【岐阜県郡上市】美しい町家の町並みを残したい
インタビュー
今や首都圏からの移住者も多いという岐阜県・郡上八幡。移住者のひとり、建築家の藤沢さんが、町家アートホテル「木ノ離」をオープンしたのは、コロナ禍の2020年6月でした。自分なりのやり方で、地域とともに空き家問題に向き合う藤沢さんに話を聞いてきました。
日本の伝統建築を残したい。
もともとは東京の不動産会社でキャリアをスタートした藤沢さん。マンション用地を仕入れる仕事をする中、住居を上に積み上げていくのは確かに効率がいいけれど、やはり暮らしは地面に近く、偶然通りかかる人と挨拶できる距離の方がいいのではと考えるようになりました。
地域のコミュニティとしても、家々を面で残していく方法を模索するため、まずは建築を学ぶことにしたのだとか。文系出身である藤沢さんが学校に通い始めたのは32歳の時。その2年後には2級建築士の資格を取得しました。
卒業後は、建物と屋外の関係性や庭の考え方を学ぶために、ランドスケープをデザインする会社で1年間のアルバイト。建築かランドスケープか、何をやりたいのだろうと悩みながら、3ヶ月はヨーロッパ13カ国を巡り、その土地の建築に触れたと言います。帰国後、個人邸リノベーションから建物の再生、ブランディングまでを手がける会社に就職。そして4年後の2014年に独立。
自身で建物を改修しつつ不動産業もできる設計事務所「スタジオ伝伝」を立ち上げました。「伝伝」という名には、日本の伝統建築と生活文化を次世代と世界に伝えたい、そんな想いが込められています。
宿をやる!という強い意志。
「地方のほうが伝統建築を残せるんじゃないかという思いも重なる中、以前旅をした時に、その町家の町並みにほれ込んだ岐阜の郡上八幡で空き家が増え、町並みが壊れていると聞き、居ても立っても居られず移住しました。」
空き家対策を行う「チームまちや」で2年間活動した後、2017年春に郡上八幡に自らの設計事務所を開いた藤沢さんがどうしてもやりたかったことは、伝統建築である町家で宿をやることでした。
「人口が減少する中で町家を残していくには、住居や店舗としてだけでは足りないと感じていました。泊まることで活用していくことが必要で、また宿泊することで、町家の良さも知ってもらえます。だから自分にとって、宿をやることはマストでした。ここは名古屋から1時間で来られる場所で、私自身も旅行者から始まっています。旅の視点で町家の住みやすさや伝統建築の良さを伝えられたらと思いました。」
とはいえ、宿の経験などもちろんないし、一棟貸しの宿なら他にもある。「スタジオ伝伝」が宿をやる意味や、『自分自身が楽しくやれる宿って?』と考えた時に浮かんだのが大好きなアートだったと言います。
「現代アートと古い町家って中々相性がいいんです!ここにアーティストさんが来て、定期的に作品を展示してくれたら自分も楽しいし、お客様も楽しんでもらえるんじゃないかと。アーティストさんと相談しながら展示の仕方を考えたり、地元のものづくりの作家さんと相談しながら商品を選んだり、時にはアイデアを交わしたりがとても楽しいです。それを、郡上を旅した人たちに見てもらったり、手に取ってもらえたりしたら嬉しいですね。」
偶然の巡り合わせで素敵な空き家を得たのは2019年。改修を終えて宿をオープンできたのはコロナ禍でした。何度もくじけそうになりつつ、それでも続けられたのは「宿をやるんだ!」という強い意志と、町の人たちの支えがあったから。宿に併設するショップでのイベントを「やり続けてくれてありがとう」と言ってくれる町の人たちの声を聞ける時は、ここへ来てよかったと思える瞬間だと言います。
※アートホテル「木ノ離」については、コチラにて詳しくご紹介しています。
相談事から始まる不動産屋に
空き家問題には不動産屋の役割も重要だと藤沢さんは言います。東京でも不動産を扱ってきた藤沢さんだからこそ思う、不動産屋の役割とは地域のいろんな相談事を受け入れられる場になることだと。地元に開いていて誰もが出入りしやすく、相談事から始まる地場の不動産屋になることで、地域の窓口となり、地域の人たちと一緒に未来を考えることができるのだと言います。
「実際に空き家問題は思った以上に深刻で、古い建物が古いという理由だけでどんどん壊されていくことに危機感を感じています。古民家の改修において、求められるのは設計デザインだけでなく、活用や運営さらには発信まで、周りを巻き込みながら仲間になってもらうことが大事です。1つの空き家だけでなく、地域の衰退化をトータルで相談に乗って助けになれるよう、いろんな人と関わり、一緒にやっていける体制を整えていきたいです。たとえアイデアがあっても、それを続けられる人が地元にいないと無理が生じます。その仕組みを考えていきたいし、「スタジオ伝伝」は建物や人の想いを伝えることで、人が繋がっていく場になりたいです。」と嬉しそうに語ってくれました。