【福島・白河市】子どもからお年寄りまで。すべてのひとにとって“つながり”が生まれる場所・アトリエ「みず文庫」
拠点情報
日本最古の公園である福島県白河市の南湖公園。園内の湖に沿って進んでいくと、アトリエ『みず文庫』が見えてくる。店内に入った瞬間、言葉では言い表せない温かみのある雰囲気に包まれ、時間が経つことを忘れてしまうことも。そんな「みず文庫」の温かい雰囲気はどのようにしてつくられているのかを知るため、取材に訪れた。
ゆっくり本を読みに来たり、子どもが「飴ちょーだい!」と飴をもらいに来たりと、ひとりひとりが自分のペースで“つながり”を持てるアトリエ『みず文庫』(以下、『みず文庫』)。『みず文庫』は、福島県中通りに位置する天栄村で出会った3人が立ち上げた。現在、メンバーの1人である家具職人の矢板 桂祐さんは旅に出ているため、今回はメンバーのよしもとみかさんと江藤 純さんにお話を伺った。
『みず文庫』という名前に込められた想いとは?
ことの発端は、全国各地でアートによる復興支援活動をしている『NPO法人3.11こども文庫』。
同団体の理事長である蟹江 杏さんが「東日本大震災で傷ついた子どもたちに絵本と画材を送ろう」と、知人や友人達へ送ったメールがきっかけとなり、世界中から絵本や児童書が集まった。こうして集まった本を置ける場所として福島県相馬市に文庫活動拠点となる「3.11こども文庫“にじ”」が設立。
『3.11こども文庫“にじ”』には、溢れるほどの絵本や児童書が送られてきた。その本の一部を、児童書の編集ライター業を営む江藤さんが預かることに。
その後、江藤さんは天栄村でコーディネーター業を営んでいたよしもとさんに「絵本を置けるところはないだろうか」と相談した
その後のことを、よしもとさんはこう話す。
よしもとさん:絵本を置ける場所を探していた2012年頃、木工・家具職人の矢板 桂祐さんと出会いました。その時、たまたま目に入った車が私と江藤が好きな『カングー』という車種であったため、車の持ち主であった矢板さんに「あのカングーに絵本を乗せて歩いたら楽しそうだね」と提案。すると、矢板さんは「やりましょー!」と快く返事をくれました。このような経緯で、私たちは移動絵本図書館として活動をスタートしました。
『みず文庫』という名前には3つの想いが込められている。
1つ目は、メンバーの3人が出会った天栄村は、お米やお酒が沢山の賞を受賞しており、“水”がきれいな場所として知られている。そのため、天栄村で生まれたという意味を込めて『みず文庫』とした。
2つ目は、『3.11こども』文庫の代表・蟹江 杏さんから「空に関係する名前を付けて欲しい」とお題をいただき、そのお題の答えとして”虹は太陽があっても水がないと生まれない、水は虹の友達”であるという意味を込めた。
3つ目は、移動絵本図書館という『みず文庫』の活動スタイルは、自由に移動する水の性質と似ていることから、移動文庫を表す言葉として“みず”がぴったり。そのように考え、“みず”という言葉を選んだ。
沢山の方とのつながりがあって今がある。
福島県内の各地に絵本を載せた車で訪れ、青空の下、絵本の読み聞かせを行ったり、訪れたまちのコンセプトに合ったワークショップを行ったりしている『みず文庫』。
そんな『みず文庫』が南湖公園にアトリエを構えたきっかけは、あるマルシェに出店したことだった。
よしもとさん:『みず文庫』がアトリエを構えている建物の隣に『lamp cafe』というカフェがあるのですが、そのカフェの敷地内で開催されていたマルシェに何度か出店させていただいたんです。それがきっかけで『lamp cafe』の一室で月に一度、お絵かき教室をはじめることになりました。それから2年が経った頃、『lamp cafe』の隣にある記念館の一室で、矢板さんが自分の作品のギャラリーをはじめる計画が動き出したんです。しかし、その年の秋、福島県郡山市で大水害が起きた影響もあり、実現困難となってしまい…。そこで空いた一室を「みず文庫で借りるのはどうでしょう?」と提案し、2021年にアトリエを構えることになりました。
沢山の本がある。本好きにはたまらない。
アトリエ『みず文庫』の店内に入ると、沢山の本が出迎えてくれる。
他にも、病院から譲り受けた棚に本が並べられていたり、廃校になった学校の教壇がイス代わりとして使用されていたりする。店内の時計は、矢板さんの知人の方からの贈り物だという。また、家具を天栄村から運ぶ際には、天栄村にある米農家の方がトラックを出してくれたりと、沢山の方とのご縁やつながりによって今があるとのこと。
「ありがとう」という言葉が溢れる場所に。
『みず文庫』は、2023年5月で10周年を迎える。取材の最後に今後の展望を伺った。
「最近、お客さんとお話をする機会が多くなり思うんですよ。子どもからお年寄りまで幅広い年代の人が来て、ほっとするような場所に『みず文庫』がなってくれたら嬉しいなと。もっと沢山のお客さんとお話をしていきたいですね」と優しい笑顔で語る江藤さん。
「『みず文庫』に来て下さり私たちとお話をしたお客さんが、さらに新しいお客さんを連れてきてくれる。そんな多くの人が行き交う『みず文庫』は、“不思議な交差点”のような役割を果たしているなと感じます、この場所で私たちに出来ることを丁寧に、楽しくやっていけたらなと思っています。そして、「ありがとう。また来ます。」といった言葉をもらえるような場所に『みず文庫』がなってくれたら嬉しいです」と優しく包み込んでくれるような雰囲気で語るよしもとさん。
お二人はお客さんに向けて「『みず文庫』との関わり方はどんな形でもいい」と話す。
例えば、「飴をもらいに来ました」「本を通して沢山の方と繋がりたいんです」という時。また、”つながり”を見つける一歩を踏み出そうとしている時など。
お二人のある会話が印象に残っている。
よしもとさん:人と人との“つながり”って、ひとつひとつの輝く星が繋がってできる星座に似ているんだよ
江藤さん:ちなみに“星座”って結び方が自由らしいね
お二人のこの会話には、「“星座”の結び方が自由であるように、自分にあった“つながり”方を自由に見つけてほしい」という想いが込められてるように感じた。
「ただ居ることの大切さ」
今後の展望を聞いていた際に、江藤さんがお話ししてくれた一つの言葉が今でも心に残っている。
江藤さん:今の時代、若者は「有用な人にならないといけない」とせかせかしている人が多いと感じます。でも、人は人じゃないですか。与えられた命があって、その命を全うすることが基本。その上で、有用な人になりたい人はなれば良いと思います。
江藤さんは温かいお話を続けて下さった。
江藤さん:“自分が楽しく生きられることが大切”という価値観が今の時代すごくおろそかにされている気がします。なので、アトリエ『みず文庫』に来ていただいたお客さんには「あなたが居てくれるだけで嬉しいよ」という雰囲気が伝われば良いのかなと思います。
「あなたが居てくれるだけで嬉しいよ」
この言葉が、アトリエ『みず文庫』の相手を優しく包み込んでくれるような、温かみのある雰囲気を作り出しているのだと感じる。
いつ誰と訪れても、ゆっくり抱きしめてくれるような温かい雰囲気で優しく迎え入れてくれる『みず文庫』
そんな『みず文庫』が私だけでなく、誰かにとっても大切な場所となりますように。
名称 | Atelierみず文庫 |
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URL | Instagram:https://www.instagram.com/mizubunko/ Facebook:https://www.facebook.com/mizubunko/ |
住所 | 〒961-0815 福島県白河市五郎窪38-1 魔法のランプ横 |
営業時間 | 11:00~17:30 |
定休日 | 月・水曜日 |