【山形/連載】地域密着型スーパー〈エンドー〉へようこそ Vol.1
連載
山形市長町にある〈エンドー〉は、地域密着型のスーパーである。創業は昭和40年。以来、地元の人々に親しまれ続け、日々、さまざまな顔が集う。そこにある時間と、ここにしかない風景。今日のエンドーでは、どんなことに出会えるだろうか。
“やさしいカオス”で、みんないい気分
去る2022年11月26日、「立呑みエンドー」が開催された。3年前までは毎月のように行っていたものの、突然の新型コロナウイルスの流行で中止を余儀なくされ、感染状況が落ち着いたタイミングでようやく迎えたのがこの日である。夜のスーパーで呑めるなんて、大人にとってはちょっとした夢ではないだろうか。おいしいお酒と肴、さらにはマジックショー、ジャンケン大会もある。閉店後のスーパーが遊び場になるのだから、子どもたちにとってもそうかもしれない。
時刻は18時前。羽前千歳駅を出るとすぐに、小さな赤提灯が見えた。料理は“庄内の赤い彗星”こと〈メシとカシ りば亭〉による、多国籍なおつまみセットやスパイスの効いた菓子がメイン。エンドーのメニューは、馬刺しや塩辛、筋子おにぎりなど。もちろん看板商品のゲソ天もある。お酒はビールやワインに日本酒とほぼなんでも揃う。BGMは、武田太一朗さんによる沖縄三線の生演奏。その背景はお菓子の陳列棚だ。店主の遠藤英則さんいわく、「これがいつものエンドーです」。
すると、マジックショーが始まる。マジシャンTaishiさんの持っているスプーンに釘付けの子どもたちと、どんどんお酒が進む大人たち。中盤に行われたジャンケン大会では、勝っても負けてもその場にいた人たちはみんな喜んでいた。そんな様子を眺める店主も、やはり笑顔だった。リアルでなければ感じることのできない、その場に流れるムード。同じ空間で、互いに顔を合わせながら過ごす時間。なかなか久々の感覚だった。
「青春って、すごく密なので」。昨年夏の甲子園での優勝校、仙台育英の監督インタビューの言葉が、ふと頭に浮かんだ。ここ数年のあいだ、だれもが持っている行き場のない感情や、やるせない気持ち。若者にとっての青春はもちろん、人と人とがかかわり合いながら生きていくうえで、“密”は不可欠である。
さまざまな人が集うエンドーには、あらゆる人を受け入れる“やさしいカオス”がある。
初めて訪れたときに感じたのは、不思議な居心地の良さ。その理由を探るべく、これからは少しのあいだ、この地域密着型スーパーを追いかけてみたい。次に訪れるときは、どんなエンドーに会えるだろうか。
INFORMATION
エンドー
住所 山形県山形市長町2-1-33
電話番号 023-681-7711
営業時間 10:00-19:00(日・月曜休)
https://gesoten.jp/
写真:伊藤美香子
文:井上春香