【鹿児島県曽於市】バラバラなようで全ては繋がる。だから、日常が楽しくなる。 / 橋口金物店 橋口由紀子さん
インタビュー
鹿児島県曽於市財部町にてご家族と『橋口金物店』を営む橋口由紀子さん。そんな橋口さんから金物屋として過ごす上で大切にされていること等についてお話を伺いました。
一期一会の出会いを大事に
小学生の時、アメリカ人のハーフの子どもと遊ぶ機会があり
次第に海外に対する興味が強くなった由紀子さん。
中学校になるとアメリカでホームステイを経験することになります。
「ホストファミリーの皆さんはとても優しかったです。でも、文化の違いに慣れていなかったからか、後半の生活は精神的に不安定になってしまって…。そんな私をステイ先のお父さんは色々連れ出してくれました。」
高校生になり、再びアメリカでホームステイをする機会になった由紀子さんに届いたのは悲しい報せでした。
以前お世話になったステイ先のお父さんが癌で亡くなってしまったのです。
「また会えるかもしれない。そう思っていた矢先でした。あんなに優しくしてくれたのに、あれから少しだけど英語が話せるようになったのに…。そんな気持ちと寂しさでいっぱいでした。」
「そのことがきっかけで、一期一会ではないけれど、一つ一つの出会いを大切にしていこうと思ったんです。それが私のとって人生の基礎になっています。」
その後は、大学進学で関西へ。
「冒険心が強くて、魅力的だと感じたところには足を運びました。旅先で知り合った人と仲良くなるのもですが、失敗して恥をかくこともあって、それを含めて楽しめました。」
就職活動の時期になると「インテリア関連のお店に勤めたい」と思うようになった由紀子さんは、以前から興味があった会社にアポをとり、話を聞きに行きました。
しかし、採用には至らず。
「その会社の社長さんに「何年か社会人経験を積んでからでも遅くはない。実家の金物屋で仕事をしてみては?」と言われました。」
「正直、その時はピンときませんでした。実家が金物屋だったとはいえ、大した手伝いもしていなかったので。」
結局、就職は宮崎県内のホテルへ。
そこでは5年間の業務の中で、通常のゲスト対応から皇室関係、サミット等の大きな経験も積む事となります。
全てが自然に繋がっていく
就職して数年経ったある時のこと。
日韓ワールドカップが開催され、勤務先のホテルに参加する1チームが宿泊することが決まりました。
「他の従業員より少し英語が話せたこともあってか、そのチームとのやりとりや現地滞在の段取りを担当することになったんです。」
「このような大きなイベント関係なく、海外のお客様がいらした時に、私が対応することが多くて、英語からは逃れられないなと思いました。」
英語をさらに極めてみようと意を決し
仕事を辞めてロンドンへ留学することに。
「ただ、英語を使って何かを学びたいという以外は決めていませんでした。色々調べて、美術史と建築を学べる学校へ入ることにしたんです。」
「おそらくですが、人生の中で一番苦労しました。英語のレベルは大したこともない、美術史や建築の知識もない。恥をかいてばかりでした。」
「そんな私でも学校の先生や一緒に過ごした友人たちは温かく接してくれました。皆さん、何かをしたい想いがある人ばかりで、影響を受けることも大きかったですし、たくさん背中を押してもらった気がします。」
ロンドン留学後は地元・財部へ戻り『橋口金物店』の手伝いをするようになったといいます。
「手伝いをしているうちに同級生から「子どもに英語を教えてほしい」と相談を受けて、そこから個別レベルですが、財部で英語を教えるようになりました。教え始めてからもう12~13年経ちます。」
「金物屋で働いていると、英語を教えた生徒がたまに買い物にフラッと来てくれることがあります。私が金物屋で働いていたことも知らなかった子もいるので「こんなこともしているんだ」って言われることもあります(笑)。」
「大学に進学する子が一人暮らし用にお茶碗を買いに来て、近況報告することもあって。まさかこうやって生徒がお客さんとしてやってくる日が来るとは思ってもいませんでした。」
そんな由紀子さんは先日母校の中学校にて生徒の前で自身についてお話する機会があったそうです。
「教育実習以来でした。中学校の時の原点でもあるホームステイから始まり、そんな自分が英語を教えて、母校でその生徒が聴いているって、本当不思議ですよね。全てが自然と繋がってきているんだと感じました。」
垣根を超えて、日常を楽しく
「金物屋を手伝ううちに気づいたのは、お客様あってこそお店ですし、そのおかげで私は好きなことができていたってことでした。」
財部に戻ってから由紀子さんが知らないご家族のことを地域の人から聞いて「ありがたい」「今まで地域でも外の世界でも多くの人にお世話になってきた」と感じるようになったといいます。
「旅行先でも留学先でも色々な人に親切にしてもらったから、モノをただ単に買ってもらうだけじゃなくて、プラスアルファな時間を提供できたらと思っています。」
「例えば、移住してきた人がいればその人の今後に繋がる誰かを紹介したり、お客様の時間に余裕があればお茶を出して世間話をしたりとか。無理なく、日常生活の流れの中の一環としてできたらなと。」
「新型コロナウイルス後は、日本へ旅行に行けない海外の方にオンラインで英語で商品の説明や急須のセッションをしたりもしました。なんだかんだ英語を使う機会もあって。」
「私は色々な日本内外周っていたからか「田舎だからできない」等といった垣根がありません。垣根がないからこそ、他の人と違ったことができるんだと思います。」
『橋口金物店』のインスタグラムでは商品紹介だけではなく、由紀子さんの日常も紹介しています。
「海外や介護の経験を載せることもあります。そうすると「実は私も介護をしていて…」「海外に興味があるんです」と声をかけてもらえるんです。そこから広がって、色々な人に来てもらえるようになりました。」
「インスタグラムを始める時、友人からは「器の紹介をすればいいよ」とアドバイスされました。でも、それって「私らしくないな」と思って。全然統一感はないのですが、それが私なんです。」
「大きな目標があったわけではないですが、その時々の好奇心の赴くままに過ごしてきました。やってきたことはバラバラですが、今はいつの間にか全てが影響し合って繋がっている感じがします。」
「金物屋として落ち着きつつありますが、扱っている商品はバラバラです。でも、色々なものに良さがあると思えるのは、文化の違う色々な場所へ赴き、多くの人に出会うという統一感のない人生を送ってきたからだと思います。」
「全ての根源には何かをしたい気持ちがありました。見たいものがあれば見にいくとか、会いたい人がいれば会いにいくとか。そして、そこでは必ず誰かに温かく接してもらった思い出があります。」
「この金物屋から手の届く範囲の世界になりますが、今まで受け取ってきた温かさを出会った誰かに届けることで、その誰かにとって日常が少しでも楽しくなるきっかけをつくれたらと思います。」
屋号 | 橋口金物店 |
---|---|
URL | |
住所 | 鹿児島県曽於市財部町南俣11367 |
備考 | 営業日:不定休 |