【山形/連載】地域密着型スーパー〈エンドー〉へようこそ Vol.6
連載
山形市長町にある〈エンドー〉は、地域密着型のスーパーである。創業は昭和40年。以来、地元の人々に親しまれ続け、日々、さまざまな顔が集う。そこにある時間と、ここにしかない風景。今日のエンドーでは、どんなことに出会えるだろうか。
山形のソウルフードはどこにある?
エンドー発、げそ天・イノベーション
「山形のソウルフード」と聞いて、最初に思い浮かべるのはなんだろうか。やはり芋煮か、玉こんか。夏だったら「だし」や冷たい肉そば。冬ならひっぱりうどん、納豆汁なんかもある。そのなかで、山形市というエリアで確固たるポジションを築いているのが「げそ天」だ。多くのみなさんがご存じのとおり、イカの足に衣をつけて揚げた天ぷらである。市内のそば屋のメニューでは高確率で登場し、ラーメンのトッピングで見かけることもある。スーパーのお惣菜コーナーにも、当たり前のように並んでいる。
諸説あるものの、山形におけるげそ天の歴史は古く、江戸時代にまでさかのぼるという。とはいえ、すべての県民に馴染みがあるかというと、意外とそうではない部分もある。私自身は県南に位置する置賜地方の出身であるが、げそ天にはそこまで馴染みがなかった。そのため、山形市をはじめとした村山地方ではげそ天とそばを一緒に食べるのがポピュラーだと教えてもらったとき、新鮮にさえ感じられた。これは地域による違いなのかもしれない。
海が近いわけでもないのに、なぜ山形市には「げそ天」という食文化が根付いたのだろう。自分で調べて得たものだけでは物足りないような気もするので、今度エンドーを訪れたときに、お店の人やお客さんにも訊ねてみようと思う。
と、ここまでは山形の食文化としてのげそ天の話。ここからは従来のげそ天とは一線を画す、エンドー独自のイノベーティヴなげそ天を紹介していきたい。
「エンドーのげそ天」ムーブメントのはじまり
山形の隠れたソウルフードであるげそ天は、長町にあるエンドーという地域密着型スーパーの手によって、大きな変身を遂げた。胴体部分に比べて格下に扱われていたげそは、今までにまとったことのないようなカラフルな衣をまとい、ファーストフード店のサイドメニューにあるようなパッケージにかわいらしく収まっている。げそ天はもともと、お惣菜メニューのうちのひとつだったが、これによって付け合わせやおかずとしての食べ方だけでなく、スナック感覚で食べられる新しいスタイルのげそ天が誕生した。
一番人気は塩レモン。次いで「ワサビ」。さらに人気急上昇なのが「ピンク」。「チーズ」や「BBQ」は子どもたちに人気だ。濃厚な旨味を感じる「ブラック」は、イカスミ、チーズ、ブラックペッパーに加えてトリュフ塩が肝。過去には「シーフード」という幻のフレーバーがあり(うに、からすみ、青のりといった夢の組み合わせで、まるで海を食べているといった感じ)、隠れた人気者であった。
街中の渋いそば屋で見かけたあなたに、こんな一面があったなんて。というよりも、「陰キャ」と「陽キャ」ぐらい違う。個性という名の衣をまとわせることによって、げそ天の世界は爆発的に多様化した。げそ天はそばの付け合わせ、というイメージの人にこそ、エンドーのげそ天を体験してみてほしい。
エンドーのげそ天は、前回vol.5で登場している〈杉の下意匠室〉とエンドーのみなさんの試行錯誤の末に生まれた。お惣菜としてだけでなく、げそ天単体でもさまざまな接点を設けようということで生まれたのが、「おやつ、おかし、おつまみに」というキャッチコピー。さらには「おそばのおともに、ごはんのおかずに。自然解凍でお弁当にも。食べたいときに食べたいだけお召し上がりください」と続く。季節やシチュエーション問わず一年中楽しむことができる、げそ天の魅力がここに凝縮されている。
山形市長町で始まり、そこから市内、県内、さらには東北エリアへと広がっていき、今では全国的にも注目されている、エンドーオリジナルげそ天の一大ムーブメント。オフィシャルSNSアカウントに「たぶん日本一のげそ天です」とあるように、味はまさにみなさんのお墨付きだ。
INFORMATION
エンドー
住所 山形県山形市長町2-1-33
電話番号 023-681-7711
営業時間 10:00-19:00(日・月曜休)
https://gesoten.jp/
写真:伊藤美香子
文:井上春香