【名古屋市中区】自らの経験と知識を若い世代と共有し、 町のハブとなる古物・資材屋に。
インタビュー
店の間口からは想像もつかない、広さ900平米を超える不思議な世界。古物やアンティークを扱う雑貨店であり、資材屋であり、工房でもある、「STORE IN FACTORY」という場所で、若い世代に向けて新しい時代の生き方や方法論を投げかけていきたいと、自らの経験と知識を惜しむことなく注ぎ込む、代表の原さんに話を聞いてきました。
STORE IN FACTORYの誕生
STORE IN FACTORYが名古屋栄に誕生したのは2019年の3月。奇しくも世界がコロナにのまれていく時期でした。
2014年に5年間の期間限定で立ち上がった中古家具を扱うセレクトショップ『THE APARTMENT STORE』が2019年でそのプロジェクトを終えたのを機に、2009年から中川区百船町で展開していたアンティークや古材を扱う雑貨店『STORE IN FACTORY』とを合わせた総合ショップを計画。
店舗と資材屋と工房が一緒になった、新しい『STORE IN FACTORY』が誕生しました。
ファッションから、建築・リノベーションの世界へ
父親が営んでいた大須の古着屋を継いだ原さんは2006年に独立し、2008年に同じく大須で、東欧のアパレルブランドとアメリカのヴィンテージ古着を組み合わせたファッションを提案する『store in history』をスタート。どの時代でもなく、どの国でもない、不思議な世界感を表現するため、この時の店舗内装はすべて自分たちで作り上げたのだとか。ところが、経営は思うようにはいかなかったと言います。
「洋服はなかなか売れず、お店が潰れかけている時、倉庫として使用していた物件の立退が決まるという事態に。
倉庫から次の倉庫にただ商品を移動させるだけでは本当にお店が潰れてしまうと思い、抱えていた在庫を処分しながらお金に変えられる倉庫兼店舗にしようと、中川区百船町の倉庫で『STORE IN FACTORY』をオープンしたのが2010年のこと。この倉庫との出会いが大きかったですね。一目で惚れ込んだ物件です。」
洋服が売れない一方で、評判を呼んだのがお店の内装でした。同じようなお店を造ってほしいという依頼が舞い込み、店舗・空間プロデュースへの道を見出しました。
ある時、イベントで古材の小屋を展示したところ、予想をはるかに超える反響を得て、その小屋を買いたいという人が現れたほど。この頃から書き始めた自身のブログも反響を呼び、ここからいろんな人との出会いが広がっていったと言います。
自分で見て感じて、経験した10年間の気づきを伝えたい
こうして、空間プロデュースの道に足を踏み入れた2010年からの10年間、海外の展示会にも自ら積極的に出向き、国内外でいろんな世界を見てきたという原さん。
大工、デザイナー、建築家、リノベ仕掛け人、プロデューサーなど、毎回、本物の人たちと出会えて自分は運が良かったと振り返ります。
「最先端と古道具って真逆のようだけれど、二足のわらじで見えてきたものがあって。デザインて何だろうとか、美しさには2種類あるとか。また、良いものでも世に出にくい、評価されにくいものだってあります。
そうしたことを伝えていくことを生涯のライフワークにしたい。『STORE IN FACTORY』はそのための店でもあります。この10年で自分たちなりに気づいたことを、じゃあ誰に向けて発信するのかを考えた時、自分たちの町の若い人たち、栄や大須に集まる人たち、これからどうしたらいいのか?と考えている若者たちだと思いました。だからこの街中に店を出すことに意味があったし、この場所との出会いで心が決まりました。」
自分たちの町を好きでいられるよう、アップデートしたい
名古屋市が魅力のない町に選ばれてしまったけれど、実際に暮らしている人たちは、心地よいと思っていて、暮らすにはいいところと実感しているはず。
ではどうして魅力がないのか?何かを外から持ち込むのではなく、今名古屋が持っているものをアップデートする必要があるのではというのが、原さんの仮説です。
「たとえば、同じように歴史があっても名古屋城は大切にされている一方で、水門や堀川、中川運河は注目される機会が圧倒的に少ない。それも含めて町なのに、古いものを残す意味を見出すことができなければ、残すことはリスクでしかなくなってしまう。
実際、中川区で最初にお店を出した時、2009年頃の笹島は物流の拠点でありながら土地も安くて面白いエリアでした。それが変貌したのはグローバルゲートをはじめとする再開発。
スクラップ&ビルドで街が新たにできることは良いことだけど、僕個人としては古い建物や倉庫が好きで、当時の中川にはまだ町の原風景がありました。古いものと新しいもの、どっちもある町がいいと思うんです。僕が個人で所有している倉庫は、今も芝居小屋として使われていますが、もともと3棟あった他の木造倉庫はすべてマンションになってしまいました。
そうした僕が見てきた名古屋の街の出来事も伝えていきたいし、チャレンジしたから失敗もあったし、革命も起きた。お店に来てくれた人には、僕たちの経験や知識は何だって提供したいと思っています。
それがお店をやる意味。圧倒的な見応えと、スタッフとの交流と、リアルにあるのが店舗の強みだから。名古屋をアップデートする面白い要素はまだまだいっぱいあります。それを僕たちと共有してもらえたらと思っています。」
実際、思った以上に若い人たちが来てくれるようになったという『STORE IN FACTORY』。また、ここで生まれたエネルギーを再び中川区エリアに持っていきたいと、今春には中川のお店を再開する予定。自身のスタートの地である中川の街は、人生を救ってくれた場所だと原さんは言います。
この地でもうひと頑張りしたい。中川のお店では、特にデザイナーやスタイリスト、コーディネーターといったプロや業者向けの古建材などを扱う古物ホームセンターのような存在に。一方で、栄のお店は迷い込む楽しさ、滞留する面白さがあります。いろんな人がふらりと立ち寄り、交流を楽しめる場になりそうです。