real local 福井「ローカル線のリアルを伝えるメディア」 あるいは、越美北線補完計画 - reallocal|移住やローカルまちづくりに興味がある人のためのサイト【地域情報】

「ローカル線のリアルを伝えるメディア」 あるいは、越美北線補完計画

地域の情報

2023.04.15

クマゴローカフェで朝ごはんを食べていたある朝、店主の牛久保さんから「reallocalに文章書いてみませんか」と誘われた。文章を書くのは好きな方なので一も二もなく「いいですよ」と返答したのだが一体何を書けばいいのか。「何でもいいんです」えっなんでもいいの。字数は。「字数は1500字くらいかな。でも2000字でも3000字でもいいです」ゆるい。ゆるすぎる。そんなにゆるくては何を書けばいいのかかえってわからなくなる。
 reallocalのサイトを開いてみる。「ローカルのリアルを伝えるメディア」とある。僕は福井出身ではないので、福井のローカルに詳しいわけではないが、やはりここは福井のことを書かねばならないのだろうななどと思いながらページのカーソルを下げていくとオレンジ色のローカルな車体が目に飛び込む。JR越美北線だ。なるほどそういうのもアリなのか。もともと鉄道が好きで、福井に来てからも北陸のいろんなローカル線に乗ったしもちろん越美北線にも乗った。ということで今回は「ローカル線のリアルを伝えるメディア」(ただし独断と偏見に基づく)ということにさせていただこう。

 

「ローカル線のリアルを伝えるメディア」 あるいは、越美北線補完計画
近隣住民が、乗らなくてもわざわざ見に来る越美北線

 越美北線についてはいろんなところに情報があり、詳細は今更ここに書く必要も無いと思うので省略するが、はっきり言って越美北線の運命は風前の灯だ。そもそもが盲腸線である(ちなみに「盲腸線」とは起点もしくは終点のどちらかが他の路線に接続していない行き止まりの路線のことを言う。同じく県内ローカル線の小浜線との決定的な違いである)。また、たいていの田舎がそうであるように福井もまたクルマ社会であって、だいたいの人は車を持っておりわざわざ鉄道に乗らない。加えて北陸新幹線の敦賀延伸で現在のJR北陸本線は第三セクター化され、この越美北線はJRの飛び地路線となることが確定している。
 沿線地域では越美北線の廃止を回避すべく、地域の賑わいや観光需要の創出など利用促進のためのさまざまな努力が行われている。それはそれでよいのだが、僕自身はこういった動きには鉄道好きへの視点が欠けている気がして少し残念だ。ここでいう「鉄道好き」とは、鉄道に乗ることそのものを目的として来てくれるお客さんのことだ。キハ120の挙動や揺れそのものを楽しみ、鄙びた駅舎や鉄路を含めた風景を楽しんでくれる人のことだ。
 ここで僕の鉄道好きとしてのスタンスを明確にしておきたい。世にいう「鉄ヲタ」には様々な分類がある(自分のことを鉄ヲタなどと称するのもおこがましい)が、いわゆる「乗り鉄」である。鉄道に乗るのが好きである。スマホやカメラで写真を撮ったりもするが、沿線でシャッターチャンスをひたすら待ったり世間様にご迷惑を掛けたりするような「撮り鉄」ではない。鉄道を写真に撮るよりかは、鉄道に乗ることの方を楽しみたい。つまり僕もまた、越美北線に乗ることそのものを目的にしてやってくる乗客のひとりだ。
 そんな乗客が越美北線にやってくる。できるだけたくさん列車に乗って、できるだけたくさんの駅で降りてみたい。しかしローカル線の常、運行本数は少なく、越美北線を楽しむためには交通手段としての越美北線だけでは如何ともし難い逆説的な状況が展開される。たとえば始発列車723Dは福井駅を9:08に発ち(遅っ)、終着の九頭竜湖駅には10:42に到着する。この折り返し列車724Dは九頭竜湖を10:56に発車。九頭竜湖駅での滞在時間は実に14分しかなく、さもなくば次の列車726Dは九頭竜湖発14:32だ。これはつらい。なお、九頭竜湖発の始発720Dがもっと早い時刻にあり5:52発(福井着7:23)だが、九頭竜湖駅に朝の5時台に居ようと思えばおそらくは車がなければ厳しいだろう。あるいは数えるほどしかない九頭竜湖駅周辺の宿泊施設を利用するか。
 といったように、単独では非常に心もとない越美北線の補完手段として提案したいのは自転車、できれば折り畳み自転車である。折り畳みでない自転車でも、簡単にバラせて輪行できるようなものであればよいのだが、乗車する回数が多くなればなるほどバラして組み立てての一連の作業は当然ながら面倒なものになる。その点、ローカル線と折り畳み自転車の組み合わせは最強だ。

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自転車を列車内に持ち込んで移動することを「輪行」という。必ず袋などに入れなければならない。

(なお昨年、モニター的に越美北線サイクルトレインが試行されたようだが、今後継続的に実施されるかは不透明だ。運用の仕方が僕個人的には「いや…そうじゃねぇんだよなぁ」と思ったのだが、それはまた別の話。)

 冬のある日、雪の越美北線を堪能したくて、折り畳み自転車を担いで福井駅から乗り込んだ。越前花堂(えちぜんはなんどう)駅を過ぎて北陸本線から離れると早くももう一面の銀世界である。

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越前大野駅周辺の鉄路

 白を纏った里山の風景や丘陵地帯を楽しみつつ九頭竜湖駅に到着。

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九頭竜湖駅直前の鉄橋
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九頭竜湖駅の駅舎。ここで自転車を組み立ててレッツゴー

 そこで自転車を組み立てて、国道158号線をひた走る。ときどき越美北線の鉄路とくねくね絡み合いながら大野市内の荒島旅舎に到着。

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 下り基調の27.7km、1時間半弱の雪見ポタリングだ。

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その日荒島旅舎では中国茶のイベントが開催されており、あたたかい中国茶をいただいて、越前大野駅からまた自転車を畳んで福井市内に列車で戻った。

 5月、もはや初夏といってもよいほどの陽気のある日、これまた大野の荒島旅舎で開催されていた鉄道に関する展示イベントと、小和清水(こわしょうず)近くの鮎釣り小屋ちどり荘で開催されていたDJイベントのハシゴを画策した。この日は敦賀方面から向かったため、福井からではなく越前花堂から越美北線に乗車する。

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越前花堂駅にて
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フォントフェチにはたまらない

 一路大野方面へ向かい、越前大野で下車し荒島旅舎へ。マニアックな鉄道アイテムの展示に感心して、となりのモモンガコーヒーで一服してやおらチャリを組み立てて自転車でちどり荘へ向かう。道路はほぼ越美北線と並走しており、いろんなところで写真を撮りながら走る。列車に乗っているだけでは出会えない光景であり楽しい。

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 そうこうしているうちに目的地ちどり荘に到着。これまた下り基調の16.6km、時間にして1時間弱。お気楽極楽ポタリングの末にたどり着いたのは、足羽川沿いで音楽がゆるく流れる、それこそ桃源郷のようなところだった。離れ難いのをなんとか振り切り、近くの小和清水駅から再び越美北線に乗り込み夕方に福井市内に到着した。

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離れがたいが、人には行かねばならぬ時がある

 先にも書いたとおり、越美北線の運命はまさに風前の灯だ。僕個人的には、いろいろ利用促進策を打ったとしても、結局沿線人口が増えなければどれもカンフル的な役割しか果たさないのではないかと思っている。ここでローカル線存続のための議論をブチ上げる気はさらさらないのだが、ひとつ確実に言えることは、今のうちに乗っておかなければ越美北線はいずれ廃線の運命を辿るということだ。なので僕はできるだけ越美北線に(チャリを担いで)乗るし、他の人にも「乗るなら今のうちだよ」と勧めている。一回でも多く乗ることが越美北線の延命(とあえて言ってしまおう)につながるし、そうすることが僕にできる唯一のことだからだ。

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