【愛知県岡崎市】そのまちの日常を過ごしてみる、“異”日常の拠点となる宿。
インタビュー
「見ることの観光から、感じることの感光へ。」
これまで当たり前とされてきた名所旧跡などを巡る“観光”ではなく、地元の人と関わり、そこで親しまれているお店や文化などを楽しむことで、そのまちの暮らしを感じられる“感光”のお手伝いをしたいと、徳川家康が生まれた岡崎城の城下町で2020年にオープンしたOkazaki Micro Hotel ANGLE。オーナーの飯田さんに話を聞いてきました。
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地域の文化の成り立ちを応援したい。
山梨県で生まれ育ち、大学は東京だったという飯田さんが愛知県の岡崎市でANGLEをオープンすることになった経緯は、とても面白いものでした。
大学卒業後は地元に戻って山梨中央銀行に勤めながら、仕事以外にも様々な活動していたそうですが、中でも、空き家や商店街を現代アートでつなぎ地域の見方を変えていくイベントに関わったことがきっかけとなり、いろんな価値観や働き方を知り、そこで銀行とは違うたくさんの接点や出会いを得たといいます。
「地方銀行に就職したのは、大学で総合文化政策学を専攻し、マスコミやアートマネジメントなどを学ぶ中でいちばん面白かったのが“地域文化”だったから。今も地域に残っているものが、どうつくられていてどう続いていくのかに興味を持ちました。だから、地域と企業とお金を結びつけることで地域に貢献できる地方銀行に就職し、地元で面白いことをやっている人や会社にお金を貸せるようになって、応援したいと思いました。」
銀行マンとして自分ができることを模索する中、岡崎市の無料経営相談所・通称「オカビズ」の存在を知りました。早速、東京で開催されたワークショップに参加してみると、その面白さに興味を引かれ、ちょうど募集していたオカビズのスタッフに応募してみると、なんと合格。縁もゆかりもない岡崎だけれど、いい経験になるんじゃないかと移住を決意したといいます。
岡崎に来た、このご縁を活かしたい。
オカビズのスタッフとして1年間、様々な企業のサポートをしてみると、今度は自分で何かをやってみたくなったという飯田さん。自分で事業をやってこその説得力が欲しかったと振り返ります。山梨に戻ることも考えたけれど、岡崎には長く続く企業や個人店、最近出来た個性的なお店などがたくさんあって、ここで1年を暮らすうちに岡崎に居たいと思うようになったのだといいます。
「誰一人として知り合いがいない中での岡崎暮らしが始まったわけですが、まずはまちを知ることだと思いました。そのよさを知って自分の暮らしが楽しくなるよう、とにかくいろんなお店に顔を出して探索した1年でした。目的もなくふらりとまちを歩きながら自発的に迷子になってみると、面白いことに出会えるんです。」
2017年にはスノーピークが新たに展開するシェアオフィス・コワーキングスペース「Camping Office osoto OKAZAKI」の立ち上げを行い、地域で豊かに働く場づくりを経験しました。次に自分自身の事業をするにあたり、それが宿をつくることだという答えは、飯田さんの中でごく自然に出てきたものでした。
「このまちには宿が必要だと思いました。外から来た自分だからこそ、それを強く思えたんです。外から来た人を案内する時に泊まれる場所として、また外の人と地元をつなげることでゼロイチを生み出す場所としての宿。外から来た身の疎外感からくる面白い視点を宿なら活かせるんじゃないかと思いました。地元ならではの愛着がないからこそ、やれることがあるんだと。」
名所よりも、暮らしを観光してほしい。
これまで当たり前とされてきた名所旧跡や景勝地などを巡るような観光ではなく、地元の人に親しまれているお店や食べ物、文化などを楽しむことを「暮らし観光」と呼び、地方を旅する視点は少しずつ変わりつつあります。
「非日常を巡るのではなく、日常の暮らしに入り込んで体験するのが「暮らし観光」ですが、非日常と日常と、もう一つの「異日常」が新しい観光のあり方だという話があって、それにもとても共感します。観光スポットであっても暮らしを感じる場面はあって、目的や視点を少し変えてみるだけで見えてくるものも変わります。ガイドマップを見て巡るというのは、与えられたものを見て消費するような感じがします。でも地域の人と同じように過ごしたりコミュニケーションを取ったり自ら行動することが、新たな発見や異日常を体験する面白さになる。それはまちにとってもプラスになると思っています。」
「<見ることの観光から、感じることの感光へ。>という言葉には、私たちが日々暮らす中で楽しさや豊かさを感じる瞬間に光を当てるように、ANGLEがおすすめしたい場所に光を当てて、感光(光が当たって起こる化学変化)が起こることで、訪れた人の価値観や日常の捉え方も変わるんじゃないか。そんな期待が込められています。」
地域との接点をつくりにくい“宿”で、地域をつなぐ。
「暮らし観光」が少しずつ浸透し、川を散歩したり、カフェでお茶をするなど、特別なことはしなくても地域の面白いものを見たい・知りたいという人たちのために、まずはこの場所を知ってもらうこと。ANGLEでは、これまでポップアップイベントにも力を入れてきました。一方で、地域との接点がつくりにくい宿で、地域をつなぐため2021年12月には1階に「Park Side Cafe.」をオープン。コーヒーなどのカフェメニューに、ピスタチオのシュークリーム、季節の果物を使った焼き菓子などが並びます。旅人だけでなく、地域の人もANGLEにふらりと来てくれたらという想いが込められています。
「イベントばかりだと非日常な場所になってしまうけれど、そこに日常的なコーヒーや焼き菓子があったら、地域の人も来てくれるんじゃないか。地域の中と外の人たちが自然と交ざって、日常とにじみあう空間にしたいと思ってカフェをつくりました。ホテルスタッフがお客様と地元の人をつなぐことを“前向きなお節介”といっていますが(笑)、そうして生まれていくカフェでの交流に期待しています。そこからホテルのファンに、そしてまちのファンになってもらえたら嬉しいです。」
まちの道先案内人であり、まちの入り口としてここに居ることが大事だと飯田さんはいいます。だからまずはカフェに来てほしいのだと。人的ハブの役割も果たす1階では、夜のお酒イベントでの交流も盛んなようです。第2.4土曜の夜に定期開催「パークサイドの夜」では、様々な人たちが行き交い、偶然の出会いを楽しんでいるといいます。
また2022年の春には、暮らし観光をじっくり味わいたい方に向けた中長期滞在プランがスタート。地元の人々の日常に溶け込み、暮らすように、ゆったりと岡崎に滞在してもらえるようになりました。3泊以上の滞在ならこちらのプランがお得なのだとか。
岡崎を発信する拡声器になるような媒体を。
今後は、ANGLEに来る人だけでなく、岡崎のまちを広く知ってもらうためのメディアをつくろうと企画中。単なる情報発信だけではなく、学生を巻き込んで接点を持つこと、岡崎の仕事や雇用を守ること、地域内外の視点を上手くかけ合わせることなど、多くの課題の解決に向けた媒体になることに重点を置いています。また、1階のポップアップイベントでは、県外のものづくりコラボが人気ですが、今後はオリジナル商品の開発にも力を入れながら、県外との接点も常に持ち続けて発信していきたいのだといいます。
「移住してきた当初、知り合いもいなくてやっぱり寂しかったです。岡崎で暮らしながら、一緒に楽しめる仲間が増えたらいいなって。その中で仕事があって、地域も自分自身も楽しくなったらいいなって思っていました。媒体には、何かを発信してつないでいく役割がありますが、それだけじゃなくて、いろんな価値観に触れることで、自分のものさしをつくる判断軸ができると思うんです。そうすることで、自分の日常を違う視点で見られる。自分がそうだったから、ちょっと立ち止まって自分の価値観を見直すきっかけにしてもらえるような媒体になればと思っています。」
その根底には、地域の面白いもの、残っているものを伝えたい。そしてこの先も残したいという想いがあって、大学時代からやりたかった軸は変わっていないのだと話してくれました。
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住所 | 愛知県岡崎市籠田町21 センガイドウビル |
備考 | <Instagram> <OnlieShop> |