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山形移住者インタビュー 鈴木美雲さん「山形で器を作る強みを見つけたいです」

インタビュー

2022.12.26

#山形移住者インタビュー シリーズ。今回は山形市で器作家として活動されている鈴木美雲さんです。
東北芸術工科大学への進学をきっかけに山形へ移住。在学中から住んでいた祖父母の家を譲り受け、卒業後はアトリエとして活用しながら器を製作しています。20代の鈴木さんは、器作家としては若手。まだまだ苦悩が絶えないと言いますが、「好きなことを仕事にしていられることが幸せ」と話します。山形で器を作ることのメリットだけでなく、その難しさについても伺いました。

 山形移住者インタビュー 鈴木美雲さん「山形で器を作る強みを見つけたいです」

古い器に触れて、この世界を突き詰めたいと思った

千葉県の出身です。両親共に東北出身者で、子供の頃からよく訪れていました。進学先に東北芸術工科大学を選んだのも、それが理由のひとつです。初めの1年は、仙台市にある祖父母の家から通い、2年目から山形市にある祖父母の家に移り住みました。卒業後に、こちらの家を譲り受けて今は製作の場兼住居として使わせてもらっています。

小さい時から絵を描くことが好きでした。反対に勉強はあまり得意ではなかったので、高校から美術系の学校を選び、そこで陶芸と出会いました。ろくろに触れたときに「ろくろを回したい」って願望が芽生えたんですね。その思いが強くなっていき、陶芸の学科がある大学を選択しました。でも陶芸の学科がない美大も多く、絵画などに比べると選択肢の幅は狭かったです。芸工大では「工芸コース」に陶芸の専攻があり、全体で30人だった中から陶芸を選んだのは10人。目指す人が少ない分野なのかもしれません。

「工芸コース」には、金工、漆芸、陶芸の3専攻があり、1年生のときは3つともひと通り学びます。私達のときには、ほかの学科に行く体験も含まれていて絵を描いたり、デザインを学ぶ授業もありました。2年生から専攻が分かれ、私は陶芸を選択。23年生は課題の量が多く、そこまで自由に製作はできていませんでした。

器作りをしようと本格的に思ったのは、3年生の終わり。課題のひとつに、私達が作った器に合わせて乃し梅で有名な「佐藤屋」さんが和菓子を作ってくださるものがありました。2種類の器を提出するのですが、ひとつは古い器を真似して作り、もうひとつは自分の好きなように作りました。その見本として出された古い器がかっこよくて、この世界を突き詰めたいって思ったんです。なんでしょうね。佇まい、雰囲気、色味も、すべてがかっこよかったんです。器を仕事にできたらいいなと思い始めたのも、同じ頃ですね。

山形移住者インタビュー 鈴木美雲さん「山形で器を作る強みを見つけたいです」
ろくろのおもしろさは「わからない。だけど楽しい」そうだ。

窯の蓋を開ける瞬間は怖い

作業場にあるろくろは、自分で作りました。大学のとき彫刻科の人からいらなくなった丸太をもらって作ったんです。電動のろくろもあると思うのですが、私のは足で蹴って回す原始的なもの。そんなに速くは回らず、自分の好きな速度に合わせて製作できます。古い器への憧れがあるので、そこに近づくためにもろくろは原始的なものにしました。

山形移住者インタビュー 鈴木美雲さん「山形で器を作る強みを見つけたいです」
切った丸太で作ったろくろ。足で蹴って回しながら使う。

窯は灯油窯を使っています。中古で10万円ぐらいで購入しました。いちばん原始的なものが薪窯と言われていますが、技術もリスクも伴うので、それに近い焚き方ができる灯油窯に。どういう仕上がりにしたいかで焼く時間は変わるのですが、私の窯の場合は12時間がちょうどいいみたい。器を作る工程で、結局は「焼き」が肝になります。どんなにいいカタチができたとしても、焼きがうまくいかなければ全部がダメになる。焼き上がるまでは完成なのかわかりません。安定もしないので、12時間焼いて「あちゃ〜」ってこともあります。焼き直しもできるんですけどね。それでも蓋を開けるときは怖いです。

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大きさによるが、30〜40個ほど一気に焼ける。

好きな作業は「削り」でしょうか。まだ生乾きの状態のときに、底を削る道具でカタチを整えていく作業です。いちばん集中していると思います。ろくろを回すときは雑念が多くなってしまって…。何も考えずにろくろを回すのが理想ですが、悶々と関係ないことを考えちゃってます。ある意味で器のことは考えずに作業できる時間ではあるので、集中できているのかもしれませんが(笑)。

山形移住者インタビュー 鈴木美雲さん「山形で器を作る強みを見つけたいです」
夏なら1日、冬は一週間ほど乾燥に時間がかかる。

製作には厳しい環境。それでもこの土地が好き

器を作る環境として雪国って実はあまり適していないんです。冬場は寒すぎて土が凍っちゃいますし、乾燥させている器も全然乾かなくて。ストーブの周りに置いて乾燥させても一週間はかかるんですよ。乾燥させているうちに中の水分が凍ってしまったら、また作り直しです。

それでもこの環境が好きなんです。たまに東京に行って戻ってくると「空気が吸える」って思います。山形のきれいな空気に慣れてしまったんでしょうね。私が住んでいる場所は、スーパーやコンビニ、飲食店も多い地域なので、生活のしにくさも感じていません。少し前までは車も持っていませんでしたが、とくに不便は感じませんでした。その暮らしやすい地域に窯や作業場が自由になる場所を確保できることが、山形にいる大きなメリットだと思っています。

原土といって自分たちで土を掘って器を作る方が増えているのですが、私も半分は購入して、半分は掘ったものを利用しています。まだ知識があまりないので買ったものと混ぜて使うことも多いんですけど、車を持って行動範囲が広がった分、これからはもっと取り入れていきたいと思っています。

山形移住者インタビュー 鈴木美雲さん「山形で器を作る強みを見つけたいです」
渋い雰囲気の器は、男性ファンも多い。

「くだものうつわ」さんという役目を終えた果樹を使って器を製作する木工所の方と知り合い、灰をいただいて使っています。釉薬は灰と石を混ぜて作るのですが、果樹から作ったものを使うと、少しピンクのような色合いになるんです。これも山形産にあたると思うので、土も釉薬もなるべく山形のもので固めてこの土地で作る強みにしていきたいですね。

ここ12年でInstagramからお声がけをいただくことが増え、東京を中心に7店舗ほど器を扱っていただいています。順調かと聞かれたら、うまくいっているとは言えないと思います。器を作る以外にアルバイトもしていますし。だけど、好きなことをしていられる暮らしは幸せです。作っているときは、楽しいですしね。今後、山形で陶器市やマルシェなどに出展できたらいいなと思っています。

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鈴木さんの器購入についてはInstagramで販売店舗情報や最新情報をチェック。

 

写真:根岸 功
取材・文:中山夏美

鈴木美雲さん https://www.instagram.com/suzuki._.mikumo/