real local 山形山形県村山市・移住者インタビュー/地域おこし協力隊 平山龍矢さん - reallocal|移住やローカルまちづくりに興味がある人のためのサイト【インタビュー】

山形県村山市・移住者インタビュー/地域おこし協力隊 平山龍矢さん

インタビュー

2023.03.27

山形移住者インタビュー。今回は村山市編です。2022年4月、農業を志して村山市にUターンした平山龍矢さん。村山農業高校を卒業後、民間企業に就職。北海道や福島での勤務を経て、新規就農・農地継承をミッションとする地域おこし協力隊として村山市に戻ってきました。取材時はちょうど着任して1年が経った頃。研修先である株式会社アグリラボの現場を訪ね、初年度の活動や農家への道を歩み始めた平山さんの思いをうかがいました。

山形県村山市・移住者インタビュー/地域おこし協力隊 平山龍矢さん

農業を通じて地元に貢献したい

村山農業高校(現 村山産業高校)を卒業後、会社員として働いていた平山さん。別の仕事も探してみたいと考えたとき、地元の風景が頭に浮かんだといいます。

「実家は農家ではないのですが、村山市には農家が多く、子どもの頃から地域の農家さんにお世話になっていました。人間関係が密な地域で育ったので、当時のように地域に溶け込み、農業を通じて地元を盛り上げていけたらと思いUターンを決意しました」

引っ越す前に村山市役所に新規就農について相談に行ったところ、地域おこし協力隊について紹介を受けました。地域おこし協力隊とは、人口減少や高齢化が進行する地方において、地域外の人材を積極的に受け入れる制度。村山市では就農・農地継承をミッションとした枠を募集しており、任期の3年間は市から給与を得ながら農業研修を受けることができます。農業が未経験だった平山さんにとって、協力隊の制度は移住の大きな後押しとなったそうです。

山形県村山市・移住者インタビュー/地域おこし協力隊 平山龍矢さん
実家の隣にある築50年の空き家を買い、改修しながら暮らす平山さん。Uターン後はすんなり地域に馴染むことができたそう。

2022年4月、着任してすぐJA関係の若手農家の集まりに参加したとき、アグリラボ代表の柴田清志さんと出会い、「一度、見においで」と声をかけてもらいました。アグリラボは、水稲ときゅうりの規模拡大を進めたり、機械化体系の導入によるにんじんの栽培に取り組むなど、農業法人として新たなチャレンジを行っています。「地域の農業をリードするアグリラボさんで学べるなら」とすぐに見学に行き、研修させてもらえることが決まりました。

農業の根幹を担う苗栽培

アグリラボでは、冬から春、夏にかけて苗ときゅうりのハウス栽培、夏はきゅうりの露地栽培、秋から冬にかけて水稲とにんじんというように、通年で農業を行なっています。苗の栽培とは種から苗になるまで育てて販売する、農家に向けた商品づくり。アグリラボではきゅうり、スイカ、ナス、トマト、ピーマン、かぼちゃなど約20種の苗を栽培しています。

2月末の取材時に訪れたときには、ハウスで苗の栽培が行われていました。苗の栽培は常にリスクと隣り合わせだといいます。というのも、赤ちゃんと同じように苗は根っこが育つ前の生きる力がついていない状態で、かなり繊細に作物ごとに合わせた環境管理が必要となります。ハウスの中は温度変化が激しく、一瞬の判断ミスが大きな損益につながることもあります。

苗の出来が作物の出来を大きく左右するため、各農家さんにバトンを渡す役割として責任は重大であり、地域の農業の根幹を担っていると言っても過言ではありません。

山形県村山市・移住者インタビュー/地域おこし協力隊 平山龍矢さん
苗のビニールハウスには電熱線が入っており、常時適温に調整されているが、少しでも日差しが強くなるとハウス内の温度が上がって一瞬で何千本の苗を枯らしてしまうこともありえる。細やかな環境調整が必要。

農家の高齢化が叫ばれるなかでも、特に苗農家は高齢化が激しく、個人農家で苗をつくるところは少なくなっているといいます。こうした高度で専門的な知識と技術が必要とされる苗栽培も含めて、平山さんは先輩たちから品種の特色を習いながら、日々実践的に農業に取り組んでいます。

LIFE IS WORK

もうすぐ研修2年目に突入する平山さん。「農業はかなり刺激的だ」と初年度について振り返ります。

「この1年は想像以上に大変でした。5月くらいから冬まで休みはほとんどありません。ピーク時はアドレナリンが出てきて『休みはいらない。作物の状態が気になるから畑に行きたい!』と思うほどでした。作物たちがかわいく思えてくるんですよね。元気がないとかわいそうだし、水の管理ができているか、しっかり根付いているか、2日も目を離すと枯れかけちゃうんじゃないかと、常に畑のことを考えています。

雪の日も外に出るし、真夏は熱中症との戦いだし、ラクなことなんてひとつもありません。
ライフワークバランスという言葉がありますが、農家の場合はライフ イズ ワーク。それが農家としてのあり方だと思います。かなり大変ですが、作物がとれたときの達成感はハンパありません。刺激的だし、やりがいがあって楽しいですよ」

山形県村山市・移住者インタビュー/地域おこし協力隊 平山龍矢さん
ハウスにてきゅうりの促成栽培(加温や保温によって作物の生育を早めて、自然環境よりも早い時期に収穫する栽培方法)も行なっている。
農家のネットワーク

アグリラボには平山さんと同世代で農業未経験者のスタッフがおり、仕事以外の時間でも家で集まったり、社長の柴田さんも含めて飲みに行ったりと、気さくに悩みを話せる環境があるそうです。そして村山市には農家同士のネットワークがあり、情報交換の場が多いといいます。近隣の農家さんが相談をするためにアグリラボの現場を訪ねて来ることもあるそうです。

「研修会に誘ってもらったり、その後の飲み会で若手農家同士で話したりと、情報交換できる機会があるのがありがたいです。先輩たちもかなり勉強されていて、自分もその輪の中に入って話せるレベルまで早くもっていきたいですね。周りにパワフルな人が多くて、たくさん刺激をもらっているので、もっとがんばりたいと思える環境です」

山形県村山市・移住者インタビュー/地域おこし協力隊 平山龍矢さん
アグリラボのみなさん。手前から、後藤さん、会長の柴田清一さん、社長の柴田清志さん、平山さん、星さん。
農家として生きていくということ

地域おこし協力隊の任期は3年間。1〜2年は研修に打ち込み、3年目からは自走に向けて準備を整えていきます。

とはいえ、自営業として独立するだけが道ではありません。アグリラボをはじめ市内には20社ほど農業法人があり、就職して給与を得ながら農業をすることも選択肢のひとつです。実際にアグリラボの若手スタッフのみなさんは未経験で就職したとのこと。そのほか、経営開始後でも空いた時間で別の農家さんを手伝って報酬を得ることもできます。農業は大変な仕事ですが、やりたい人にはいくつかのルートが開かれているというわけです。

山形県村山市・移住者インタビュー/地域おこし協力隊 平山龍矢さん
平山さんと柴田さん。3年間の研修を終えた後どのように農業をしていくかについてもアドバイスをもらっているそう。

アグリラボ代表の柴田さんからも新規就農のポイントについて、このような言葉をいただきました。

「一番大切なのは、事業主としての生き方ができるかどうか。農業は経営です。収穫量が減れば減益ですし、自分で農業をやっていく以上、すべて自分の身に降りかかってきますから。そこも含めて腹をくくれるかどうか。スキルは県や市の農業担当課や周りの農家に聞けば教えてくれます。それよりも作物に合わせて生きていかなければいけないことのほうがハードルが高い。覚悟を持って事業主として農業にのぞめるかがポイントですね。

弊社では農地を借り受けて作物をつくっていますが、他人の資産である農地ですから、きれいにつくって地主さんに『貸してよかった』と思ってもらいたい。それが地元の人が安心して農業ができる状況にも繋がっていくし、この地域で法人として営農している弊社の社会的役割だと思っています。

農業にはゴールがありません。平山くんをはじめ新規就農者のみなさんも、5年、10年とこの地域で農業をやっていくことにはどういう意味があるのか。自分の仕事が持つ社会的意義を見つけられたら、生きるうえでのひとつの柱になっていくと思います」(柴田清志さん)

山形県村山市・移住者インタビュー/地域おこし協力隊 平山龍矢さん
ナスの苗。この苗が各農家さんの手に渡り、ナスが栽培されていく。

最後に平山さんから、これからの展望について、そして新規就農を目指す人にむけてメッセージをいただきました。

「研修が終了した後、夏はスイカをやっていこうと思っていますが、その他の季節の品種はまだ決めていません。いきなりあちこち手をつけずに、まずはスイカで生計を立てられるようにしてから他の作物にも広げていけたらと思っています。研修後も困ったことがあったらここ(アグリラボ)に相談に駆け込めることが心強いですね。

これから農業を始める人は、頼れる人を見つけるべきだと思います。2~3年でいきなり自立することは難しいですから、収入が厳しい時期は『じゃあ、うちに手伝いに来なよ』と言ってくれる人をどれくらい見つけられるか。数年のうちに安定させて、規模を拡大していけばよいと社長からもアドバイスをいただいています。

いずれはアグリラボのように法人となって雇用を生んでいくことも目指していきたいです。まだ探り探りですが、少しずつ事業計画を練っていこうと思います」(平山さん)

山形県村山市・移住者インタビュー/地域おこし協力隊 平山龍矢さん
会長の柴田清一さんと。

村山市では就農体験受入事業を実施しています。地域おこし協力隊の業務のひとつとして平山さんが案内係となり、農業体験の希望者と受け入れる農家さんとを繋ぐパイプ役を担っています。村山市での就農体験に興味がある方は、農林課までお問い合わせください。

2019年に就農・農地継承をミッションに地域おこし協力隊に就任した麿 恵美さんのインタビューも合わせてご覧ください。

取材・文:中島彩
撮影:渡辺然(Strobelight)