【名古屋市北区】名古屋の日本酒。老舗の酒蔵がその味わいと楽しみ方を発信。
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愛知県でも知多半島の醸造業は有名ですが、名古屋にも同じ発展の歴史があることはあまり知られていません。尾張藩の後ろ盾によって広がった名古屋の酒造り。街中にある酒蔵として、その存在感を放ち続けようと奮闘する金虎酒造の水野さんに話を聞いてきました。
江戸後期に発展した愛知の酒づくり。現在も名古屋には5つの酒蔵がある!
愛知県には江戸後期創業の酒蔵も多く、特に知多半島には最盛期で200を超える酒蔵があったと言われています。
というのも、当時、肥沃な濃尾平野で毎年しっかり穫れる米を安定して消費する産業として、愛知尾張藩が酒造業を奨励していたからです。海運の便も良かったことから、造られたお酒のほとんどは船で江戸に運ばれていたと言います。そうした酒造りが盛んだったのは知多半島だけではありません。その頃、名古屋市内にも数多くの酒蔵が誕生していました。
「金虎酒造もそのうちの一つで、江戸後期の1845年に創業しました。初代の大阪屋善兵衛が、名古屋城下町からほど近い田園地帯だったこの場所で酒蔵を開いたのが始まりです。現在は国道19号線沿いですが、当時は名古屋城から善光寺へと続く、善光寺街道の入口に位置する山田村で、近くには矢田川、掘れば井戸水と、条件が揃っていたことから酒蔵を開いたそうです。ここから車で北へ5分ほどのところにも酒蔵があるように、名古屋には他にもまだまだたくさんあったと聞いていますが、現在は5蔵まで減ってしまいました。それでも名古屋市内に5つも酒蔵があることに驚かれます。」
名古屋の人が、名古屋の酒を知らない!創業178年の酒蔵としての意地。
金虎酒造の当主は代々、『善兵衛』を名乗ることになっているそうで、101歳の現会長が5代目、水野さんは7代目です。戦時中の名古屋大空襲ではこの地域も被災して酒蔵は全焼しましたが、4代目の時に建て直されました。再建のための資材や道具をかき集めるにも、戦後の物資不足で思うようにはいきません。そんな中、犬山にあった製糸工場を解体して移築された建物は、現在も倉庫として使用されています。
休業や廃業を余儀なくされた酒元も少なくなかった戦時統制下を乗り越えたものの、平成に入ると日本酒業界に新たな波が押し寄せました。
「日本酒業界には“桶買い”と言って、有名な銘柄を造る酒蔵が、規模の小さな酒蔵から買って自社ブランドとして販売するという仕組みがあります。平成に入って日本酒の消費量が減退すると、この桶買いも縮小したため、小さな酒蔵は次々と廃業しました。大手酒蔵への納品がなくなれば、自社の銘柄でやっていくしかありません。それぞれの酒蔵が生き残りをかけて、自分たちの個性を発揮しながら様々な銘柄が生み出されていきました。」
そんな中、10年ほど前から日本酒業界は盛り上がりを見せるようになりました。日本酒イベントが増えて地酒メーカーへの注目度は上がっているのに、地域の人たちには地元の名古屋に酒蔵があることはまだまだ知られていませんでした。イベントを行うたびに「名古屋にも酒蔵があったのですね!」と言われ続け、驚かれることに危機感があったと水野さんは言います。
「そうした危機感と、名古屋の人たちにもっと名古屋のお酒を飲んでもらいたいという想いから、7年ほど前に名古屋市内にある4つの酒蔵が一緒になって、名古屋の地酒を地域ブランドとして発信する“ナゴヤクラウド”をつくりました。人口が多い大都市の名古屋には、全国各地からいろんなお酒が入ってきますので、買う側の選択肢も多いです。そんな中で名古屋の存在感を出し続けなければならない。名古屋にはこんなお酒があると自慢してもらえる存在になりたいと思って造っています。」
ワイングラスでおいしい日本酒アワード 最高金賞を受賞。
全国新酒鑑評会では2016年から金賞を受賞し続けている金虎酒造。名古屋の誇れる銘酒を新たに作りたいという想いで2012年に製造がスタートした『虎変(こへん)』は、「International Wine Challenge」をはじめ数々の受賞歴があります。
2018年から4年連続で「ワイングラスでおいしい日本酒アワード」メイン部門の金賞を受賞しているのは、大吟醸『名古屋本丸御殿』(2020年は最高金賞受賞)。また、純米大吟醸『名古屋城 本丸御殿』は、プレミアム純米酒部門にて、今年の最高金賞を受賞しました。
日本酒の新しい味、楽しみ方に挑戦
こうした日本酒の開発の他、年に1回、テーマを決めて少量仕込みで新しい味にトライしているそうです。その名も「金虎チャレンジタンク(KCT)」。
例えば、名古屋名物の「つけてみそ、かけてみそ」に合う日本酒、洋食にも合う低アルコールの日本酒、原材料の麹を他蔵と交換して造る日本酒など。
そして今年のKCT2023では、純米酒と本醸造酒の違いを感じてもらおうと、飲み比べできる日本酒と、『純米VSアル添』というパンフレットがセットになった商品を企画されました。実際に体感してもらえるイベントも開催。
「なぜか純米酒に比べ本醸造酒(アル添酒)は敬遠されがちで、純米酒の方が美味しい、悪酔いしないと思われがちです。実際はそんなことはなく、作り方が異なるだけで、それぞれの良さや特性があります。
今回のKCTは、これらの特性を正しく知ってもらいより深く日本酒を味わってほしいという想いで企画しました。教科書には、テイスティングのポイントも細かくレクチャーしています。『なぜアルコール添加するのか?』『それによって味はどう変わるのか?』といった内容を盛り込んでいます。日頃から純米酒を好んで飲まれているという方には、ぜひ試していただきたいですね。」
蔵を開いて、人を迎え入れる。これからも街中の身近な酒蔵でありたい。
日本酒ブームのずっと前から、蔵を開いて人を迎え入れてきたという金虎酒造。平成の初め、水野さんの父親である6代目の時から蔵で毎年コンサートを開催してきたこともあり、設備も整い、蔵でのイベントが実施しやすくなっているのだそうです。
「大曽根駅から歩いて15分ほどで来られるという立地も金虎の強みだと思っています。山里にある酒蔵の神秘性とは違う、“街中の蔵”という金虎の個性を生かしたい。街中の酒蔵にふらりと立ち寄り、お酒を飲んでもらう。そんなライブ感を提供していきたいと思っています。」
2020年に開催された「金虎総選挙2020」では、金虎酒造のファンによる人気投票が行われ、ファンイチオシの銘柄が発表されました。コロナ禍でいろいろなイベントが中止になる中での金虎ファンとの交流は、とても実りあるものだったと水野さんは言います。これからも名古屋の魅力と日本酒文化を発信していくイベントを積極的に企画し、名古屋に根ざした活動を行っていきたいと話してくれました。