【名古屋市西区】まだ無さそうな何かを生み出す〝未来の前座〟On-Coの組織哲学
インタビュー
名古屋駅から徒歩15分ほど。西区新道に、かつて印刷工場だったビルをリノベーションしたシェアスペース「madanasaso」がオープンしました。
ちょっと風変わりなネーミング、呼び方はそのまま「マダナサソウ」。その名のとおり〝どこにも無さそうなもの〟を生み出す拠点です。
ここでどんな人たちが何を生み出そうとしているのか。それを理解するには何よりもまず、On-Coの組織哲学を知る必要がありそうです。今回はOn-Co代表の水谷岳史さんと共同創業者の藤田恭兵さん、PRを担当する福田ミキさんの3人にお話をうかがいました。
新しい拠点「madanasaso」から仕掛けるOn-Coのミッションとは
―― 最近、On-Coが手掛けるプロジェクトがメディアに取り上げられることも多くなり、ますます注目度が上がっていますね。
水谷:実際のところ何をしているのかよくわからないですよね(笑)。
―― ネーミングもインパクトあるものばかり。
水谷:アップサイクルの研究をする「上回転研究所」、大家と借り手のマッチングの仕組みを逆転した「さかさま不動産」、陸の上から海のことを考え行動する人たちを増やす「丘漁師組合」と、あと「ソイソースマンション」とかもやってます。
―― ソイソースって、醤油ですか。
水谷:同じマンションに暮らす住民どうし、気軽に醤油の貸し借りができるような関係を目指すという…。
―― 楽しそうな雰囲気は伝わるけど、やっぱりよくわかりません(笑)。空き家やアップサイクルなど、社会的に関心の高い課題ですが、On-Coのミッションはユニークな手法で社会的課題を解決することなのですか。
水谷:目的というよりも、結果的にそうなればいいかなと思っています。僕らの役割は、やりたいことがある人たちのための環境や場所を作ること。そこで来るかもしれない未来を表現したいんです。仕事になるかどうかより、まず自分たちが遊んでみるという感じですね。「さかさま不動産」も自分たちが楽しんでいた原体験から生まれたもので、空き家問題を考えてビジネスモデルを作ったわけではありません。ただ、僕らの前には同じようなものはなかったので話題になったのだと思います。
まだないものを〝景色〟に。
未来を変える独自の組織哲学
―― やってみたいという気持ちに従って実践したことが、いつしか仕事になったり社会問題を解決していくのが理想?
水谷:そうなってもならなくてもいいんです。僕らの役割は、まず土壌を用意することだと思っていて、言葉で表現するとしたら「未来の前座」がぴったりだなって。最近、みんなで話していてようやく言語化できました。
福田:近頃は私たちのプロジェクトに興味を持ってくださる方たちにお話をする機会が増えてきて、On-Coの「働き方」の部分に共感していただいたり、面白いね!って言ってもらえることも多くなりました。組織哲学を面白がってもらえるのはすごく嬉しいです。
水谷:プロジェクトのことを説明しようとすると、結局、組織論や組織哲学の話につながっていくんでしょうね。例えば「上回転研究所」の場合、デザイナーの村上は最初、食品でレザーを作りたいって言ってやってきました。めちゃくちゃ面白いけど、正直、彼一人でお金を稼ぐのはまだ難しいだろうなとも思ったんです。でもそのアイデアを会社の中の一つのプロジェクトにすれば、それだけで儲けなくてもいい。つまり彼が「未来の前座」を演じて、会社としてそこにリソースを割く。この考え方は、投資に近いかもしれないですね。
だれよりも先に未来を景色にして見せるということ
福田:まだないものを人に説明する時、言葉で概念を伝えるだけだと単なる理想論になってしまうので、実際に動いて〝景色〟として見せていく。それを見た人が「ああ、そういうことね!」と理解し、いつの間にかたくさんの人たちが一緒に関わりたくなって、その動きがやがて社会を変えていく。これが私たちの考える「未来」なんです。
水谷:すぐに理解されなくても、みんな何かしらやりたいことを持って生きているはず。それで稼げなくても最低限、寝るところと飯さえあればチャレンジできるじゃないですか。On-Coはそのために場所は用意します。でもマネジメントはしません。基本、給料も働く時間も自分で決めればいい。このやり方がすべての会社や組織に当てはめられるとは思わないけど、それぐらいのスタンスでいないと僕らの会社は面白くならないだろうなと思っています。
福田:私は、自分たちが面白いと感じた気持ちにどのくらいの価値があるのかに興味がありますね。同じように思ってくれる人がいたら、いつか行動に移すようになるかもしれないし、そういう人をもっと世に出していきたい。
―― 何を「面白い」と感じるかという感覚について、On-Coとしての基準のようなものはあるのですか。
福田:そこについては、みんなの直感や主観にまかせているかも。
水谷:かなり主観的。できるだけ面白い人の方がいいとは思います。だけど社会の反応って意外と自分の感覚とは違っていたりもするんですよね。僕はピンとこないなーと思っていたのに予想を超えて大きな反響になることもある。だから最近は、僕の主観で評価することはやめました。ジャッジしちゃうこと自体がマネジメントすることにもなるし。僕はみんなの踏み台でいいや(笑)
まだないものの価値を伝える
PR=パブリックリレーションズの有効性
福田:実は今いる社員たちも、最初はOn-Coに興味を持ってくれたり、何かを学びたいから、仕事を手伝いながらお互いにスキル交換をしようという感じで来てくれた仲間たちなんです。一年くらい時間をかけて関係性を作っていくので、居心地の良さややりやすさという感覚は自然に共有できています。その上で入るかどうかをお互い対等な立場で決められるところがいいなと思っています。
―― 組織哲学もプロジェクトも、「感情」とか「関係性」を大事にするスタンスは共通していますが、そこを対外的に伝えるのは思う以上に難しそう。福田さんはPRをどうやって機能させているのでしょうか。
福田:まず、ほとんどの人がPRを一般的なアピールのことだと思っています。それをちゃんと本来のパブリックリレーションズに正したいんです。例えて言えば、小説家や漫画家と編集者の関係に近いかもしれません。作家の強みや社会の文脈を伝えながら、編集者が心から面白いと感じて、熱量を持って伝える。この機能がすごく大事で、ゼロイチの人と、ゼロイチの前後をサポートする人とがチームとして動くことの意味を提唱していきたいですね。このあたり、村上くんと一緒に上回転研究所をやってきた恭兵くんはどう思う?
藤田:アップサイクルについては最近、いろんな企業から問い合わせをいただいたり、反応がたくさん来るようになりました。でも最初は全然でした。ミキさんのPRが効果的に機能して、もっと新しいことをやってみよう!という気風が社内的にもどんどん加速していったようなことは確かにありますね。
未来の前座を演じる楽しさ、そして覚悟
福田:誰もやってないから理解されづらいけど、社会性を踏まえてPRをしていくことでちゃんと価値が伝わる。そこが私の役割です。イベントの参加者数とか営業をかけた数とか、フォロワー数とか、数字も大切ですが丁寧に物語や景色を作って「こういうのいいよね」って感じてもらうって、すごく時間と労力がかかる。だからこそ愛がないとできないんです。
藤田:愛を持って楽しくやっていたいけど、会社だから経営のことも考えなくちゃいけないっていうのは仕方ないのかな…。
水谷:そこは僕と恭兵でバランスを取っていけばいいかなと思ってる。何事もビジネスになっちゃうと形骸化してしまう。それで本質のところが見えなくなってしまうのは嫌だし。「さかさま不動産」をずっと無報酬でやってるのも、そうならないためだったりするから。
福田:これまでだって、お金にならないのに楽しそうにやっていたら、「君たちいいね!」って思ってくれて、いつしか仕事や相談が舞い込むようになっただけ。他の企業でも、採算が取れるかどうかわからない新規事業に、愛と熱量を持って取り組んでいれば、いつか誰かの心を動かすことができるんじゃないかと思います。「madanasaso」に集まるみんなを見ているとそれをすごく感じますね。
水谷:本当の意味での新規事業って、誰もやってなくて採算度外視で動くから新規なわけだから。どんな大きな企業でも、そういう気風が当たり前になっていくといいですよね。
インタビューを終えて
社会の中のさまざまな課題へのアプローチには、いま、彼らのような、向こう見ずでやんちゃにも思える型破りな情熱が求められているのかもしれません。どこにもないものをかたちにしていく楽しさを、ユーモアたっぷりの言葉と清々しいまでのポジティブさで伝えてくれたOn-Coのみなさん。しかし、誰よりも早く動き出す勇気と努力は、決して表面的な楽しさだけで語り尽くせるものではないはずです。やりたい想いにまっすぐ向き合うひとりひとりの胸には目に見えない大きな覚悟が秘められているのだと思いました。