【鹿児島県阿久根市】食材と空間にこだわり、お客様が五感で楽しんでもらえる時間を / 日本料理まつき 松木洋輔 さん
インタビュー
鹿児島県阿久根市にて天然の魚と食材にこだわった日本料理・海鮮料理を食べられるお店『日本料理まつき』を営む松木洋輔さん。そんな洋輔さんから現在の営業スタイルに至った背景等を伺いました。
過去の経験が全て今に繋がる
三人兄弟の次男として生まれ育った洋輔さん。
ご実家はお父様が一から土地を開拓し、現在の店舗がある場所にて『磯の味 黒之瀬戸』(以下:家業)を開業されました。
お父様が海に潜って水中銃で突いてきた魚をすぐお店で捌き、お客さんに定食を提供するスタイルで切り盛りされていたそうです。
洋輔さんは幼少期から台所に立つのが好きで、お母様のお手伝いをよくされていたのだとか。
中学校に進学する頃には“将来は料理人になる”と決めていたといいます。
高校卒業後は関西にある調理師の専門学校へ2年間通うことに。
学びながら、現地の寿司屋でアルバイト生として修行を積まれました。
「寿司屋の修行は非常に厳しいものでした。でも、そこで料理の基本やお客様との接し方を実践と通して学ばせてもらいました。」
「寮に戻るのはいつも日を越えた時間でした。そのあと、家事をして、包丁を研ぎ、桂剥きの練習をして…。睡眠時間は2~3時間くらいだったと思います。」
「今だからこそ感じているのは、過去の経験の全てが今に繋がっていること。辛い日々でしたが、料理人として根幹ができたからこそ、今こうやって料理人としてお店に立てているんです。」
専門学校卒業後は関西のお店で1年程働き、家業へ合流することになります。
次第に居酒屋をやってみたいと思い、
昼間は家業の手伝いをしながら
夜は別の場所で居酒屋を始めたというのです。
「期待とは裏腹に居酒屋は客足が少ない状況でした。居酒屋を始めて気づいたのは、料理屋は様々な要因が相まって繁盛店になるのではないか、ということでした…。」
「料理が美味しいだけでも、値段が安いだけでも流行るわけではない。お客さんがいらっしゃらない時間は、僕にそんなことを教えてくれました。」
その後、2005年に洋輔さんが家業を継業。
数年後に同じ土地内にて店舗を新しく建て替え、再スタートを切ります。
一時期は売り上げが過去最高を更新するなど経営は順調だったものの、漁獲量や漁師の減少、従業員不足等の問題もあり、窮地に立たされてしまいます。
そして、その窮地に追い打ちをかける出来事が新型コロナウイルスの蔓延でした。
「来客がパッタリと無くなってしまい、お店が衰退していくだけのように感じました。」
お客様が喜ぶ空間を演出する
そんな窮地を救うきっかけとなったのが同業者でもある先輩経営者の一声でした。
“料理のコースを10000円一本に絞ってみてはどうか?”
その一声があるまでは
お客さんのお財布事情も考え
3000円、5000円、7000円、10000円の4つのコースに分けた
運営方針に変えようとされていたといいます。
「正直、10000円はお客様にとってハードルが高いと思っていました。でも、先輩からの一言で決心がついたんです。“10000円一本でいこう”って。」
「少ない従業員でもオペレーションが最小限に済みますし、何より食品ロスも発生しません。妻も背中を押してくれたこともあり、2021年1月より日本料理まつき(以下:まつき)と店名を改め、再スタートを切りました。」
「“自分の強みは何のなのか?”。そこを突き詰めていくと、結局立ち戻ったのは原点だったんです。」
「父の時代から、その日に獲れた生きた魚をお客様の目の前で捌いて、美味しくいただいてもらう。それを喜んでいるお客様の表情が溢れる光景は、他のどのお店にも絶対負けないと思ったんです。」
“まつき”は地元阿久根の漁師が獲った天然の魚類を主体に、素材にこだわり、お客さんの目の前で調理するスタイルのお店です。
洋輔さん自ら、お客さんの目の前で心を込めて食材を捌き、
一品一品丁寧に盛り付けを行っています。
さらに調理の説明や食材の情報を事細かにお話されるので
美味しさだけではなく、作り手等の背景を感じる時間となっているのです。
最近はそんな洋輔さんに魅かれてリピーターとなるお客さんも多いのだとか。日本各地からもですが、最近は海外からお店へわざわざ足を運ぶ方もいらっしゃるそうです。
「最初のうちはうまく話せなくて、お客様の前でパフォーマンスをするので精一杯でした。次第に慣れてきて、今ではユーモアを交えて、お客様に楽しんでいただける時間を演出できていると思います。」
「嬉しいことに“こんな値段で、こんな美味しい食事ができるお店はないよ!”とお褒めの言葉をいただいています。阿久根で獲れた天然物の魚で、かつ、生きている状態のものしか仕入れていないからこその味です。」
一人じゃない
“まつき”のある阿久根では地元有志が数年前から『阿久根と鎌倉』というプロジェクトを進めており、鎌倉と交流が続いています。
そのメンバーが2021年に阿久根へ研修に来た際、
懇親会の会場として“まつき”が使われたそうです。
それがきっかけで洋輔さんも鎌倉のメンバーと仲良くなり、
実際鎌倉へ足を運び、現地の人たちに料理を振舞ったといいます。
「阿久根と鎌倉のプロジェクトメンバーにお願いをして一緒に現地へ行かせてもらいました。」
「現地で食事を振舞ったお客さんが阿久根の魚を美味しそうに食べているのをみて自信がついたんです。“阿久根に来て、新鮮な魚を食べてほしい”って。」
今年は鎌倉に阿久根の魚を購入できる『地域がつながるさかなの協同販売所 サカナヤマルカマ』がオープン。
そのオープニングイベントでは鎌倉市長や阿久根市長含め、
多くの人に洋輔さんの捌いた魚を堪能してもらったのだとか。
「現地の料理人とも仲良くなり、お互い行き来する関係性が続いています。色々な方とのコラボやイベント、出張料理にも力を入れています。」
さらには“まつき”としてクラウドファンディングにも挑戦されました。
「一人でもたくさんの方に“まつき”に食べに来ていただき、命を味わうということのありがたさ、日本の伝統的な食文化の美しさを体感してもらいたい。そんな想いで挑戦しました。」
「ありがたいことにたくさんの方に支援していただきました。感謝の気持ちを込めて、白衣にはスポンサーの名前を載せて、日々の調理に臨んでいます。」
「料理人をしていると孤独を感じることが多かったです。妻も影で支えてくれていますが、一人で調理や仕入れ、営業をしていると、どうしても精神的に弱くなってしまうこともありました。」
「でも、今は白衣を着るたびに思うんです。“一人じゃない”って。クラウドファンディングを影で支えてくださった方がいて、その方からのご縁があったからこそ、多くの人に“まつき”を知っていただけのだと思っています。」
「今年の春にはJapan Brand Collection2023にて日本の名門料理店100選にも選ばれ、名だたる名店の中に鹿児島県内では当店を含め2店舗掲載していただきました。」
基本に忠実に、コツコツと
「頭の中で思い浮かんだことは、とにかく行動に移すこと。それが今大切にしていることです。」
一人の経営者としての理念をそのように話される洋輔さん。
「以前の僕は、お店の中で全てを完結させてしまって、考えたことを行動できずにいました。」
「でも、お店から一歩外に出てみると、知らない世界の人たちと出会って、2乗にも3乗にもなって自分に返ってくるようになりました。」
「最近は定期的に北薩異業種交流会を開催しています。そこで生まれたご縁もありますし、それは自分で動いていった結果だと思います。」
「その中で気づいたのは“基本に忠実で、曲がったことをせずにコツコツとしていれば、自分たちの幹がしっかりできるということ。そして、その幹がしっかりしているからこそ、枝葉は魅力を存分に出せるんだ”と。」
「だからこそ一人一人のお客様に集中し、満足して帰っていただけるようにしています。それが、小さなまちで繁盛するお店の大事な要素だと思っています。」
最後に料理人として大事にされていることを伺いました。
「2年前に運営方針を変えてから“料理の味だけではなく、食べている空間そのものが大事なのでは?”と思うようになりました。」
「例えば、硬い雰囲気の場合はユーモアも交えてお話したり、お酒を振舞ったり、そこから少しずつ和ませる雰囲気づくりを意識しています。」
「最近は自分のキャラも大事にしています。“松木洋輔に会いに、あのお店へ行きたい”と思ってもらえるように、温度感のあるコミュニケーションをしていて。たまに調子の乗ってしまうこともあるので、その時は妻がうまく空気を引き戻してくれます(笑)。」
「今が一番楽しいです。予約が入れば幸せな気持ちになりますし“どんなお客様が来るんだろう?どうやって喜ばせよう?”とワクワクしてしまうんです。」
「“阿久根に来たら、こんなに美味しい魚が食べられるんだ”と思ってもらえるようにしたいです。お店の中だけではなく、出張料理の機会も増やして、良いものを吸収しつつ、それをお店や阿久根に還元できるよう精進していこうと思います。」
屋号 | 日本料理まつき |
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URL | |
住所 | 鹿児島県阿久根市脇本10341 |
備考 | ●SNS
●お問い合わせ先 電話:0996-75-3255
●営業時間 11:00〜14:00 17:00〜22:00 ※完全予約制となります。予めご予約の上、お越しください。 |