【山形・連載】まちを旅して、犬と働く。vol.1 馬見ケ崎川
連載
まいにち当然のごとくオフィスに通勤し、当然のごとくオフィスで仕事する、というようなワークスタイルの当然の呪縛からこの数年すっかり解放され、自宅はもちろんまちなかのあらゆるスポットに仕事場の可能性があることを改めて確認できたので、では次はなんだろうと考えたところ、やっぱり「犬といっしょに仕事できる場所をつくることしかあるまい」という結論に至り、そんな理想的スペースをまちなかに見つける旅へ出ることにした。
旅と呼ぶまでもないささやかな探索なのかもしれないが、とはいえ山形市のまちに働き暮らし生きる日々をより濃くより深いものにしたい、犬とともに過ごす時間をもっと味わい尽くしたい、という野心みなぎる試みであるのはまちがいない。そんなわけで、キャンピングカーに乗り込んで、さあ、しゅっぱつ。犬と働ける夢のオフィスは、このまちのいったいどこにあるだろう。
第1回は、馬見ケ崎川(まみがさきがわ)方面へ向かう。
市街中心部から車で10分、馬見ケ崎川の河原周辺は山形市民にとって大いなる憩いの場だ。春になれば桜並木が美しく染まり、夏になれば子供たちは川遊びし、秋になれば芋煮会でごったがえす。詳しくはこちらへ(real local 記事/小池イサ亜「わたしの山形日記」)。
2023年1月中旬の某日、この日の山形市内には雪がなかった。例年なら真っ白に包まれているはずの馬見ケ崎川の河原は、草木が枯れきってすこし物寂しいような色合いの景色のなかにあった。
山形市馬見ケ崎プール「ジャバ」からほどちかい場所になんとなくよさそうなスペースを見つけたので、車を停め、さっそく簡易チェアに腰をおろし、PCをひろげる。ここが今日のワークスペースだ。さて…と、急ぎやらなければならない作業に取り掛かりはじめる。パチパチとせわしなく仕事するその足元で犬がじっとこちらを見つめていてふとした拍子に目が合って互いに心を通わせる、みたいな素敵なシーンを勝手に思い描いていたのだが、そううまくシナリオ通りにいくものでもないらしい。犬は「なんでこんなところに連れてきたんだよぅ、このアホぅ」みたいな感じでかなりテンションがひくい。リードが許すかぎりのギリギリまで離れたところにペタリと座りこんで、呆れた感じでこちらにおケツを向け、まったく関心を寄せることなくはるか遠くを見ている。
この場所はけっして悪くはないのだが、国道13号線の橋の斜め下ということもあり、大型車が通り過ぎるたびになかなかに大きな音がけっこう響くのが気になってきた。うーむ、もうすこしいいワークスペースはないだろうか、と、すこしだけ上流へと場所を移動してみることにした。
林のあるエリアに来た。すっかりと葉が落ちてしまったもののそれでもなかなかに密集した木々のなか、わずかな隙間を縫うように散歩道がつづいている。歩きだしてみると、一歩足を踏み出すたびに枯葉や枯枝で覆われた地面の柔らかな感触が足裏から伝わってくる。いい場所だ。犬のテンションもあがってきたことが、歩くたびにフリフリするそのおケツの揺れ具合からわかる。
ちょうどよさそうなスペースに、チェアを置く。さあ、ここだ。こここそがぼくと犬の理想のワークスペースだ。やまがた最高。さあ、仕事だ、仕事だ。
しかし、こんどは犬がまったく落ち着かない。「おまえ、なにしてんだよぅ、あそべよぅ、歩けよぅ、走れよぅ、このアホぅ」と訴えかけてくる。そしてその訴えはついにおさまることがなく、結局まるで仕事にならなかった。
今回の旅はこうして終わった。
片付かぬどころかほぼ手付かずのままの仕事がこの手元に残っている。
つぎは、いずこへ。
つづく。