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わたしの山形日記/陶芸に魅了されて

連載

2022.12.11

やまがたにUターンして暮らす筆者が、なにげない日々のなかで見つけたこの街の魅力について綴る連載日記です。

陶芸が盛んな街、山形。県内各地に窯元がたくさんあり、山形市だけでも平清水焼や山寺焼、山家焼など、地域の名前を冠した窯がいくつかあります。
幼少時代、地区の子供会や学校行事で陶芸体験に行くことは珍しくありませんでした。我が家には家族がつくった器や置物がたくさんあり、お皿やどんぶりなどはいまだ現役です。手作りならではの温かみがある器たちは、その思い出と共に食卓を彩ってくれます。

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父がつくった鉢。長年我が家の食卓に並んでいます。
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わたしの初めての作品は、3羽のあひるでした。大きな池も一緒につくりたかったのですが、土が足りず、かろうじて1羽が入る小さな池が出来上がりました。順番に水浴びさせて遊んだ記憶があります。

昔から陶芸が身近だったせいか、いつからか「将来は自分でつくった器で生活したい」と思うようになりました。一年に数回作陶し、少しずつ作品を増やしています。

陶芸体験は通常1日で終わりますが、ある日つくりたいデザインを相談したところ、一度乾燥させる必要があり1日では終わらないとのこと。「3日後くらいに来れる?自分でやってみる?」と講師の方が言ってくださり、後日再訪し続きの工程をさせていただきました。これがきっかけで、1日体験だけではなく、その先の工程にも挑戦したいと思うようになったのです。

そんなとき、家の近くに陶芸教室があることを知り、一度行ってみることにしました。山形市の郊外に窯を構える「千陶房」。窯主の武田千秋さんは県外で修行されたあと、地元山形で独立されました。ご自身の作品作りの傍ら、20年以上前から陶芸教室を開いていらっしゃいます。アットホームな雰囲気で行われる教室は、初心者でも気軽に参加することが可能です。

千秋さんの作品の中で、個人的に好きな「陶の実」シリーズ。植物のような海洋生物のような鉱物のような、自然の中にある不思議な造形美を彷彿とさせるビジュアルは、いつの間にか惹きこまれ、ずっと「観察」してしまうような、目が離せない魅力があるのです。

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千陶房でひらかれた個展にて、目が離せなくなった置物たち。その独特のフォルムは、じっと見入ってしまう魅力があります。そのほかにも、食器、花器、オブジェなどさまざまな作品が並んでいました。
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一目惚れで購入した蓋付きの花瓶。蓋のデザインが花のような種実のような…やわらかい色合いと不思議なビジュアルに心うばわれました。

さて、今回は何をつくろうか迷った末、少し高さのある花瓶をつくることにしました。自宅に飾り切れていないドライフラワーがあり、それに合うような花瓶が欲しいなと思っていたところです。食器以外のものをつくるのはほぼ初めて。教室は2日間参加し、初日は土を練り花瓶の本体を成型します。1週間後、削りながら形を整え、持ち手部分を付けていきます。

初めにイメージ図を描き出します。ぼんやりと頭に浮かんでいたデザインの輪郭がはっきりとし、具体的になっていきます。次に土選び。「この土は焼くとこんな色」「釉薬を使うとこんな感じ」とサンプルを見ながら説明してくれます。今回は赤っぽい土でつくることにしました。

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焼き上がりのサンプル。いろんな組み合わせがあり、見ているだけでもワクワクします。

いよいよ土を練り始めます。手だけでなく、体全体をつかいます。千秋さんに倣ってやってみますが、想像以上にむずかしい。頭と体がちぐはぐな、ぎこちない動きになってしまいます。でも下手なりに練っていると、だんだんと土が柔らかくなり手に馴染んできました。むずかしいけどおもしろいです。

練り終えたら成型に入ります。今回の花瓶は高さがあるので、初めに土台をつくります。その上に、棒状にのばした土を輪っかにして一段ずつ重ね、筒状に成型していきます。

ちょうどよい高さになったところで、口の部分を整えます。今回は指でつまむだけの、いびつな形にしてみました。生花をいけたときに水換えがしやすいよう、片口風のデザインも加えます。1日目はここまでです。

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1日目終了。黙々と作業をしたり、他の生徒さんとお話したり…2時間があっという間でした。

1週間後、土が少し乾いたところで、今度は側面と底面を削ります。専用の道具を使うと、サクサク、ショリショリと気持ちよく削れていきます。側面は意外と厚いので大胆に、底面は穴を開けないように慎重に。形が整ったら、残った土でつくった持ち手をくっつけます。持ち手と本体の接着部分に細かい傷をつけると、傷がかみ合って取れにくくなるそう。持ち手をつけた後、さらに接着部分の土を少し馴染ませます。

次に白化粧をかけていきます。白化粧というのは、色のついた土に白色の化粧土を塗る技法のことで、白く焼き上がるのが特徴です。 白い土が手に入りにくい時代、白磁のような白いやきものをつくれるようにこの手法が広まったのだそう。すこしグレーがかったとろみのある化粧土をザルで濾し、花瓶を逆さまにしてドボンと沈めます。取り出してみると、とろりとした化粧土の質感が美しく、素敵な出来映えになる予感がしました。

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2日目終了。実はこのあと、持ち手がとれてしまうというハプニングがありました。接着があまかったようです。千秋さんが手直ししてくださいました。

釉薬は一緒にはかけられず、また花瓶は水が漏れないよう処理をしてくださるとのことで、その工程は今回お任せすることにしました。どんな風に仕上がるのか、完成がたのしみです。

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完成品がこちら。いびつな口もイメージ通りにできました。

2ヶ月後、完成したものを受け取りに陶房へ向かいます。この瞬間がいちばんワクワクします。出来上がりを見て、思わず「素敵!」とテンションが上がりました。化粧土をかけたのも初めてだったので、「こういう仕上がりになるんだ…」とまじまじと見つめてしまいます。

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ドライフラワーと共に。

「仕上がりは完成するまでわからない」、これが自分にとっての陶芸の魅力です。イメージ通りに出来上がると嬉しいですし、違っても新しい発見があっておもしろいです。そして「素敵!」と思った作品でも、かならず「もう少しこうしたらよかったかな」と反省点が見つかります。この小さな心残りのようなものがあるからこそ、何度もつくりたくなるのかもしれません。作品と対面するときのワクワク感は、初めての作陶から変わらず、わたしを魅了し続けています。

少しずつ作品が増えていくのがうれしくて、「これはあのときの」「あの人とつくったな」と時々眺めてはにんまりしています。つくりたいと思い立ったときにすぐつくれる、ほんとうに贅沢な環境です。初心者にも、もっと学びたい方にも、多くの窯が門戸を開いていて、自分に合ったペースで挑戦できるのが山形のいいところ。「次は何をつくろうか」と、のんびり考えるのもたのしみのひとつです。