【福島県・白河市】大島屋蒟蒻店が営む『おでん「髪と台詞」』 。ご夫婦の過去の物語でありながら、おふたりとの楽しい時間をオープンにしている場所。
お店の情報
おでん屋さんをやることにしたきっかけは、コロナだった。それまではイベントでの出店、旅館からのこんにゃくやところてんの受注など、お店がある白河市のまちの外に出る機会が多くなっていた。ただ、こうなっていったのもこんにゃくがまちのスーパーなどで売れず、賞味期限切れの商品をただ新品に交換するだけという過去があったからだ。それでも、まちに戻りたいと思ったのは、人が集う場を大事にする吉島さんだからだ。
『おでん「髪と台詞」』は、蒟蒻屋がやるおでん屋。だが、「こんにゃくがおでんの主役じゃなくていい」と話す。福島の食材や、その時期の各地のいい食材が、「こんにゃくと共演する舞台」をつくっている。200年続く大島屋蒟蒻店の8代目でもある吉島祐輔さんに、そんなおでんをいただきながら、お話していただいた。
まさかこんにゃく屋になるとは
吉島さんは、大阪生まれで20歳から東京で10年間お芝居をしていた。その時に、美容師をしていた後の奥さんとなる佳津恵さんと出会った。佳津恵さんは、200年続く蒟蒻屋さんの3姉妹の次女で後継者がいないことから「じゃあ私が」という経緯だった。
名字は吉島だが、江戸後期の頃に大名に大島という屋号をもらい、大島屋。夏は花火屋、冬はこんにゃく屋という珍しい歴史を持つこんにゃく屋だ。
商品棚の期限切れのこんにゃくを交換していた時期も
「私がこんにゃく屋になってからはじめの頃は、スーパーが頼みの綱でしたが、価格勝負なのでさらに安いものが棚を占めていました。自分もこれ以上は値下げできない値段に設定して販売し、つくったものを捨てないで良かったと思ってしまうほど無茶苦茶な状態でした。」
一生懸命、売り歩いた
立て直しの機会となればと思い参加した、お試し商談会では、老舗大手百貨店で手売りする機会を得た。しかし、周りに気張りすぎだと言われるほど一生懸命に売り込んだのに、全くお客さんに売れなかった。お父さんと頑張って準備したが全然売れない。「いつものスーパーよりも、高付加価値のところで全部売れたら、、、」と思っていたのに情けなさすぎて、涙が浮かぶような感情だった。
ある時、「別にあれなんですけど、僕ら手作りでやっとって。まぁ食べてもらったらいいんですけど、無理に買ってもらわないでいいですよ。」みたいな、本当に思っていることをお客さんにポツポツと話したら、「じゃあ買ってみるわ」となり3個売れ、「私も」となり5個売れた。すごく嬉しくて、もう一度同じことをやった。でもダメだった。「その時のまじで言っていることしか伝わらない。演技(テクニック)にした途端にダメでした。」
そんな時、吉島さんが取り掛かったことの1つがこんにゃくのこんにゃく芋にこだわることだった。
過去に日本で一番のこんにゃく芋だったことが
こんにゃく芋は、福島県矢祭町で栽培されている在来種和玉。その品種は、運玉と呼ばれるほど、栽培が難しいもの。春に植えて冬に掘り返し、越冬はあったかい室(むろ)で保管し、春にまた植え直す。それを3、4回繰り返すため、3〜4年育てることになる。その間に消えたり、病気になったりしてしまう。そんな貴重なこんにゃく芋をこんにゃくにしたのが、大島屋蒟蒻店の白河蒟蒻だ。
吉島さんは、「在来種が大切にされてきた背景も守りたいんです」と話す。今や品種改良で、栽培しやすいものが全体の97%を占めている。在来種は、粘り気や弾力を出すマンナンの値が高い。品質でいうと、在来種が好ましいのは間違いないのに、生産者たちは、苦労してつくっても、たくさん安く取引される品種には負けてしまい、在来種のこんにゃく農家は減少している。かつてはこんにゃく芋で稼いだお金で、多くの子どもが大人に成長してきた。そういった文化を守るためにも適正価格で買い取って、こんにゃくをつくっている。
在来種の生芋を扱うことをきっかけに製法を変え、味、食感ともに進化した。
「あく水を捨てるのがミソなんです。分離するあく水をすてるのは昔のやり方で、こんにゃくの大吟醸みたいでしょ。」
ミキサーでこんにゃく芋をすりおろしてしまうと、あく水と完全に混ざってしまうため分離させられない。おろし金(手作業)ですりおろすからこそ、あく水を分離させることが可能になる。こんにゃく芋の状態に合わせて、食感を確かめその時々でつくる、マニュアル化できない難しさがある。
こんにゃく芋が扱いやすい品種に淘汰されていくのはしょうがないと思いつつも、こんにゃく屋として、苦労していた自分と重ね合わせ、よい物を面白がってくれる人に届けたいという思いは変わらなかった。
お会いしたことのない地域の人とも出会いたい
「ここは、ただおでんを売るだけじゃない。この場所に集まる人、時間を共有する空気感が売り。その軸には、私たち夫婦自身がいたいと思っています。店名『髪と台詞』は、奥さんは美容師、夫は俳優という2人の過去を表しているだけでなく、好きなことをやりたいようにやっている自分たち自身とお客様で、一緒に時間を過ごしたい」そんな思いが込められている。
「そのためにもまずは、地元の人にとっても足を運びやすい場所になりたいと思っています。ローカルを扱う人として、外からたくさん人を集めるだけではなく、自然に人が集まるように、必要としてくれた人、良いものを面白がれる人に届けたいです。」
面白い時間と空間を提供しているこの空間。おでんの具のように音楽を楽しむ姿もある。音楽が好きな人が集まってきて、新たな縁が生まれる空間がある。
吉島さんは、アーティストのような雰囲気のまちの仕掛け人。自らが面白がっていて、それで暮らしていけるまちを目指しているそうだ。そして外の人も混ざりたくなる。そんな持続の仕方。次から次へと新たな関係性が生まれていくきっかけをつくる、地域を巻き込む仕掛け人。まちの人の新たな繋がりをつくる演出家のようだった。
これからも地域に根差し、多くの地域の人に愛されるであろう場所。ここから何が生まれるのか。私もその中にいたいと思った。
名称 |
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業種 | 蒟蒻、おでん提供販売店 |
URL | |
住所 | 福島県白河市天神町6番地 |
TEL | 0248-23-2704 |
営業時間 | 火曜日〜日曜日 17:00~23:00 |
定休日 | 月曜日 |
備考 | 有限会社 大島屋(大島屋蒟蒻店・工場) 福島県西白河郡西郷村大字熊倉字折口原454-3 TEL:0248-25-1987 FAX:0248-25-4876 |