【鹿児島県日置市】誰かを感動させることの積み重ねが生きる喜びにつながる / La Nicori えがわ綾子さん
インタビュー
鹿児島県日置市の美山地区にて『La Nicori』はパンやケーキづくり教室を行いつつ、地域内の自販機にてスイーツ販売もされています。代表のえがわ綾子さんに美山でお店を始められた背景等についてお話を伺いました。
不思議な縁
中学時代、TVコマーシャルで料理人が厨房で調理するシーンに魅かれ、料理づくりに興味をもった綾子さん。
ご実家では8人家族分の料理をおばあさんさんと一緒に毎日作っていたといいます。
さらに高校生になると、有名なケーキ屋にて食べたデザートプレートに感動し、パティシエになる夢を抱いたそうです。
高校卒業後は関西のケーキ工房で採用され
洗い物や作業の下準備といった基礎修行を積む日々となります。
「毎朝6時には職場に入り、先輩たちが出勤するまでにやらないといけないことを必死でこなしていました。お菓子の生地を作っておくとか、機材のセッティングをしておくとか。」
「辛くて、いつも泣いてばかりいました。でも、基礎中の基礎を鍛えてもらったので、それが今に活き続けています。だから、その時鍛えてくださった先輩たちには感謝です。」
その後、老舗の洋菓子店に勤務。
しかし、ハードな職場環境だったため、体調を崩し、ドクターストップを宣告されてしまうのです。
“パティシエの世界ではなく、違う世界に一度踏み入れるのもアリかもしれない。”
そう思い、幼少期から遊びに行っていた祖父母の家がある鹿児島へ引っ越すことを決断。
「鹿児島へ行く決断をしたとはいえ、何の仕事をするか決めていませんでした。」
「それまでがずっと仕事ばかりの日々だったので、しばらくゆっくり生活するのもいいかもしれない。そう思って、のんびり構えていたんです。」
「でも、そんな私を心配した叔父が“ちゃんと仕事をしなさい”と美山の陶器屋さんを紹介してきて…。それで、そのお店のスタッフとして働くことになりました。」
「実は祖父母の家は美山だったんです。それまでは1年に1回ぐらいしか来たことがなかったので、これも何かの縁だなと思いました。」
一から手作りしたものを
鹿児島へ移住してから数年経ち、
国道3号線沿いでお菓子のお店を小さく開業。
少しずつファンもでき
口コミでお店を訪れる人も増えてきたのだとか。
そんな時、息子さんが独り立ちし、美山の家のスペースに余裕ができたのです。
「夫も私もDIYができるので“リフォームをして、美山でお店を始めよう”と話になって。休みの日は、ひたすら大工作業をしました。」
リフォームも終わり、2015年に『La Nicori(ラ・ニコリ)』として美山にて移転オープンさせました。前のお店に引き続き、パンやスイーツの販売、そして、教室の開催を中心にリニューアルしたのです。
「積極的な告知をしていなかったので、看板を見た方が立ち寄ってくれることが多かったです。前のお店のお客様が偶然看板を発見して、顔を出してくださったこともありました。」
「前のお店も、今のお店も素敵なお客様が多くて、良い関係性を築けています。」
美山という自然に恵まれた環境、美味しい空気の中で毎日ケーキやパンを作られています。
お客様が毎日口にするものを安全で楽しく美味しく、そして笑顔にしたい想いがLa Nicori(ラ・ニコリ)の由来になっているそうです。
さらに粉の風味を一番大切にしながら、素材の力を引き出し、最大限に生かす手間をかけています。
「中学時代に祖母と台所に立った時の気持ちが今も残り続けています。」
「祖母からは“口に入るもので体ができる”“だから、ご飯はみんなに、大事な家族に、ちゃんと手作りをするんだよ”と、よく言い聞かされました。」
「家で母親が手作りするのと同じ感覚だと思っています。本当の手作りのものを、一から手作りしたものを食べてもらいたい。そんな感覚を昔からずっと持ち続けています。」
人の手を感じる仕事を
神戸出身の綾子さん。
鹿児島に引っ越されてから気づいたのは人と人との距離感の近さや垣根の低さでした。
「お店を始めてから“自分のためではなく、人を喜ばすことがこんなに幸せなんだ”と気づいたんです。」
「その感覚って、もしかしたら商売人としては向いていないかもしれません。」
「美味しいものを作って、美味しいものを食べて喜んでもらいたい。その気持ちはずっと変わりません。」
美味しいものができると、美山のお店仲間におすそ分けをすることもあるのだとか。
「おすそ分けで持っていったのに“いや、ちゃんと買うよ。美味しいから売ればいいのに…。”って言われることもあります(笑)。」
「大量生産するのではなく、人の手を感じる仕事を大事にしたい。それが今の私が最も大切にしていることです。」
昨年秋からは店舗での販売を減らし、
パンやケーキづくり、自販機やイベントでの販売を中心に教室を開催されています。
「私が先生として教える側ですが、生徒さんから人生の生き方や美味しい料理の作り方など、色々教わることも多いです。」
「ある生徒さんはお花好きで、毎年お花を届けてくださいます。今の時期だと紫陽花の茎をいただいて、それを庭で育てています。」
「毎年に一緒に旅行に出かける関係になった生徒さんもいらっしゃいます。楽しいだけじゃなく、皆さんから感動をいただいているんです。」
「今、お店としては生徒さんとの関係をしっかり築く。そんな時間を大切にしていると思います。」
「実は、生徒さんの中で一人、今度起業してパン屋さんを始める方がいらっしゃるんです。自分ごとのように喜びでいっぱいでして。」
「その生徒さんは手仕事の大事さを次世代に伝える喜びといった使命感を持たれているように感じています。自分の手から、違う誰かに連鎖していくのも、ある意味で人の手を感じることのできる仕事だなと感じました。」
今できることを小さく続ける
綾子さんは数年前から本業の合間を縫って、美山地区の有志で行っている地域活動のお手伝いもされています。
「仕事とのバランスもあって、頻繁に参加はできていませんが、関わることで“やっと美山の一員になれた”って思えたんです。」
「“美山って私にとって何なんだろう?”って思うぐらい、美山に対する愛が強くて…。」
「まだ大したことはできていませんが“きっと何かできることがある”と想いをもつこと自体が大事なのではと考えています。」
現在、美山陶遊館(※)ではLa Nicoriが管理する自動販売機があり、そこではスイーツ以外に美山に関する商品も取り扱っています。
「自分のお店の商品だけではなく、美山の他の事業者さんの商品を設置するのもいいなと思いまして。」
「まだ数は少ないですが、美山を散策しに来た人が美山の色々なモノをまとめて楽しめる仕掛けづくりができるように妄想している段階です。」
(※)陶芸体験や美山に展示している窯元や工房で作られた作品の展示販売もある体験型レクレーション施設のこと。
最後に今後の展望について伺いました。
「ありがたいことに美山には竹林整備や移住者受け入れに力を入れている仲間がいらっしゃいます。だからこそ“私には何ができるのか?”と考えるようになりました。」
「最近は今すぐ何かを成す必要はない。そう思うことで気持ちが少し楽になってきました。」
「“美山を良くしたい”という想いを持った小さな力が集まることで、それが大きな力になるのではと自分に強く言い聞かせています。」
「お店づくりも地域活動も、続けた先に誰かに感動を与えられると思うんです。そして、それがその誰かだったり、私自身の生きる喜びになるって。」
「“ここは居心地いい”と目の前にいる一人でも思ってくれる時間を提供し続けることが、結果的に、私のやりたいことや美山のためになることにも繋がるのではないか。それが今の私なりに見出した答えです。」
屋号 | La Nicori(ラ・ニコリ) |
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URL | |
住所 | 鹿児島県日置市東市来町美山1483-1 |
備考 | ●問い合わせ(レッスン予約など) 電話:099-274-9366 ※La NicoriインスタグラムDMでも対応できます。 ●開催している教室 パン教室、ケーキ教室 |