部分を補い合う関係性をつくりながら生きていくことの方が楽しいと思ったんです。」
「例えば、自治会の中で、農家さんなんだけど水源の掃除をするとか。単発単発で、それぞれの場所へ行って、できる人ができることをやっていかないと地域がもたないと感じていたからかもしれません。」
協力隊時代、自身が企画した対話の場が印象に残っているといいます。
「編集者の方から生き方をテーマにお話してもらいました。地域の色々な職種や立場の方が参加されたのですが、嬉しかったのは皆さんが自身の想いを本音ベースで話してくださったことでした。」
「相手に伝わらないといけないとか、うまく話さないといけないとかではなく、周りを気にせずに自分の言葉でポツポツと話せることが大事だと思っています。」
「「〜〜しないといけない」という先入観をどう取り払っていくか。場をつくっていく中で、そこを意識するようになりました。」
また、協力隊の同期が隣町の障がい福祉施設『花の木農場』と連携し『花の木農場Ⅳ ツクルプロジェクト』を立ち上げ、そこにも関わっていったそうです。
「このプロジェクトでは「〜〜すべき」という考えをできるだけ持たないことを大切にしています。正解がなく、ゴールもない。それが当たり前の環境は最初は戸惑うかもしれません。でも、私の中にある「べき論」から解放されて、とても生きやすくなりました。」
「障がい者と関わることで、当たり前に思っていたことや私の中の「普通」に気づき、相手の当たり前の尊重するきっかけになっていきました。」
関係性を“たがやす”
今年の春に協力隊を卒業後、地域の仲間と一緒に『特定非営利活動法人たがやす』(以下:たがやす)を立ち上げました。
農福連携や認知症フレンドリー、民営図書館の運営といった活動をされています。
「通常“たがやす”は土を掘り起こし、土壌をつくる意味だと思いますが、それに加えて、土壌に鍬で新しい空気を入れるように、柔らかく、暮らしている人がいきいきしていられる文化をつくっていけたらという想いを込めています。」
「関係性を“たがやす”というとかき混ぜるイメージが私にはあって。他にも、自分の偏見をひたすら外して学び続けるといった点は私的には“たがやす”とイメージが結びつきます。」
「事業の1つとして、認知症の症状がある方の自己選択・自己決定のサポートするお仕事をしています。認知症になると普段暮らす中で「できない」と思うことが増えますが、それは社会や周りの人が「できない」と感じさせているのではと思っていて。」
「私は福祉の専門領域ではありません。ただ、祖母が認知症であり、自分ごととして感じています。だからこそ、相手の人となりを感じながら、想いを汲み取り、その人がいきいきと暮らせるような関係性づくりができたらと思います。」
今年6月からは『みんなの図書館 本と一筆』の運営を開始。
たがやすメンバーや本棚オーナーさん(※2)の本や寄贈された本を読めたり、好きな勉強をしたり、お話したり等、様々な過ごし方ができます。
「ある人はこの場所で色々な人と出会うことができたとおっしゃってくださっています。そういうタイミングがあるのも嬉しいですよね。」
「本を置いてくださった方にメッセージを添えていただくようにお願いしています。そうすることで本を温度感がある形でご紹介できるかなと考えていて。」
「メッセージも簡単な一言もあれば、長文もあったりと様々です。たまに「こんな感じでいいですか?」「え?こんなのでいいの?」と聞かれるのですが、評価なんて気にする必要はないと思っています。」
「色々な過ごし方や世界観を肌で感じてもらうことで「これでもいいんだ」と思ってもらえたら、それが生きやすさにも繋がりますし、周りを気にせずに自然体で過ごせるようにもなるかなと。」
「私たちはたまたま3つの事業を行っていますが、それ以外にも日常には「こんな考え方があるんだよ」と問い直すタネが散りばめされています。問い直した先に協働といったものが芽生えてくると思っていて。」
「まだまだ力不足ですが、そんな雰囲気や関係性を“たがやす”一人として、そのために、私自身も組織自体も常に変化していきたいです。」
屋号 | 特定非営利活動法人たがやす |
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URL | |
住所 | 鹿児島県肝属郡錦江町神川3306-4 2階図書室 |
備考 |
<開館日>※時間変更の場合があります。 [本棚オーナー募集中] |