【鹿児島県鹿屋市】一人一人が“自分を好きになる”機会を、カジュアルに / 放課後等デイサービス リトルオレンジズ 日野尚子さん
インタビュー
鹿児島県鹿屋市にて『放課後等デイサービス リトルオレンジズ』を運営されている日野尚子さん。そんな尚子さんから、福祉事業に至った背景や理念等についてお話を伺いました。
自分を許す
20歳から4年間、アメリカで生活された経験のある尚子さん。
その多くを過ごされたポートランドでは
肌の色も、国籍も、特性も関係なく
同じ空間で勉強や仕事をしていたといいます。
「普通の人が一体どんな人を指すのか。それがわからないほど、多様性に営んだ空間でした。」
「それぞれの文化、趣味嗜好、特性・障害を持った人が自分の考えや人間性に自信を持って生きているように見えたんです。」
当時のことをそのように振り返ります。
さらに、現地のある友人についてお話してくださいました。
「外見がとても可愛らしい女の子の友人がいたのですが、彼女は毎朝バリカンで頭を剃り上げて通学していました。」
「理由を尋ねると“女性としての私ではなく、人間としての私を評価してほしい”と力強く答えたんです。」
「他にも、外見が良く、勉強もできるのに、洋服を裏表逆に着ていたり、家では全く片付けができなかったりする人もいて。」
「日本ではマイナスに捉えられる部分も気にすることなく、“これが私だ!”とみんな胸を張って過ごしていました。」
“こうあるべき”や“こうすべき”でもない。
みんな、それぞれでいい。
当時、自己嫌悪のあった尚子さんにとって
その感覚を自分ごととして捉える出来事が起きます。
「私は小さい頃から“自分はダメだ”と思い、自己嫌悪に陥ってしまう傾向にありました。そんな私に対して、アメリカ人の友人が放った一言で自分に対する見方が変わったんです。」
“どうして、あなたはそんな小さなことを気にしているの?”
“私から見たら、あなたの抱えているものは小さなことに思える。ダメなところより、良いところがたくさんあるから、そっちに目を向けてみたら?”
その言葉を言われた瞬間、目が覚める気持ちになったそうです。
「私は素晴らしい人間でも、多くの人に貢献できる何かができるわけでもない。でも、そんな自分を許そうと思ったんです。」
「自分なりに頑張っているから、それで十分なんだ。ありのままで生きていこう。そう思えただけで、気持ちが楽になりました。」
アメリカで得た感覚は時を経て
福祉というカタチで違う誰かに届くことになるのです。
誇り高く、堂々と
日本に帰国してからはいくつかの会社に勤め、30歳で結婚。
同年、現在リトルオレンジズのある建物で行っている別事業のサポートのために合流することになりました。
数年経ち、今後の事業展開について模索した時のこと。
周りから「放課後等デイサービスをしてみては?」とアドバイスを受けたそうです。
それまで福祉の世界に踏み込んだことのなかった尚子さん。
心の中に言葉にできない高揚感を感じたといいます。
そこで、2018年に鹿屋市寿エリアにて『放課後等デイサービス リトルオレンジズ』を開所。
場所は元々別事業を展開していた建物内の一部を活用されています。
「アメリカで生活していた時、有名なスーパーマーケットに行くと、鹿児島発祥の小ミカンがsatsumaと呼ばれ、売られていたんです。」
「それがすごい誇り高かったんです。“あ、同志だ”“薩摩からこっちに来て一緒に頑張ってるじゃん”って。」
「だから、ウチに通う子どもたちもスタッフも、その小ミカンのように、どんなに困難な状況でも誇り高く、堂々といてほしい。そう思い、リトルオレンジズと名付けたんです。」
リトルオレンジズにおける主な活動は
10分トランポリン、10分集中、英語療育の3つが柱となっています。
10分トランポリンでは
重力、スピード、目の動き、音の聴こえ方。
他にも様々な感覚を一遍に浴びるという、他にはないプログラムになっています
「放課後等デイサービスに通う発達障害の特性を持つ人の多くが感覚過敏(※1)の症状があります。」
「トランポリンを楽しみながら遊ぶことで、自分の中に入ってくる刺激を自身の力でプロセスする力がついて、感覚過敏が軽減されていくようです。」
10分集中では毎月の目標に合わせて週替わりの活動を用意するのだとか。
「例えば、お箸の練習なら、子どもたちのレベルに合わせた箸を用意し、どの子も“できた!”と感じれるようにサポートします。」
「箸の運動ではあるのですが、箸の使い方を上手になってほしいわけではありません。“ん〜〜っ!”となるのをグッと抑えて最後までやり遂げることで自制心が身につけられるんです。」
「大事なのは“自分を好きになろう”ということなんです。特性の有無は関係ありません。子どもたちにもスタッフにも“どんな状態だろうが、私はあなたたち一人一人をとても愛しているよ”と伝えています。」
(※1)五感(現在では固有覚、前庭覚を加えて七感ともいわれている)から受け取る刺激を過剰に強く感じてしまう状態。その症状や度合いには個人差がある。
褒められる機会を用意することで
“支援の中にいつも楽しいを”
“障害があっても、褒められる機会を、
できた!を感じられる機会を、愛される機会を“
リトルオレンジズでは
この2つの理念のもと、活動されています。
その中でも新しい挑戦として
2021年秋にリトルオレンジズイングリッシュを開所されました。
歌ったり、ボードゲームをしたり、アルファベットでパズルをしたり…。
楽しみながら、褒められながら自信をつけて「できる!自分」と感じてもらうことをゴールとして設定し、1時間程度行っています。
「この時間を通して、自分のできることに目を向けてもらって、生きづらさを感じた時や自己嫌悪に苛まれた時に、自分を認める一翼になれたらと思って始めました。」
「自由な発想が歓迎される環境を提供し、型にハマらない知識や経験を積むことで、学校や社会といった集団に戻った時に活きてくると思うんです。」
「“できた!”を繰り返していると、自然とその子は無理をせずに生きていけるようになると思うんです。褒められる機会を用意するのが私たちの使命だと思っています。」
子どもたち一人一人に対するプログラムは尚子さん含めたスタッフ全員で知恵を出し合っているといいます。
子どもたちと日々過ごす中で、彼らが起こすミラクル(成長)から逆に自信をもらっているそうです。
「言語でのコミュニケーションに困難があり、返答もオウム返しが主だった男の子は、特別支援学校でも噂になるくらい英語が上達しました。将来の夢について尋ねると手書きで“えいご”と答えてくれて、美しいなと感じました。」
「多動や不注意で学校では怒られてばかりの子どもたちも次第に英単語を綺麗に発音できて、周りが“おー!”と驚きの声をあげていました。」
「英語療育は突き詰めると、脳科学や心理学にも繋がっていて、無限の可能性を感じています。でも、周りに“おー!”ってリアクションされる、その体験をするだけで十分だと思っています。」
「“ここで英語を習っているから、英語がうまい”ではなく、純粋に子どもたちのことを褒めてほしいんです。」
「子どもたちもですが、活動に携わってくれているスタッフのことも自慢したいです。」
信じることの積み重ねの先に
「うまく言語化できないのですが、何となくの感覚で示したものが、不思議と綺麗な道筋となっているんです…。それは、ここ数年の話です。」
1日に1つは四つ葉のクローバーを発見したり
苦手な書類であっても修正箇所を的確に指示できたり…。
「私は福祉の世界を歩むことなく、素人として、この事業を始めました。もちろん、日々勉強はしていますが、福祉の世界にいる者として、まだまだ知識や経験は足りません。」
「リトルオレンジズの活動は私たちが“良い”と信じたものを実践しているだけなんです。失敗や成功を繰り返しながら、試行錯誤しています。」
「先日、友人と話していた時に“自分を許す”“自分を信じる”ことの積み重ねで生まれた道筋なのかもしれないと言われました。」
「言われてみればそうかもしれません。気づかぬうちに、子どもたちと向き合っている私自身が“自分を好きになった”からなのではないかと。」
「これまでの人生で経験してきた成功や失敗、それらを全部踏まえた上で、あなたが一番良いと思うことをしてほしい。スタッフにはいつもそのように伝えています。」
最後に今後の展望について伺いました。
「実は、この場所を今年度中に地域の人たちがより利用しやすい施設へ生まれ変えようと動き始めているところなんです。」
「リトルオレンジズのある建物では洋服が買えたり、ボルタリングで遊べたりするので、いろいろな人が出入りできる場所となっています。」
「鹿屋のまちの中心で福祉を始めた意味があると思っていて。それを社会や地域にカジュアルなカタチで還元したい。」
「コーヒーを飲むだったり、読書をするだったり、何気ない日常行為がこの場所で繰り広げられて、その先にインクルーシブ(※2)に繋がったら。」
「それで地域の人が日常的に利用して、ルールといった枠組みもない、ゆるい場所にしていきたいです。」
「だから、福祉とかどうではなく、単にこの場所に行きたい。この場所に居たい。この場所で何かしたい。そう思ってもらえるだけで嬉しいです。」
「一人一人に降り注ぐものをポシティブなものに、楽しいものに、喜ばしいものに。小さなミラクルの連鎖がその道筋になるのかもしれません。」
「そのために、どんな困難を抱えていても、誇り高く、堂々と生きられる人が一人でも増えるように、子どもたちと向き合っていこうと思います。」
(※2)障害の有無や性別、人種などの様々な違いがある中で、このような違いを認め合い、すべての人がお互いの人権と尊厳を大事にして生きていける社会のこと。
屋号 | 放課後等デイサービス リトルオレンジズ |
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URL | |
住所 | 鹿児島県鹿屋市寿8丁目10-4 |
備考 | ●正社員・パート募集中 児童発達支援管理責任者・保育士又は児童指導員(支援員)を募集中です。 詳細はリトルオレンジズSNSか担当(080-3157-7431)までお問い合わせください。 |