【鹿児島県伊佐市】火のある暮らしを皆で楽しむ宿 / その火暮らし 林峻平さん
インタビュー
自分の手で暮らしに関わるものをつくれる可能性を秘めた古民家との出会い
2018年の夏に伊佐市の地域おこし協力隊(以下:協力隊)として着任された林さん。
住む場所や食べ物、日々使う道具など、暮らしに関わるものを自分の手でつくってみたいという想いや、大学時代を北海道で過ごした背景から伊佐にご縁を感じ、移住を決意されたそうです。
「協力隊の着任前に市役所の方にまちを案内していただいたのですが、地元の人たちの面白さやご飯の美味しさに心掴まれたのも伊佐に移住した理由の1つです。」
「伊佐市として初めての協力隊の募集だったので、色々チャレンジできると思いました。」
「ちょうど30歳になり、今後の人生について考えていた時期だったので、大学卒業後に勤務していた民間会社を退職する決断ができました。」
着任後は観光振興や情報発信をミッションに活動されることになります。
協力隊として活動し伊佐のことを知っていく中で、伊佐での暮らしを体験し、もう少しゆっくりと滞在を楽しんでもらえるような場所をつくりたいという想いが強くなり、そのための物件を探していきました。
その中で地域の不動産業者から情報提供をしてもらい、現地へ足を運ぶと運命の出会いを果たすこととなるのです。
それが現在『その火暮らし』として生まれ変わった古民家との出会いでした。
「廃墟に近い状態で、正直負のオーラが漂っていました(笑)。部屋に足を踏み入れるとコウモリが出てきてびっくりしましたし。」
「地域の皆さんからは「この家はやめたほうがいいよ」と言われるレベルでした。でも、色々な古民家の改修現場へ研修で行かせてもらううちに「これはイケるんじゃないか?」と思うようになって。」
「破損している箇所は多かったですが、梁や柱などの木材はとてもよいものが使われていて、まちにも近く、何より習字教室として昔は使われていて人が集まる場所だった話を聞いてワクワクしたんです。改修して、また人が集まるようになったら素敵だなって。」
色々な人を巻き込みDIYで改修していく構想を頭に描きながら古民家改修をスタートさせたのが2020年の2月でした。
時間をかけて、一人ではなく、皆でカタチにしていくこと
改修を開始しようと思った矢先
思わぬ事態が起こってしまいます。
それは新型コロナウイルス(以下:コロナ)の蔓延でした。
「プロに全てお願いしてしまうのではなく、参加型ワークショップ形式で改修の手法をシェアして皆でワイワイやりながら改修していきたいと考えていました。でも、それが難しくなって「どうやって進めていこう?」という不安や迷いが大きくて…。」
「お世話になっている方々のサポートをいただき、少しずつですがゴミの撤去や解体作業を進めて行きました。ただ、廃材の片付けなど、一人で作業する時間が長くて…。」
「一人でやっていると「やる意味はあるのか?」と自問自答することが多くて、それが一番辛かったです。」
コロナ蔓延の波はありましたが、世の中の状況を見極めながら断熱や、土間づくりに関するワークショップを開催し、少しずつ改修を進めていきました。
他にも改修段階のこだわりとして
伊佐の地域にあるものや廃材、古材を活用して空間をつくっていったことでした。
「暮らしに関わるものを自分の手でつくってみたい」といった想いも根源にあったので、机や椅子などの家具やできそうだなと感じたものはできる限り自身で作っていったそうです。
「途中、先が見えず、気持ちも落ちて「残りはプロにお願いしたほうがいいのではないか?」と思った時期もありました。そんな時に背中を押してくれたのは地域の方々や改修作業を手伝ってくださった方々だったんです。」
「ちょくちょく顔を出して「結構作業進んでいるね」と声をかけてくれたり、伊佐の土を使ったり廃材をリメイクして作ったものを面白がってくれたり、そういった方々の存在で気持ちが楽になりました。「手を抜けない、最後まで頑張ろう」と思えました。」
「前職時代に、このような経験や感覚はなかったと思います。時間をかけて、たくさんの人に関わってもらって少しずつカタチになっていく。欲しいものはすぐ手に入るこの便利な時代に「自分たちの手で暮らしに関わるものをつくっていくことの楽しさ」を実感できました。」
その日にしかできない体験を、ゆっくりと過ごしながら
紆余曲折を経て、2022年10月にプレオープン。
宿の名前でもある『その火暮らし』の由来は何なのでしょうか?
「友人と名前を考えていた時に「“その日(火)暮らし”っていいね」と、ふと挙がったことがきっかけでした。火のある暮らしを楽しめる宿がコンセプトだったので、火に纏わる名前にしたいと思っていたのでピンときました。」
「“その日暮らし”って、その日にあるもので生活を成り立たせるという印象があります。それにちなんで、お客様がいらした日の食材次第でメニューがちょこっと変わったり、火加減が難しい薪火で調理したり、その日ならではを提供したいと考えています。」
他にも伊佐市の地域おこし協力隊や林さんの信頼する仲間が制作した品々も随所に散りばめられおり、この宿ならではの時間や感覚を体感できます。
今年2月からは本オープンとして稼働されます。
改修やプレオープンを通した今後の展望について伺いました。
「僕がやってみたかった“火のある暮らし”をお客様にも楽しんでいただけていると感じています。」
「“お客様だから”サービスは受けるもの”というのではなく、ちょっと不便かもしれないけれど、火をおこしたり、薪をくべたり、ここでの体験自体を楽しんでもらいながら、一緒に火を囲んで過ごすことができたら嬉しいです。」
「そのためには僕が自分の暮らしを楽しんでいないといけないし、心の余裕もないといけないと感じています。」
「滞在する場所として、この宿を選んでくださったお客様に満足していただけるように自分自身がまずは無理なくゆっくり日々を過ごしていこうと思います。僕たち家族のためにやっている宿ということも忘れないようにしたいです。」
「皆さんの日々の暮らしと比べると、少し不便に感じることもあるかもしれません。でも、それを含めて、手づくりならでは時間や空間、そして、僕たちの暮らしの一部を楽しんでいただけたら幸いです。」
屋号 | その火暮らし |
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URL | |
住所 | 鹿児島県伊佐市大口渕辺303 |
備考 | ●ご予約フォームはこちらから。 ●宿泊料金はHPやご予約フォームからご確認ください。 |