real local 鹿児島【鹿児島県鹿児島市】クラフトビールから広がる持続可能な福祉の世界 / ひふみよ株式会社 白澤繁樹さん - reallocal|移住やローカルまちづくりに興味がある人のためのサイト【インタビュー】

【鹿児島県鹿児島市】クラフトビールから広がる持続可能な福祉の世界 / ひふみよ株式会社 白澤繁樹さん

インタビュー

2023.03.08

ひふみよ株式会社』は「障がい者の経済的自立を実現する社会」をめざし、就労継続支援B型事業所を中心に福祉事業所を運営しています。2022年からは新事業としてクラフトビール事業が始動しました。代表取締役の白澤繁樹さんに障がい福祉事業を展開された背景等を伺いました。

【鹿児島県鹿児島市】クラフトビールから広がる持続可能な福祉の世界 /  ひふみよ株式会社 白澤繁樹さん

障がい当事者が主役になれるプラットフォームを創る

23歳のときに起業し、Webのコンテンツ制作やプロダクションの仕事を軸に事業を展開されていた白澤さん。

そんな白澤さんが福祉の世界に携わるようになったのは34歳の時のことでした。

新人スタッフの教育や仕事の進め方のファシリテーションといったコンサルタントの仕事を社会福祉法人から受けたのが始まりだったといいます。

「いざ福祉の現場に従事されている方とコミュニケーションをとりながら、それまでの私の経験や知恵を元に色々アドバイスしたのですが、企業向けコンサルと違い、なかなか響かない。これはどういうことだろうかと思いました。」

「そこで、職員の皆さんが日々接していらっしゃる障がい当事者やその親御さんのことをもっと知る必要があると感じたんです。」

「実際に話してみると私がいかに福祉に対して無知だったのか思い知らされました。過去に差別を受けた経験がある方もいれば、誰にも自分の苦しみを話せずに辛い日々を過してきた方もいて。」

【鹿児島県鹿児島市】クラフトビールから広がる持続可能な福祉の世界 /  ひふみよ株式会社 白澤繁樹さん
ひふみよ株式会社 代表取締役 白澤繁樹さん

関係性を深めながら、さらにコミュニケーションをとっていくと、ある事実を知ることになるのです。

「ある利用者(※1)さんと話していると、23日間働いて工賃が数千円ということに大変驚きました。「それって日給でしょう?」と聞き返してしまうくらい。」

「仕事内容を確認するとチラシを折ったり、箸袋にお箸を入れたりするものでした。仕事によっては、1つの単価が1円を切り1銭の世界なのです。なぜ、そういう仕事の舞台しかないのだろう、そういう舞台しかないのであれば、作ればいい。いままで培ってきた経験が活かせるはず。福祉のことがよくわからない私でも障がい当事者が主役になれる仕事の舞台を作ることはできるのではと思いました。」

「仕事そのものを変え、適正な対価をもらえるような仕組みを作り出すこと。それが私自身の命の使い方であると強く思いました。」

その後、2015年に就労継続支援B型事業所『ひふみよベース紫原』開所し、障がい福祉の世界を舞台に活動していくこととなります。

 ※1  障がい福祉サービスの中で就労継続支援を受けている人たちのこと。

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昨年からは自社で醸造したクラフトビールを楽しめる『Kagoshima Craft Beer Bar 次の朝』入口
【鹿児島県鹿児島市】クラフトビールから広がる持続可能な福祉の世界 /  ひふみよ株式会社 白澤繁樹さん
天文館・七味小路通りにて『Kagoshima Craft Beer Bar 次の朝』を運営

高付加価値のあるものを提供していくことで

『ひふみよ株式会社』では障がい者の就労支援としてチラシを折ったりする低付加価値・労働集約型の仕事ではなく、デザインやブランディングを志向した高付加価値の商品づくりに注力されています。

例えば、白澤さんが事業所を開所する前に障がいを抱えた方々といっしょに協働する舞台としてリリースした、当時としては珍しかったヴィーガンも食べることができる『Samurai Ramen UMAMI』でした。

「ポリシーや宗教など食の禁忌を抱えた方は従来のラーメンを食べることができない。そこに高付加価値のポイントがあるのではと考えました。酒精も添加していないので、イスラム教徒の方にもお召し上がり頂けます。また、インバウンドのお土産としても喜ばれるのでは?と考え、工場のラインでは製造できない、必ず手仕事が工程に入るスーベニア版も企画しました。」

【鹿児島県鹿児島市】クラフトビールから広がる持続可能な福祉の世界 /  ひふみよ株式会社 白澤繁樹さん
写真提供:ひふみよ株式会社 「Samurai Ramen UMAMI」のチラシ
【鹿児島県鹿児島市】クラフトビールから広がる持続可能な福祉の世界 /  ひふみよ株式会社 白澤繁樹さん
写真提供:ひふみよ株式会社 「Samurai Ramen UMAMI」

他にも当時、硬い表現が多かった福祉事業所の広報誌をフリーペーパー調に仕上げ、HIFUMIYO TIMESとしてリリース。その後、キュレーション系のwebメディア(※2)へ発展し、公開している記事のほとんどを障がい当事者が執筆しています。その記事の中には20万以上のページビューを記録したものもあります。

「記事を書くということはインプットとアウトプットの繰り返しです。支援の視点でみても理にかなっています。福祉的就労と一般就労の間にある汽水域みたいな領域です。取材など社会と触れる機会なども提供しています。」

※2  一般的にまとめサイトと呼ばれている。ネット上の各サイトやページを個別訪問して情報を集めるよりも、効率的にリアルタイムの情報に辿り着くことができるのが特徴である。

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写真提供:ひふみよ株式会社 自社で制作されている「ひふみよTIMES」のフリーペーパー版
【鹿児島県鹿児島市】クラフトビールから広がる持続可能な福祉の世界 /  ひふみよ株式会社 白澤繁樹さん
写真提供:ひふみよ株式会社 自社で制作されている「ひふみよTIMES」のフリーペーパー版

リスペクトが基本。さまざまな人が力を発揮できるステージを構築していく

昨年からは新しい取り組みとしてクラフトビール事業を始められました。

「例えば、うちで関わっている利用者の方は色彩感覚や図形の捉え方など個性的で商業デザインにおいても作品を活かしてきました。私自身、強く思うのは、一点突破のように突き抜けた才能や能力を持つ彼らの個性を世の中はもっとリスペクトすべきだし、それを伸ばせる舞台を私たちが準備していく必要があるということです。」

「何より、自分たちが取り組んだ時に楽しいか?という視点を大切にしています。福祉だからといって、スタッフが夢中になれないことを利用者に押し付けてはならないと思います。」

「次の舞台を検討する中で、クラフトビールにしようと考えました。クラフトって直訳すると“手仕事”ですよね。クラフトビールは多くの手仕事が残る業界です。様々な個性とのマッチング性が高いはず。だからこそ、あえて昔ながらの作り方にこだわりました。」

「効率化や生産性を叫ばれる時代に逆行しているやり方かもしれませんが、それが価値として、表現として、個性として面白いと言われるからこそ、自分たちが手がけるべきクラフトビールなんだと感じました。」

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『Kagoshima Craft Beer Bar 次の朝』店内
【鹿児島県鹿児島市】クラフトビールから広がる持続可能な福祉の世界 /  ひふみよ株式会社 白澤繁樹さん
『Kagoshima Craft Beer Bar 次の朝』店内

醸造所ができてからは、白澤さん自ら現場へ入り、ワークフローを組み立て、データを取りながら試行錯誤を繰り返しているといいます。

「仕事のブレークダウン。これにつきます。そして、複雑な工程を間違えないようにする工夫は実際に現場で動かなければ実現できません。私はあえて福祉的標準化と呼んでいますが、多くの仕事に彼らをはじめとする様々な方々に参加していただくためにはとても重要な要素です。」

「そうすることで、自分が担当する仕事の持ち場が生まれます。これは、自己肯定感を高めることにも繋がるのではないかと思っています。役割を担っている瞬間は誰だって主人公ですから。」

「障がい福祉事業を進めていく中で、今まで縁遠かった福祉というものを学んでいます。福祉は障がい者や高齢者、子どもといった枠組だけではなく、これは国民全員が享受する権利です。」

「だからこそ、法律で定義されている障がい者だけではなく、生きづらさを抱えていたりする様々な境遇の方も含め社会的にサポートできる仕組みがもっと必要です。そういう意味で私たちの醸造所はソーシャルファームを目指すべきであると思っています。」

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『Kagoshima Craft Beer Bar 次の朝』店内
【鹿児島県鹿児島市】クラフトビールから広がる持続可能な福祉の世界 /  ひふみよ株式会社 白澤繁樹さん
『Kagoshima Craft Beer Bar 次の朝』店内

ソーシャルファームを通して広がる持続可能な福祉

「鹿児島は薩英戦争で敗戦し、イギリスから学んだ背景があります。そんなイギリスでさえ、国の財政が厳しくなり、障がい者の支援を削減していく政策を立てたことがあります。これは日本ではないか?と断言できる話ではないと思います。」

「だからこそ、福祉を持続可能にするためにはソーシャルファーム(※3)、つまり社会的協同組合が必要だと思っています。」

「今は公費ですが、将来的には公費を使わず、様々な人が手を取り合って明るい未来を創造していくシステムをインキュベート(※4)することが私たちの使命だと思うようになりました。」

今後の展望を語る上で、そのように力強く話されます。

「ソーシャルファームはヨーロッパで主流な考え方で、精神障がいを持たれている方と共生していく仕組みがルーツです。ただ、先ほどお話した通り、障がいは広く捉えることができます。誰にだって、障がいにぶつかることはあるんです。」

「私たちがやりたいソーシャルファームは、クラフトビールを通して、生きづらさも含めた、どちらかというと、この国が抱えている貧しさのようなもの、それらを解決する糸口になるようなものにできたらと思っています。」

※3  一般的な企業と同様に自律的な経営を行いながら、就労に困難を抱える方が必要なサポートを受け、他の従業員と共に働いている社会的企業のこと。

※4  培養。保温して育成することから、設立して間もない企業や起業家などへの支援を行うことを意味する。

【鹿児島県鹿児島市】クラフトビールから広がる持続可能な福祉の世界 /  ひふみよ株式会社 白澤繁樹さん
ひふみよブリューイング入り口 こちらでクラフトビールを製造し、直売されている
【鹿児島県鹿児島市】クラフトビールから広がる持続可能な福祉の世界 /  ひふみよ株式会社 白澤繁樹さん
ひふみよブリューイング入り口  こちらでクラフトビールが製造し、直売されている

「今までの事業は事業所単体で成立するものばかりでした。でも、ソーシャルファームになってくると異なり、私たちだけの力では成立しません。だから、福祉の枠だったり、障がいの有無だったり、様々な枠を越えた連携が必要なんです。」

「クラフトビール事業に関しては、私たちの想いに賛同してくださる企業さんと一緒に広めていきたいと思っています。経済が早いスピードで拡大していけば、その分、多くの人たちを受け入れることができるようになります。そんな好循環をつくっていきたい。」

「ソーシャルファームを産むには、それなりに時間がかかると思います。様々な既存の枠組みを越えて連携できるようになるのは困難も多く感じます。だからこそ、誰かが集中して取り組む必要があります。」

「新しいことは熱狂しないと生まれません。障がい福祉事業を経て、もっと広い意味で障がいを捉えられるようになった私たちだからこそ辿り着いた答えがソーシャルファームなんです。だから、私たちが集中し熱狂しないと始まらない。良い意味で狂っていきたいです。」

【鹿児島県鹿児島市】クラフトビールから広がる持続可能な福祉の世界 /  ひふみよ株式会社 白澤繁樹さん
ひふみよブリューイングで製造したクラフトビール(日置市のオリーブ、鹿児島市郡山町のカボス、南大隅町の緑茶を使用したもの)
【鹿児島県鹿児島市】クラフトビールから広がる持続可能な福祉の世界 /  ひふみよ株式会社 白澤繁樹さん
Muxtu Green tea IPA(花の木農場とコラボレーションしたクラフトビールで、お茶の香りと甘味がビールのさわやかな苦味に絶妙にマッチする)
屋号
ひふみよ株式会社
URL

https://hifumiyo.co.jp

住所
鹿児島県鹿児島市荒田1丁目19192F
備考

●ひふみよブリューイング

   https://kagoshima.beer

   住所:鹿児島市新屋敷町11-19

   営業時間:現在工場のみ。

   電話番号:099-800-7040

   ※駐車場はございません。付近のコインパーキングをご利用ください。

   ※醸造所内直売店で瓶ビール販売中。

 
●公式ビアバー Kagohisma Craft Beer Bar 次の朝

  https://www.instagram.com/craftbeer.kagoshima.tsuginoasa/

  住所:鹿児島市東千石町5-29 ブルーミントビル2F

  ※営業時間や営業日についてはインスタグラムにてご確認ください。

  ※駐車場はございません。付近のコインパーキングをご利用ください。