【鹿児島県日置市】寄り添い、今までにない日常を一緒に楽しくつくる場所 / カキノキベース 後藤亮太さん
インタビュー
鹿児島県日置市にて古民家を改装し、義肢装具業と服飾業が織り混ざった工房『カキノキベース』を運営されている義肢装具士の後藤亮太さん。そんな後藤さんから義肢装具士になられた背景や工房を始めるに至った想い等を伺いました。
患者と目線を合わせて向き合う姿勢
「実は、義肢装具士になったのは高校時代の恩師から勧められたことがきっかけでして。それまでは義肢装具士の仕事すら知らなかったんです…。」
取材冒頭、そのように昔を振り返る後藤さん。
高校卒業後は専門学校で義肢装具士になるために
実践や座学を繰り返す日々だったといいます。
「病名一つから患者さんが何を求めているのか、どんな症状があるのか。そこを頭に入れ、最低限の知識と敬意を持った上で、患者さんと目線を合わせて話をしないといけない。当時はきちんと認識できませんでしたが、振り返れば、そんなことを学んでいたと思います。」
就職は地元の熊本を離れ、鹿児島へ。
しかし、そこでは現場の厳しい現実が待っていたのです。
「患者さんからお叱りやご指摘を受けることが多かったのですが、どうしてそうなっているのかわかりませんでした。“一生懸命やっているのに、どうして?”って。」
「それは私が患者さんときちんと目線を合わせて向き合うことができていなかったからだと思います。一生懸命の矛先が違っていたんです。」
そんな後藤さんを変えてくれたのはある患者さんとの出会いだったそうです。
「症状や体型から義肢装具をつくるにも、高い技術が求められる方でした。でも、当時の僕はいつものように単なる“こなす”仕事をしてしまい、その患者さんにお叱りを受けたんです。」
「“俺は真剣にあんたたちにお願いをしているんだ!だから、もっと必死になってつくってほしい!”って。」
「ビクビクしながらも、何度もやり直し、やっと納品ができました。すると“あんたにつくってもらってよかった”と言ってもらったんです。その言葉を聞いた瞬間、病院の中で泣いてしまって。嬉しすぎて涙が止まりませんでした。」
「その患者さんに出会っていなかったら、僕はずっと単に仕事をこなすだけの義肢装具士だったかもしれません。その方は、別のタイミングでも“あんたにお願いしたい”とご依頼してくださいました。」
「そこから、患者さんの症状や状況に合わせて段取りを組んだり、説明の仕方を工夫したり、自分なりに義肢装具としてできることを現場で実践していきました。」
関わってくれる人たちと、日常を楽しく
昨年、21年間勤務された会社を退職し、日置市吹上町にて仲間と一緒に古民家改修を行い、『カキノキベース』を立ち上げられました。
義肢装具用の工房だけではなく、子供服や福祉用品等を洋裁する仕立て屋poteや帆立屋hachiを含んだ複合的な拠点となっています。
「これから20~30年先のことを考えた時、今までの経験を活かして、もっと楽しいことをやってみたいと心底思ったんです。」
「そこで、同じ職場だった東郷や黒岩(仕立て屋pote)、妻(hachi)も僕の想いに賛同してくれて、同じ年に退職しました。」
「この3人が背中を押してくれたのもあったからこそ、一つの決断ができたと思います。」
「今の拠点との出会いは東郷の知人経由で紹介してもらい、雰囲気と魅力に圧倒されて“ここだ!”と決めたのがきっかけでした。」
古民家改修はまず草払いから。
そして、改修は家具屋の友人の力を借りながら、自分たちの手で改装されたといいます。
「次第に、近所の方がチェーンソーで草を刈ってくれたり、地域の方が差し入れを持ってきてくれたりと自然に輪が広がっていきました。」
カキノキベースの由来についても教えてくださいました。
「ここが基地のような雰囲気だったこと。そして、シンボルツリーが柿の木だったこと。それで自然と“カキノキベースっていいよね”と話になりました。」
「私たちもですが、地域の方やこの場所を使ってくださる方、みんなで色々なものを活用して何かをつくっていきたい。そして、その出来上がった何かを使った人が笑顔になってほしい。そんな想いも込めています。」
福祉(義肢装具)と地域というと接点が中々ないような印象です。
でも、この場所ではイベントを開催したり、工房の開放日を設けたり、子供服等の販売も行っているため、様々な人が足を運んでくれるのだとか。
「インスタグラムの発信をみて問い合わせしてくださる方もいらっしゃいますし、通りがかりの方も顔を出してくださったりして、なんとも言えない喜びを感じています。」
「中には、ここで出会った方から義肢装具の発注の指名をいただき、会社勤めだった時は違った患者さんとの向き合い方ができていると思います。」
「随時、メンバーで話し合って、色々な人の力を発揮できるような仕掛けづくりを考えています。」
寄り添い、一緒にカタチにできる場所へ
「今までできなったことを、患者さんに寄り添いながらカタチにしたい。それが、この場所を立ち上げた時からの目標です。」
義肢装具士としての想いを力強く話される後藤さん。
「患者さんから、どれだけの話を引き出せるか。それが僕たち義肢装具士の仕事だと思っています。待つのではなく、こちらから引き出すことをもっとしていきたい。」
「自分の症状をうまく言語化して伝えることは非常に難しいです。だから、“簡単な言葉でも大丈夫なので、感覚でお話していただけたら”と患者さんにはお伝えしています。」
「装着していただくものに対して、THE装具ではなく、もっとコスメチックなものを提供できたらと考えています。簡易的なカキノキコルセットというのをご提案しているところです。」
「日常生活の中で義肢装具士は遠い存在だと思うんです。だから、少しでも身近な存在になれるように、オシャレに身につけて、なおかつ、体が良くなるものをつくり続けていきたいです。」
先日、遠方からコルセットを注文されたお客さんからは「可愛くつくってくれて、ありがとう」と嬉しい声があったそうです。
奥様、黒岩さん、そして、東郷さんがいらっしゃるからこその空間やモノを届けられているように感じます。
最後にカキノキベースとしての展望を伺いました。
「来ていただいたお客様に“あなたたちに頼んでよかった”“またつくってほしい”とおっしゃっていただけるように、色々な人に寄り添い、向き合える場所にしたいと思っています。」
「私も含め、メンバーそれぞれが違う良さや力を持っています。1人では見えなかった風景も、4人いることで4方向を見ることができます。それが私たちの強みなんです。」
「昨年、鹿児島で長く続いているデザイン関連のイベントに参加させていただきました。そのおかげで知り合った方も多いですし、新しい可能性も感じることができました。」
「同じ敷地内の納屋の活用についても検討中です。色々な方と一緒に、今までにない選択肢を一つ一つ実らせて、私たちを必要としてくださる誰かを笑顔にできるようにモノづくりを続けていきたいです。」