【鹿児島県錦江町】錦江町の日常を味わうフリーペーパー“錦江おてもと”/ 錦江町の編集室 友安麻里亜さん
インタビュー
鹿児島県錦江町にて錦江町の日常をフリーペーパー『錦江おてもと』(以下:おてもと)にて発信されている友安麻里亜さん。そんな友安さんから“おてもと”の制作に至った背景等を伺いました。
何気ないものが編集への想いを強くする
地域おこし協力隊(以下:協力隊)として2021年春に錦江町へ移住された友安さん。
錦江町との出会いは、シェアハウスに住んでいた友人に「錦江町へ遊びにおいでよ」と誘われたことがきっかけでした。
その時に出会った町役場職員の一言が友安さんの心に火をつけたそうです。
“君は本当にやりたいことがあるんだろう?君のやりたい仕事がこのまちにあるはずだ”
学生時代から出版社で編集者として働くことを夢見るも
その夢は砕け散ったといいます。
「役場職員の方の一言がなかったら、やりたいことをずっと心の中に閉じ込めたままだったかもしれません。」
「この本と出会い、腹を括る覚悟ができたんです。」
手にとったのは福井県在住のmiyonoさん著の『とある暮らし』でした。
「10〜90代の男女50名に同じ質問をして、日々をふつうに暮らしている人たちの暮らしと感情が綴られています。これを読んで“生活と仕事は地続きなんだ”と感じたんです。」
「私は編集の中でも、特に本をつくりたかったんです。だから、錦江町でも同じことをしてみたい。錦江町で暮らす人たちにインタビューしてみたい。心の底からそう思いました。」
同じまちの協力隊のサポートもあり、フリーペーパーをつくる挑戦が始まったのです。
錦江町の日常を味わってほしい
フリーペーパー“おてもと”の由来は何なのでしょうか?
「名前を考えた時、パッと頭に浮かんできて。“おてもと”は料理屋さんでお客さんの手元に置く小皿やお箸を意味します。」
「だから、手にとった人にとって錦江町の日常を味わってもらうためのお箸になってほしい。錦江町の日常が身近に感じてほしい。そんな願いを込めています。」
“おてもと”では、錦江町の日常をフォーカスしています。
最初の号は実験号と名付け、5人の町民インタビューを行ったそうです。
質問は統一し、なるべく天然無垢なまちの様子を伝える表現で綴られています。
「実験号の最初の取材では、手がとても震えてしまって…。車の運転しながら手汗が止まりませんでした。緊張8割、ワクワク2割の状態だったかな…。」
「それが取材先の方にも伝わってしまい、ガチガチな雰囲気で取材したのを覚えています。この時に初めて、自分の感情は相手にも伝染してしまうんだと感じました。」
そんな友安さんを支えてくれたのは一緒に取材・編集に携わった協力隊の仲間でした。
「一人で作業をしていると“これでいいんだろうか?”と思う時があって…。でも、仲間がいると軌道修正もできましたし、思わぬ発見もあって、それが制作するモチベーションになりました。」
空気感を伝えていくことで
“おてもと”に掲載されている写真は全てフィルムカメラにて撮影されています。
「錦江町は観光地が少ないのですが、何だかすごい魅かれる何かがあるんです。その空気感を残したいし、伝えたい。フィルムカメラで撮影しているのは空気を映してくれるからなんです。」
さらに、「まぁ」「えーと…」といった言葉遣いまで残し、温度感のある文章に仕上がっています。
「取材を受けてくださる皆さんは、1つ1つの問いに対して真剣に考えてくださるんです。そこも形に残したいと思って。」
「取材を始めてから、“道路端の畑に見たことがない植物が育ってる”“いつも買う唐揚げの味が甘い”だったり、そんな些細な変化を感じるようになってきました。」
「それは写真でも文字でも表現できない、本当小さなことかもしれません。でも、五感を澄ましてみると、 “あ、昨日と何か違うなぁ”って思うんです。その積み重ねがまちの大きな変化に繋がっているのだと思います。」
自身の中の感覚が変わっていると気づいた瞬間、ある言葉が友安さんの頭の中で浮かんだそうです。
それは平家物語の冒頭で述べられている“諸行無常”でした。
「そこから、今まで以上にまちの文化が面白いと思うようになったんです。昔は同じ薩摩藩だったのに、まちや半島が異なれば全然違う。それが面白いなって。」
「人はいつか必ず死ぬのに、文化はずっと人の手で繋がってきています。そう思ったら、それは残さないといけないのではと感じました。」
「取材を始めた当初は人をみているつもりでした。でも、まちは人からできている。そんな当たり前のことを認識するようになってから“人を通して、まちをみているんだ”と思うようになりました。」
これでもいいんだ
「取材する方・したい方にちゃんと会いにいく。これは取材前後関係なく、私の中で大切にしていることです。」
そのように力強く答える友安さん。
実際取材を通して仲良くなった方は多く
色々と気にかけてくれるといいます。
「“マリアちゃん!”と私を孫のように可愛がってくれる方もいます。人によっては時々電話をかけてくれます(笑)」
「取材する方は散歩していて、たまたま家の庭先にいらっしゃって私が挨拶した方だったり、日常の暮らしの中で出会った方ばかりです。」
「元々、私はネガティブな性格なのですが、皆さんの話を聞いていると“これでもいいんだ”と思えるようになり、心が軽くなりました。」
“おてもと”を制作してから錦江町に関する資料を調べるようにもなったそうです。
その上で、実際に気になる場所へ足を運び、実際に肌で感じた情報も大切にされています。
「私が一番気になるのはまちの人がどのように暮らしてきたか。それが情報として案外残っていないことが多いんです。」
「今、町民インタビュー集をつくることに挑戦しようと考えています。結構大変なことですが、絶対完成させる気持ちで臨もうと思います。」
「それが結果的に、ほんの少しでも今を生きるまちの人の生活史的な役割になり、今を残すことに繋がったら嬉しいです。」
屋号 | 錦江町の編集室 錦江おてもと |
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URL | |
住所 | 鹿児島県肝属郡錦江町神川3306-4 |