【石川県小松市】立ち止まって、原点に還る。 / 器とお米のカフェレストラン「HO GA」リニューアルオープン
ショップ情報
2022年5月、水田に若苗の緑が輝く季節にオープンした「HO GA」(ホウガ)。九谷焼を中心とした「器」を選んで「お米」を楽しめる、新たなスタイルの創作レストランとして、開店当初から話題を呼んでいました。(≫開業の経緯についてインタビューした以前の記事はこちら)
そんなHO GAが2023年3月、新体制でリブート(再起動)するという噂を耳にして、久しぶりに小松市那谷の店舗を訪ねてみることに。「自分の店をもつこと」で初めて直面した試行錯誤の日々と、「器をもっと楽しんでもらうには」を考え抜いた先に辿り着いた、リニューアルオープンという選択。その思考の旅程をうかがってきました。
器を自分で選ぶ、実験的なレストラン
「『器をお客様に自身に選んでいただく』というコンセプトがHO GAの根幹なのですが、そういった営業スタイルはこれまで前例がないことでした」と、リニューアルへの経緯を話し出してくれた緒方さん。
「そのため、このコンセプトが『どのくらい受け入れてもらえるのか?』というところが、正直全く読めなかったんですね。そこで、器が選べるランチとは別に、オープン当初はスイーツやアラカルトといった気軽なカフェタイムを設けていたんです。ランチの方が価格帯は上がりますし、むしろカフェの方が需要があるのではないかと思っていました」
「ところが、実際にオープンしてみると『器を選んでお米を楽しむ』というコンセプト自体に関心を抱いてご来店される方が、圧倒的に多かったんです。逆に言えば、カフェ営業の方がこの地域ではあまり需要がないことが分かった。であれば『喫茶ではなくディナー営業を初めて、“器とお米”というHO GAらしさを楽しんでいただく方が良いのではないか?』という考えに至りました」
「やってみて初めてわかることって、いっぱいあるものですね」と照れたような笑顔を見せる緒方さん。
そもそも自身のこれまでの経歴も、「飲食」とは畑違いの業界ばかり。回転率や原価・立地性など、飲食ならではの“読み”の感覚が当初はなかなかつかめず苦戦した時期があったことも、今回のリニューアルの一つの理由になっているそう。
「『自分で飲食の店を始める』と言った時、周囲からは「なんで飲食なの?」と繰り返し問われましたね。プロジェクトマネージャーやディレクター業など、自分はどちらかというとデスクワーク系の仕事ばかりでしたし、労働生産性だけで言うなら飲食よりもそちらの方が効率は良い。僕は料理人としての経験もないので、知人からは『なぜ?』と心配されて(笑)。けれど、僕がやりたいことは飲食でこそ提案できると思ったし、そこに可能性を感じていました」
“食”を入り口とすることで、一気に広がる“間口”
緒方さんが「飲食店をやりたいと思った原体験」として上げたのは、自身が勤めていたリノベーションホテル「HATCHi 金沢」に入っていた創作レストラン「a.k.a.」の存在。手前味噌ながら、弊社(E.N.N.)の運営でした。
「a.k.a.さんと一緒に、様々なイベントやポップアップを企画する中で、『食を入り口とすることで、間口がぐんと広がる』ということを体感させてもらったんです。
僕が『器の魅力をもっと広く伝えたい』と思うきっかけになった『CERABO KUTANI』でのディレクター時代も、器を展示販売するだけだと、どうしても限定的な層へアプローチになってしまうことが気になっていました。また、作家名や値段など『文字情報』だけでは伝わらない魅力が、器には多くある。だからこそ、器自体を素直に『いいな』と思ってもらえる『入り口としての機会』を、僕は作りたいと思ったんです」
「また、様々な作家さんとお話しする中で『購入されても、生活の中で使っていただけていないことも多い』という声も耳にしました。『だったら実際に器を楽しんでいただける飲食店を、自分でやったらいいのではないか』、それがHO GAの始まりでした。
実際にお店を開いてみると、本当にいろんな方々にご来店いただいて。『ご飯を食べる』という行為は誰もがすることなので、元々は工芸に興味がなかったという方にも楽しんでいただけていたのは嬉しかったですね」
また作家さんが自身のお客さんを連れてHO GAで食事をとる姿も珍しくないそう。「作家さんにとっても、ある種の“プレゼンテーション”の場になっている。それは僕の目指すところでもありましたし、まさに飲食店だからこそできることだと感じています」
お米が似合う、“いつもの食卓”の中に
洋食風であったり、定食風であったり。HO GAのメニューは「ごはん」を中心として構成されていて、どこか親近感が湧くのも、「器を身近に」という緒方さんの強い想いから。
「九谷焼は前田藩が“献上品”として産業化されてきた歴史もあり、『おばあちゃんちにある、ハレの日の器』というイメージを持たれている方が今でも多いです。実際に九谷焼は料亭や高級な和食店で用いられてきました。それ自体は素晴らしい文化だと思うのですが、『普段の食卓でも使えるんだ』ということを、これまで九谷焼と接点がなかった方にもイメージしていただきたくて。だからこそあえてカジュアルな料理を選んでいます。
また、器を『九谷焼』だけに限定していないのも、リアルな食卓の風景に近づけたいと思ったから。『九谷焼だけで食卓を構成しています』というお宅は多分ないと思うので(笑)。とはいえ、同時にスパイスづかいなど“家庭の味”とは一線を画す味わいを心がけているので、そこも愉しんでいただけたら」
「器とお米」に導かれた運命
今回のリニューアルオープンを語る上で欠かすことができないのが、緒方さんのパートナー・佐藤真衣さんの存在。大学で工芸を学び、卒業制作には「自分で作った器に、自分で作った料理を盛った50作」を提出したという真衣さん。
「僕が今やっていることに近似しているというか、『こんなことを考えている人が自分以外にもいたんだ!』と驚いて」と緒方さんも話す、まさに“運命の人”です。
「昔から食べることも料理を作ることも、すごく好きで。それもパンではなく、お米ばっかり食べていたんです。大学の卒制で“器と料理”に取り組んだのも『“ご飯”でどうにか卒業できないか』と、ゼミの先生と考え抜いた結果で(笑)。これまでの人生を振り返ってみても、自分がこうして『器とお米』のお店に立たせていただくことにすごく納得感があるというか、導かれるべくしてこうなったという感覚があります」と笑顔を見せる佐藤さん。
「老夫婦で仲良く営まれているようなお店も好きで、『いつかは自分も』という憧れはあったのですが、まさかこんなに早く実現するとは(笑)」と緒方さん。
初めての飲食店経営に戸惑うことも多かったという緒方さん、真衣さんという心強いパートナーを得て、ミニマムな形での再出発です。「飲食店は家族経営でされているところも多いので、僕らもまず二人で頑張ってみようと。また軌道に乗ってきたらアルバイトさんに入っていただくことも検討しながら、身の丈に合わせてやっていきたいですね」
新たな春に、新たな食事の愉しみを
3月21日にいよいよリニューアルオープン。ディナーではランチの「ご飯、メイン、スープ、小鉢」に加えて、たっぷりの前菜と、嬉しいデザートがコース形式で提供されます。
「県外のクラフトビールやジン、珍しいリキュールやソフトドリンクなども多数仕入れているので、ディナー営業ではぜひ、ドリンクとのペアリングもお楽しみいただきたいですね。
また、吉田幸央さんや田村星都さんなど、これまでお出しできていなかった秘蔵のお皿も実はまだたくさんあって。『器とお米を楽しむ』というHO GAのコンセプトはそのままに、より豊かな食事の時間ご提供していきたいです」
「器の魅力を、もっと身近に伝えたい」。その一心で「自分の店を持つ」という大きな決断をした緒方さん。その試行錯誤の日々も包み隠さず話してくださる姿には、「これからお店を始めたい」という方もきっと背中を押してもらえるはず。
新たな船出を切った新生「HO GA」。器に興味がある方もそうでないという方も、ぜひ緒方さんと真衣さんのお二人を訪ねてみてください。
名称 | HO GA(ホウガ) |
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URL | ▼ホームページ ▼営業詳細はインスタグラムにて |
住所 | 石川県小松市那谷町サ76-1 |
営業時間 | 11:00〜15:00、18:00〜21:00(※夜は完全予約制) |
定休日 | 水曜日・木曜日 |
料金 | 【ランチ】¥2,200- 【ディナー】¥4,400- (※要予約制)
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