【北九州】建築科学生らしい目線で編集した「街歩きマップ」を制作/九州ポリテクカレッジ
インタビュー
自分たちが暮らす小倉のまちを、学んできた“建築”を切り口に紹介したい――。
そんな思いで「街歩きマップ」の制作にチャレンジした学生たちがいます。 彼らは北九州市にある九州職業能力開発大学校〔九州ポリテクカレッジ〕の建築科で学ぶ同じゼミの仲間たち。
卒業制作として、北九州の中心街・小倉のまちの魅力を一枚の地図にまとめました。建築を学んだ学生ならではの視点で編集された「街歩きマップ」がどのように作られたのか、お話を伺いました。
建築科学生らしい視点を活かして
「街歩きマップ」を制作したのは建築科中山ゼミの6名の学生たち。まずは2年間の学生生活の集大成として、マップを作るに至った理由を伺いました。
樋口さん:卒業制作を何にしようかと話し合う中で、建築科学生の視点でマップを作ったらどうかという意見が出たのがきっかけでした。
調べてみると、まちを紹介するマップは色々とあるけれど、建物の詳細や地域のまわり方、景観の見方に関してのマップはありませんでした。北九州市の地域活性化に貢献できるようなマップを学生の目線で作ってみるのはおもしろいんじゃないかと思いました。
北九州市は、磯崎新をはじめとした著名な建築家による個性的な建物が多数ある上、歴史的な建築物も多く残っていることで知られています。「街歩きマップ」では、JR小倉駅を起点に約90分でまちを周遊しながら建築探索ができるルートが設定されています。
田中さん:マップの利用者としては、会議などビジネスで北九州を訪れるMICE関係者をイメージして作りました。ビジネスマン、サラリーマンの隙間時間を調べてみると、平均して1〜2時間程度だったので、その時間内でまわれるエリアを決めて、物件をピックアップすることから始めました。
市園さん:エリアが決まったらまずは事前に「北九州の建物といえばこれ!」という、見てもらいたい場所をピックアップして、実際に全員でまちを歩いてみました。
「キャプション評価法」でまちを見る目線が変わる
歩き慣れたまちでも、建築マップを作るという目的を持って歩いてみると、「珍しい看板や歴史を記した石碑を見つけたりと、自分たち自身もたくさんの発見があった」といいます。その発見につながったのが「キャプション評価法」という景観調査などで用いられる手法です。
丸野さん:単にまちを歩いて見てまわるだけじゃなく、全員がそれぞれに感想(キャプション)を書いて、それをまとめてマップ作りに活かしました。建物や景観を見て、自分の思ったこと、感じたことを言葉にしていくのですが、みんなのキャプションをまとめる作業がいちばん苦労したところでした。
田中さん:「すごい」で終わってしまわないように言葉にするのが最初は難しかったですね。
樋口さん:私たちもキャプション評価法は初めての体験だったので、校内や学校周辺でも練習をして、試行錯誤をしながらコツを掴みました。最初は「よかった」とか簡単な言葉でしか書けなかったけど、やっていくうちに、どこがどうよかったか深掘りできるようになりました。
実際に「街歩きマップ」にもキャプションを記入できる欄が設けられています。気になる建築や景観の写真を撮り、キャプションを書くことで“自分だけの探索マップができる”というのが、このマップの狙いであり特徴でもあります。
マップ作りで得た、たくさんの気づき
単なるガイドマップではなく、建築という専門分野を学んだ学生だからこその視点で作ったマップは、制作した彼らにとっても建築的な目線と言語化力が鍛えられた活動だったようです。目的を持ってまちを見たことで、どんな気づきや発見があったのかを伺ってみました。
谷さん:いつもなら通りすぎてしまうところも、マップを作るという目線で歩いてみると見過ごしていることが多いと思いました。印象的だったのは、長崎街道。通り沿いのマンションの一角に歴史を感じさせる展示があったり、歩道と車道を違う材料で分けていたりしたことに気づいたのは発見でした。
櫻井さん:自分は小倉城が印象に残っていますね。野面積みの石垣は昔のものがそのまま残っています。あとは北九州市立中央図書館。基本的には本を読むという目的で利用される場所だけど、館内に入るとリブやヴォールト様式という面白い構造が間近で見られます。外観だけでなく、ぜひ中も見てもらえたらと思います。
丸野さん:旦過市場をまわった時に「建築マップを作るなら、そこの食べ物も知っとかなくちゃ!」と思って初めて買い物をしました。100円くらいのたまごロールがすごく美味しかった。それもひとつの発見として、やってよかったなと思いますね。
樋口さん:旦過市場は安く買い物ができるという点でお財布に優しいよね。おすすめの場所のひとつです。
谷さん:ほかのマップにはない「キャプション評価法の方法」を載せているので、これを活用してもらえると、その人だけのマップになるのがこのマップの特徴です。北九州の思い出作りに役立つと思っています。
「街歩きマップ」には、実際にまちを歩いた6人がそれぞれ70個近いキャプションを書いた中から厳選された情報が掲載されています。校内での発表会のほか、北九州市主催で行われた景観講座2023でも配布されました。
学生たちの制作について指導した中山先生に伺うと、「一見すると紙一枚のマップですが、調べた量も膨大ですし、作るにあたっても何回もダメ出しもしました。大学校の2年生が作るものとしてはかなりクオリティの高いものができたと思っています」と話してくださいました。
今後は、櫻井さんは建設会社の設計部に就職、残る5人は引き続き勉強を続けていくそうです。北九州で建築を学んだ2年間と卒業制作の「街歩きマップ」制作を通じて学んだことは、きっと彼らの未来を築いていくのだろうと感じた取材でした。
(取材/文:岩井紀子 写真:清原裕也)
備考 |
●街歩きマップ 完成版 ●北九州市都市景観賞 ●建築・景観冊子「ARCHITECTURE OF KITAKYUSHU-時代で建築をめぐる-」
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