【東郷町】地域に愛されるリノベーション会社の新たなチャレンジ「ハルキテラス」
インタビュー
愛知郡東郷町は自然豊かな環境と名古屋や豊田へのアクセスの良さから、暮らしやすさには定評のある人気エリア。一昨年、待望の大型ショッピングモールが完成したことで、さらに熱い注目を集めています。今回訪れたのはそんな東郷町でいま話題の「ハルキテラス」。およそ200坪もある広場の一角には、古民家を生かしたお洒落なパン屋さんも併設されていて、毎日行列ができるほどの人気ぶりだそうです。
小春日和のこの日、広々としたハルキテラスを望むように建てられたコンセプトルームの中で、ハルキテラスを運営する住工房株式会社の野々山善雄社長にお話をお聞きしました。
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東郷町で創業27年。
普段着の自然の中でみんなが集まり長く愛される場所を目指して。
――大きな窓から望む芝生の広場。開放感がなんとも言えず心地よいですね。
「この景色と雰囲気をたくさんの方に楽しんでいただきたくて、広いテラスを作りました。住工房はリノベーションを専門に東郷町で27年前から親しんでいただいている会社ですが、このテラスはリノベのお客様だけでなく、常に多くの人が集まれる場所にしていきたいと考えているんです。」
――東郷町といえば名古屋や豊田にも近く、便利で暮らしやすいまちとして人気のあるベッドタウン。若い世代のファミリーも多いイメージがあります。
「そうですね。アクセスも良くて便利ですよ。しかし、あまりこれといった特徴がなくて、これまでなかなか発展しなかったんです。2年ほど前に東郷町にららぽーとができたのを機に、ようやく少し活気が出てきたかなというところですね。実はもともとうちの会社の事務所はららぽーとの予定地の中にあって、区画整理によって移転しなければならなくなってしまったんです。それでこの場所に移ってきたという経緯があるんです。」
――そうだったんですね。移転先としてこの場所を選んだのには何か決め手があったのですか。
「いろいろと場所を探していた頃に、ここに立ってまわりの風景を見渡してみたら、ご覧のように周囲に広々とした田畑が広がっているだけなんですが、何よりもこの景色が一番の魅力だと感じたんです。東郷町にはこうした自然がまだまだたくさん残っていますが、山や海、川などといった、いわゆる風光明媚な自然ではありません。でも、それこそがこのまちの良さなんじゃないかと思うんです。今回の移転も我が社にとって一つのチャンスと捉え、普段着のような気取らない自然の良さを改めて見直してみようと思いました。」
気取らないマルシェ、ゆるい雰囲気で楽しむワークショップ、
誰もがふらりと立ち寄れる楽しい場面を暮らしの中に。
――広いテラスが、のどかな雰囲気の中に馴染んでいます。
「ここをこれからできるだけたくさんの人が集まれる場所にしていきたいんですよね。移転前からも陶芸教室などを開催していたんですが、中途半端な感じだったので、ここではワークショップとかマルシェとか、これまでやりたかったことを思い切ってやってみようと思っています。マルシェといっても大きなイベントというより、ふらりと来てくれた方が気軽に立ち寄ってくれるようなものがいいですね。そういうことが日常的に行われていて、いつもハルキテラスに人が集まっている、そうなったらいいなと。あともうひとつ、ものづくりに注力していきたいという思いがずっとありましたので、今回の移転を機にやっと念願の工房も設けました。」
――工房はどのように活用される予定ですか。
「建具も作れるような本格的な機械を導入しましたので、リノベーションのお客様のためにオーダーで仕上げるものを中心に作っていく予定です。本当は自社で工房を持つというのはビジネスモデル的な視点で考えたら時代の流れには逆行しているのかもしれません。今は縮小したり無くしたりしていく場合の方が多いし、外の業者さんにお任せした方がコストも抑えられますしね。でも私自身がものを作ることがすごく好きなので、やはりそこは丁寧にやっていきたいんですよね。」
ものづくりをとおして日常と非日常をつなげたい。
――それはお客様にとってもメリットが大きそうですね。そして、敷地の一角にはおしゃれなパン屋さんもできました。
「現在、パンのお店として使っているあの建物と駐車場になっている場所は、移転してきた当時まだうちの敷地ではありませんでした。あの古民家に一人で暮らしていたおばあちゃんが体調を崩されて、やむなく手放されることになったんです。おばあちゃんにしてみたら、住み慣れた家を離れることは不本意だったでしょうし、さみしい思いをされているだろうなと。それでうちが譲り受け、できるだけ壊さずに元の姿を残す形でリノベーションして、お店としてもう一度生かしてあげようということで開いたのが『パンと庭』なんです。」
――そうだったんですか。建物だけでなく、おばあちゃんの想いも受け継ぐことができたのは本当に良かったですね。
「オープン初日には親戚のみなさんを呼んで店の前で記念撮影をしたり、とても喜んでくれました。そんな様子を見て私たちも嬉しかったですね。おばあちゃんはまだご近所に住んでおられるので、自分の家だと思っていつでも来てくださいね!と言っています。」
――パン屋さんをやろうと思ったのはどうしてですか。
「建築やリノベというのは非日常のものじゃないですか。家を買うのも建てるのも一生のうちに一度か二度しかないことですから。そんな日常と非日常をなんとか結び付けられないだろうかと考えたんです。パンはまさに日常のものですよね。レストランやカフェでも良かったんですが、もっともっと気軽に、できるだけ多くの人に集まってもらえるお店にしたかったんです。それと、もともとこの地域にパン屋さんがなかったこともあって、私自身もいいパン屋さんがあったらいいなと思って。」
古民家を生かして開店した「パンと庭」。
オープンの裏にはさまざまなドラマが…
――いつも大変な賑わいで、評判は上々のようですね!
「おかげさまで今は順調に提供できるようになりましたが、オープン直後には大変なこともあったんです。オープンは昨年の12月だったんですが、初日から60mぐらいの行列ができて、それを見た時に、ああ、これはちょっと無理かも…と不安がよぎって。それでも応援のスタッフがいてくれたことでなんとか4日間は乗り切れたんですが、5日目には悩みに悩んで一旦クローズ。お客様の立場に立って考えてみたら、やはりちゃんとした商品を提供できないのならやめた方がいいなと。その時はまさに断腸の思いでした。」
――そうだったんですか。楽しみにしてくださっていた分、お客さまたちも残念だったでしょうね。
「あの時は本当にご迷惑をおかけしてしまいました。必ず再開したいという気持ちはありましたが、いつまで閉店状態が続くのか見えない日々。それでもやっぱり、いいものを作ってお出ししたい。その思いを、製造を担当してくれているパートさんたちに伝えると『私たちが頑張ります!』と言ってくれて。結局、2ヶ月の休業を経て今年2月に再オープンすることができました。」
――いいものを作りたいという社長の気持ちとスタッフさんの情熱がこもったパン。味にも期待しちゃいます。
「個性を売りにしていないので、どれもみんな素朴なパンばかりですよ(笑)。けれど毎日の暮らしの中で長く親しまれる味、また食べたいと思ってもらえるような飽きのこない味を目指したいんです。実はうちのスタッフは全員パンづくり未経験の人ばかり。これにも理由があります。使っているのは基本的に北海道産小麦100%なんですが、輸入小麦に比べてデリケートなのだそうです。経験豊富な職人さんだとそれまで扱い慣れたものとは感覚が違うかもしれず、あえてまったく未経験の人を採用し、しっかりとしたレシピに従ってゼロから学ぶつもりでやってもらうのがいいんじゃないかと思ったからなんです。」
大切な信念を守りながら、
これからも新しいチャレンジを。
「私たちがずっと心がけているのは絶対にフードロスを出さないということ。とにかく出したくない。売り切れたらその日はおしまい、という形でやっているので毎日ほぼ閉店時間前に完売しますが、もしも余ったら、自分たちで買う。そう決めて極力無駄を出さないように工夫しています。ただ、お客様にはせっかく来てくださったのにお目当てのパンが買えないというのでは申し訳ないので、カフェメニューもご用意して、店内やテラスで楽しんでいただけるようにしています。」
――ハルキテラスはこれからますますたくさんの人が集まる場所になっていきそうです。
「そうですね。やりたいことはまだいろいろあります。コンセプトルームと工房を2棟に分けて建てたために間に路地ができました。その一部を使ってインテリアショップもやろうと思っています。リノベーションまではなかなかできないという方でも、インテリアを少し変えるだけで家やお部屋のイメージは変えられるというアドバイスもしていこうと思っています。工房で作ったものなどもそこでご提案したいし、センスの良いコーディネーターもたくさんいますので、活躍の場ももっと広げていきたいですね!」
「強い個性よりも普段着のような日常を」。インタビューの中でその言葉を何度も口にされていた野々山さん。生まれ育った東郷町を一度も離れることなく、愛を持って長年ずっと向き合い続けています。地元の魅力を語れる人と何度も通いたくなる素敵なお店があるまちは、間違いなく居心地が良いのだろうなと感じました。
屋号 | |
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URL | 住工房株式会社:https://www.jyu-kobo.co.jp |
住所 | 住工房株式会社:愛知郡東郷町春木野渕16-1 |
備考 | 住工房株式会社:0561-38-7567 |