【Q1 グランマルシェ】GRAPE REPUBLIC が醸すワインのおいしさの「ROOTS & Technique」とは?
インタビュー
ご記憶ですか、 9月1日は「キューイチの日」。やまがたクリエイティブシティセンターQ1誕生の日。そして今年、Q1の前身である山形市立第一小学校旧校舎は創立から96年を数えます。市民の学びの記憶と愛着が約1世紀にわたって刻まれた歴史は壮大なもの。というわけで、Q1では9月1日からの3日間「グランマルシェ」が開催されます。テーマは「ROOTS & Technique(源流と技術)」。私たちの暮らしのそばにあるものづくりには、生まれた歴史や経緯や背景があり技術によってかたちを変えて現在に至る…と、そんなことを感じさせるような、創造都市やまがたらしいイベントになるはず。
これからここにご紹介するのは、そのグランマルシェにおける「食文化(ガストロノミー)」のコンテンツ「グルメQ」の中でフィーチャーされるワイナリー「GRAPE REPUBLIC(グレープリパブリック)」。2017年に山形・南陽に誕生した若いワイナリーながら、自然志向のワインが高く評価され注目を集めている存在です。いったいグレープリパブリックのワインがおいしいのはなぜなのか。そのものづくりにはどんな「ROOTS & Technique」が秘められているのか。その学びと発見はきっとワインを味わう喜びや楽しさを増幅させてくれるはず。というわけで、さあ、グレープリパブリックの畑へ、探究の旅にでます。案内人は神保雅人さん(SLOW JAM、little JAMオーナー/Q1グランマルシェ「グルメQ」プランニング担当)です。
ぶどう100%という
透明さと潔さ
2023年6月下旬の晴れた日の午後。山形県南陽市新田地区の丘の斜面に広がるグレープリパブリックの農園は、膝まで届くほど伸びていたという雑草をつい数日前に刈ったばかり。歩くたび足裏から柔らかな土の感触が伝わってくる。
風通しの良い風景のなかにあるのは、樹齢の若いメルロー、サンジョヴェーゼなど6種類ほどの醸造用のぶどう品種の木々たち。ここは点在するグレープリパブリック自社農園のひとつで、この畑で収穫された幾種ものぶどうたちは全てひとつのタンクやアンフォラと呼ばれる甕でまぜこぜに醸造されるとのこと。これはフィールドブレンド、つまり畑ブレンドというつくりかたで、単一品種にせずあえていろんな品種を育てることがそのままワインの個性となる。実を大きく成らせた品種もあれば、力強い味となったものもあれば、収量に恵まれたものもあり…と、ブレンドの比率や味わいはその年ごとの状況により全く違うものとなる。2022年のワインにはその年の畑が、2023年のワインにはやはりその年の畑が、そのまま表現されてゆく。
自然の畑をそのまま醸すようなワインづくり。しかし、その実践は言葉で言うほど簡単ではなく、数多くの失敗や試行錯誤が伴う。たとえば実験的に植えたピノ・グリの苗木は全滅した。理由はおそらく「土に合わなかったから」。
グレープリパブリックの農園では除草剤や殺虫剤などの農薬は使用しないため、土地の気候や土壌や生態系との相性が悪ければそれまで。逆を言えばここで命を育むぶどうたちは、この土壌や気候や環境に適応できた品種や個体たちであり、厳しい環境のなかで必死に根を張り、枝を伸ばし、葉を広げ、実をつけるに至った力強いものたちばかり。そしてそれこそがグレープリパブリックが掲げる「Made of 100% Grapes」のワインづくりの本質なのだ。
栽培過程にも醸造過程にも余計なものを加えることなく、薬品の力を借りることもなく、土地の自然な生態系のなかで力強く実を結んだピュアなぶどうからピュアにつくりだす、土地の風土をそのままに映しだすようなワインづくり。なんと潔く、透明なのだろう。
南陽の農業文化、スペインのアンフォラ、
ニュージーランドの醸造技術…
土着文化の継承と異文化との融合と
南陽は、ワイナリー数全国4位という山形県のなかでも注目の産地のひとつ。東北最古のワイナリーと言われ百年以上の伝統をもつ老舗・酒井ワイナリーもあり、グレープリパブリックなどの若いワイナリーもあり、デラウェアやシャインマスカットに代表される生食用ぶどうの産地として栄えた歴史もある。水はけの良い土壌や、湿度が低く昼夜の寒暖差が大きい気候が、栽培に適しているとされる。
しかし一方で、高齢化や後継者不足により農園が失われたり耕作放棄地となったりという現状もある。先ほど紹介した自社農園の畑も、4年前まで耕作放棄地だったところで、さらに遡れば昔はぶどう畑だったところ。それを再び開墾し甦らせた畑なのだ。それは途切れかけた風景や物語の再生である。グレープリパブリックは新田地区を、南陽を、山形を、ぶどう栽培とワインづくりによって再興しようとしている。名の通り「ぶどう共和国」の実現をめざしているのだ。
他方で、山形・南陽という土地柄を遥かに超えたスケール感や異国感を漂わせるのもこのワイナリーの特徴だ。
たとえば、スペインから直輸入した「アンフォラ」と呼ばれる陶製の甕。ぶどうを自然発酵させるため伝統的に使われてきたもので、ステンレスタンクと違い空気を通すためまろやかな味わいを生み、また木樽ほどには風味を及ぼさないためぶどうの味がストレートに表現される。栽培醸造責任者である矢野陽之さんは神戸出身で、イタリアンの料理人を経てワインの世界に入り、イタリア、オーストラリア、ニュージーランドでぶどう栽培やワイン醸造を学んだのちに南陽に辿り着いたひと。また、その矢野さんの師でありグレープリパブリックのアドバイザーであるAlex Craighead(アレックス・クレイグヘッド)の存在、さらにそのほかのぶどう栽培や醸造に携わる若いスタッフたちなど、山形・南陽とは無縁だったひとが多く集う。そんな彼らは積極的にスペインやニュージーランドへと飛んではぶどう栽培や醸造技術を磨き、そこで醸造に携わったワインを輸入販売したりしているのだ。
一方で南陽のぶどう栽培の歴史や文化を受け継ぎながら。一方でほかの地のひとや技術や文化を取り入れながら。グレープリパブリックのワインづくりは、時空間を超えたさまざまな知恵や技術の融合によるものづくり、である。
山形・南陽のテロワールを
鏡のように映しだすワイン
では、問うてみたい。そんなグレープリパブリックの「ROOTS & Technique」とはどんなものだろうか。矢野陽之さんはこう語ってくれた。
「ぼくたちが『ROOTS & Technique』という言葉から連想するもの…。『ROOTS』はまさに文字通り『根っこ』です。ぶどう畑の、ぶどうの木の、根。ワインとはぶどうですから、その生育に一番大切な根っこのことだろう、と思います。本当にいいワインというのは、やっぱりいい素材があってのもの。そこに醸造技術が伴ってはじめておいしいものが出来上がりますが、醸造の技術で素材を超えることは絶対にできません。その意味では『Technique』という言葉も、醸造のテクニックではなく、いいぶどうを育てるテクニックのことでしょう。ぼくたちにとって『ROOTS & Technique』というのは、ぶどうづくりのことだという気がします。
もちろん醸造のプロセスにぼくという人間が関わることでワインの味わいは決まりますが、それはぼくというフィルターを通しただけ。ワインというのはひとを映しだすのではなく、やはり土地を映しだすものです。ぼくらがつくりたいのは、次のもう一杯が欲しくなるようなワイン、どんどん飲まずにいられないようなワイン…、南陽のテロワールを鏡のように映しだすようなワインです」
2023年9月のQ1グランマルシェでは、きっと、グレープリパブリックのワインとの出会いを楽しめるイベントが企画されるはずだ。その味わいは、山形・南陽の土地にそそぐ光やそよぐ風とともに生きて実をつけるぶどうの煌めきそのもの。そこでしか生まれることのないその土地特有のもの。その時その年にしか表現されえない一回きりのもの。それは、山形・南陽という土地の豊かさを語るもの。そしてそこに生きる日常のすばらしさを私たちに教えてくれるものだろう。
どうぞお楽しみに。
INFORMATION
GRAPE REPUBLIC.
やまがたクリエイティブシティセンター Q1
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Text: 那須ミノル