村山市 関係人口交流拠点施設「Kiwa」/ゼロからイチを生み出す、まちに開かれたチャレンジの場
地域の情報
2022年3月にオープンした村山市の新たな関係人口交流拠点施設「Kiwa」。中心市街地に位置する「甑葉(しょうよう)プラザ」の北側にある2棟の建物です。一棟はコワーキングスペース兼ラウンジや日替わりで店舗が入るチャレンジキッチンで、もう一棟がチャレンジスペースが付いたシェアハウスとなっています。
この建物を運営するのは、大学在籍中に東京から移住した末永玲於(れお)さん。Kiwaとはどんな場所なのか、そして末永さんがこの場所に込める思いについてご紹介します。
キーワードは「関係人口」
末永さんは富山県出身で、東京の慶應義塾大学に進学しました。大学1年生の頃、全国から自治体が集まり新規就農者を募るイベントでアルバイトをした際に、出展者として参加していた村山市の職員と話が盛り上がり「今度、村山市に遊びに来ませんか?」と誘われたことをきっかけに村山市を訪れました。
その後何度も通い、地域との関係が構築されていくなかで新型コロナが流行しました。大学の授業がフルリモートになったことで「どこにいてもいいなら村山に住みたい」と、2020年10月に移住。大学2年の頃から関係人口創出やデジタルプロモーションにまつわる業務を市から受託するようになり、村山市で起業する道を選びました。
関係人口とは、移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域と多様に関わる人々のこと。移住前に東京から村山に通っていた自分自身の経験や東京の友人を村山に招き入れたりする体験を通じて、関係人口をキーワードにビジネスを考え、誕生したのが「Kiwa」です。
「移住前の村山市に通っている頃、訪れるたびに地域の人にあたたかく迎え入れていただきました。村山市はかつて宿場町だった歴史的背景もあり、外からの人を迎え入れる気質があるのかもしれません。そうした気質も生かしながら、村山市に関わる人が増えるきっかけとなる場所があったらいいなと思いました。
『自分が村山市に来る側だったらなにがほしいか?』と過去の体験を振り返りながら考えたとき、地元の人も市外から訪れる人も気軽に立ち寄れる拠点が必要だし、テレワークができたり寝泊まりできる場所も必要だと思いました」
こうした考えを実現するため空き家を探していたときに、市からの紹介で出会ったのがこちらの物件。築35年の木造2階建ての2棟の建物。村山市の中心市街地である楯岡地域で、なおかつ市の拠点である甑葉プラザから徒歩1分という好立地。人が集まりやすく、末永さんが描いていたビジョンとしっかり一致する条件だったといいます。
以前は民間企業の社宅だったものを市が買い上げた建物で、末永さんが市と賃貸借契約を結んで使うことに。一部市から補助を受け、民間事業としてプロジェクトを立ち上げました。
出会いをうながす交流拠点
こうして2022年3月にCo-Creating-Lounge & Share House 「Kiwa」がオープン。関係人口交流の拠点、テレワークの拠点として、主に3つの機能が備わっています。
レンタルスペース/チャレンジキッチン
新しく事業を立ち上げたい人に向けたチャレンジスペース。スペイン料理、バー、蕎麦屋など、日替わりで飲食店が営業しています(2023年3月時点)。いきなり店舗を構えるのはハードルが高く感じますが、ここでお試しの開業をすることで、事前にお客さんの反応をみたり、認知を広げることができます。
コワーキングスペース/ラウンジ
飲食店のホール、ラウンジを兼ねたコワーキングスペース。テレワークの拠点として自由に使える電源とWi-Fiを完備しているので、食事を終えたらパソコンを開いて仕事していく人もいるそうです。飲食店の営業時間以外に利用したい方は、Kiwaの公式HPよりお問い合わせください。
地域の交流の場として、この場所ではイベントが頻繁に行われています。県外からツテを持たずに村山市に来た新規就農希望者が、ここでのイベントで市内の農家さんと繋がり就農できたという出来事もあったそう。また不定期のスナックとして、地域の人が日替わりでママをつとめるイベントも好評とのことです。
シェアハウス
村山にお試しで住んでみたいという人やリモートワーカーが数ヶ月単位で住むためのシェアハウス。若者が安く泊まれる簡易宿泊施設(ゲストハウス)とサロンのチャレンジスペースも兼ねています。全4部屋あるうち2部屋がシェアハウス、もう1部屋がサロン、もう1部屋がゲストハウスという構成です。
ゲストハウスは1泊から宿泊可能で、サロンも1日単位で貸し出ししています。サロン、ゲストハウス、シェアハウスは利用希望者を随時募集しているとのこと。空室状況はHPよりお問い合わせください。
ゼロからイチを生み出す場所
人との出会いをうながし、新たなチャンスを生み出している「Kiwa」。この1年間で飲食業やサロンなど6事業が新しく立ち上がっています。出店希望者の半数以上は市外から来ているそうで、東京在住のUターン希望者が帰省のタイミングでお試し開業し、移住後の仕事に備えているケースもあるそう。
「事業を立ち上げて軌道にのせていくには、たくさんの情報や熱量を浴びることが必要です。店舗を必要とする事業じゃなくとも、ここで住みながら働き、人とつながり、事業を育てていくことができます。住環境も備わっているので、単身の方や若い方にも積極的に活用してもらえたら嬉しいです。
今後はまちなかの商店街に出店する流れをつくれたらと思っています。この場所で事業を試していただき、育った後は独立して商店街の空き店舗をうまく活用しながら、中心市街地の活性化につなげることが目標です。Kiwa単体で考えるのではなく、同じく楯岡地域にあるLink MURAYAMAや甑葉プラザなどの拠点と相乗効果を生んで、全体でいい流れが生み出せたらいいなと思っています」
この1年を振り返り、「誰にでも開かれた“パブリックな場”として、想像以上に機能していて嬉しい」と話す末永さん。最後にこんなメッセージをいただきました。
「Kiwaには『ゼロからイチを生み出す』というコンセプトがあります。飲食店やサロン、小売事業を立ちあげたい人、テレワークしながら情報交換したい人、ここでイベントを企画したい人、そして新たな人や情報に出会ってみたい人。種類はさまざまですが、ここは何かしらチャレンジしたい人に向けた場所です。
たとえ事業の構想が固まっていなくても、ここに来て人々と交流することでアイデアが磨かれていくかもしれません。この場所に厳格なルールはありませんから、『こんなふうに使ってみたい』と提案していただくことも歓迎です。きっとなにか新たな気づきを提供できる場所だと思うので、いつでも気軽に遊びに来てください」
取材・文:中島彩
撮影:渡辺然(Strobelight)