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【Q1グランマルシェ】テックやしろ先生と学ぶ、自分の音を鳴らす楽しさ。そこにある「ROOTS & Technique」とは?

インタビュー

2023.08.16

9月1日は「キューイチの日」。やまがたクリエイティブシティセンターQ1誕生の日。その前身である山形市立第一小学校旧校舎は今年、創立96年を迎えます。市民の学びの記憶と愛着が約1世紀にわたる…。実に壮大です。というわけで、Q1では9月1日から3日間「グランマルシェ」が開催されます。テーマは「ROOTS & Technique(源流と技術)」。学びと遊びに満ちた、創造都市やまがたらしいイベントになるはず。

さて、これからここにご紹介するのは「テックやしろ先生」。Q1オープン以来、子ども向け教育プログラム「PlayQ」において「テックこうさく教室」の講師を数回にわたって務められ、最先端テクノロジーを使いながらアートを学ぶ楽しさを子どもたちに伝えてきました。

そんなテックやしろ先生はグランマルシェで『Phonographer(蓄音機奏者)』というちょっと不思議ななまえのワークショップをひらきます。いったい、どういうものなのでしょうか。そしてアーティストであるテックやしろ先生の「ROOTS & Technique」とは? なぜ赤いタイツに水中メガネなのでしょう。お話を伺います。

『Phonographer(蓄音機奏者)』コンセプトムービーはこちら ↓

壁を床をすべてを楽器にしてみよう
音階にならない音を奏でよう

【Q1グランマルシェ】テックやしろ先生と学ぶ、自分の音を鳴らす楽しさ。そこにある「ROOTS & Technique」とは?

テックやしろ先生:今ぼくが持っているこれは、ピエゾ・ピックアップというもの。物体に伝わった振動を電気信号に変えるピックアップマイクで、アコースティックギターにも使われます。ワークショップではこれとアンプを繋げて、Q1の壁や床など建物すべてを楽器にして音を響かせる、ということをやってみます。ほら、今、これをこうして壁に押し当てたりこすったりすると音が出るでしょ。これはつまり、アンプやピックアップというテクノロジーのちからを借りて、楽器がつくられたっていうこと。

【Q1グランマルシェ】テックやしろ先生と学ぶ、自分の音を鳴らす楽しさ。そこにある「ROOTS & Technique」とは?
壁も楽器で
【Q1グランマルシェ】テックやしろ先生と学ぶ、自分の音を鳴らす楽しさ。そこにある「ROOTS & Technique」とは?
扉も楽器で
【Q1グランマルシェ】テックやしろ先生と学ぶ、自分の音を鳴らす楽しさ。そこにある「ROOTS & Technique」とは?
床も楽器。なでたりこすったり叩いたりすると、アンプとスピーカーを通して音が立ち上がってくる

ぼくらの身の回りにあるふつうの楽器は、整理されすぎているものばかり。例えばドレミファソラシドっていう音階で区切られていたり。でも大事なのは、音階を区切る「間」のところの部分。だから、これは、音階のない楽器なの。音階として区切ることなくグラデーションをうまく取り込んでいる楽器とも言える。この楽器を使うと、サウンドスカルプチャーとでもいうような、空間に立ち上がってくる彫刻のような、なんだかわからないようなかたちのものが、きっといろいろできるような気がする。それをみんなでつくって、記録して、増やして、並べて、響かせてアンサンブルにしたら面白いんじゃないかな。

【Q1グランマルシェ】テックやしろ先生と学ぶ、自分の音を鳴らす楽しさ。そこにある「ROOTS & Technique」とは?
『Phonographer(蓄音機奏者)』のコンセプト・ドローイング。「ROOTS(技術)、Technique(源流)、Amplify(増幅)」とある。

失敗もない、むずかしくもない
じぶんだけの音を鳴らそう

==テックやしろ先生は写真をベースにした作品で知られるアーティストですが、音に注目するきっかけがなにかあったのでしょうか。

テックやしろ先生:「曖昧な表現がしてみたい」という想いが昔からありました。アートなのかサウンドなのかわからないようなもの。図形楽譜をつくったり、その図形楽譜のための楽器をつくったり、というワークショップをこれまでにもやってもきました。そういう曖昧なものっていうのは、0と1だけからつくられる世界とはまるで違っている。この楽器もそう。すごく曖昧なものだよ。でも音には色々なものが含まれていて、ものすごく豊かなんだ。

【Q1グランマルシェ】テックやしろ先生と学ぶ、自分の音を鳴らす楽しさ。そこにある「ROOTS & Technique」とは?

==この体験の楽しさを子どもたちとQ1グランマルシェで共有したい、と。

テックやしろ先生:うん。 この楽器のいいところは、まず「かんたんにできる」。さらに「失敗がない」。いいでしょ。これがふつうの楽器なら、リコーダーだってピアノだって鍵盤ハーモニカだって、みんなで揃えて演奏してひとつでも音を外せば恥ずかしいってことになるわけだけど、この楽器にはそれがない。すごく自由なわけ。

岡本太郎の言葉に『自分の好きな音を勝手に出す、出したい音を出したらいい』(※)っていうのがある。個性なんだからじぶんの音を鳴らせばいいんだ、それでいいんだって言っているの。たったひとつの音だけでもいい。その時の体調とかテンションによって、その時じゃないと出せない音ってあるよね。今の自分の音を出せばいいんだよ。
※『壁を破る言葉』(岡本太郎、イースト・プレス)

そうやって出したそれぞれの自分の音が、ひとつまたひとつと増えていったときに、何ができあがっていくのか。もしかしたらそれはノイズかもしれない。実際どうなるかはわからない。でもどんな音の塊になって空間が響くのか、楽しみだな。

百年前に建てられたこのQ1という学校の壁を楽器にして音を鳴らせて記録したものが、百年後どう聞こえるんだろう。おなじく百年前にできたドイツのバウハウスというアートの学校の理念は「アートとテクノロジーの新たな統合」というものだった。それから百年後の今、アートとテクノロジーを組み合わせたら、どんなものができるのか。そしてその記録は、百年後の世界でどう見えてくるんだろう。きっと再生装置もすごく進化しているだろうから、例えば感情とかそういうものまで再生されるんじゃないかな。なんだかワクワクするね。

【Q1グランマルシェ】テックやしろ先生と学ぶ、自分の音を鳴らす楽しさ。そこにある「ROOTS & Technique」とは?

源流は、人の心
移ろうけれど在りつづけるもの

==今回のグランマルシェでは創造都市の7分野に沿ったコンテンツが用意され、テックやしろ先生のワークショップは「メディアアート」に位置付けられていますが、メディアというものをどう捉えていらっしゃいますか。

テックやしろ先生:メディアはテクノロジーだと思われているフシがあるけど、そうじゃないと思うんです。「メディア(media)」という単語のルーツである「メディウム(medium)」という言葉に注目すると、それは介在する、繋げる、媒介するとか、そういう意味。だから、なにかを伝えるための存在として、まず人間がいる。その人間の感情とか感動とかを繋げていくための道具や機械としてメディアがあるということじゃないか、と。それを忘れてテクノロジーに先走りすぎてしまったり、曖昧なところを削ぎ落としすぎたりしてはいけないとぼくは思うんです。

==グランマルシェのテーマは「ROOTS & Technique」ですが、テックやしろ先生が想う「源流と技術」とはどういうものでしょう。

テックやしろ先生:源流とは、人の心だと思います。それは、移りゆくものではある。けれど、人の心はこれまでもこれからもずっと在りつづけるもの。技術とは、その時その時によって変わりゆく方法であり、人間の次元を上昇させるもの、じゃないかな。

==テックやしろ先生はいつから、なぜ、その真っ赤なタイツ姿になられたのでしょう?

テックやしろ先生:このタイツ姿になったのは「回転回」という写真作品からです。カメラの撮影者であるぼく自身が同時に被写体となって回転して風景に溶け込むという作品です。絵の具になったつもりでその風景に飛び込んでいく。全身黒タイツの時もあれば、青、白、黄、緑、ピング、茶、金色などの時もあります。色選びは、その時の気分次第。今は赤タイツなんです。

【Q1グランマルシェ】テックやしろ先生と学ぶ、自分の音を鳴らす楽しさ。そこにある「ROOTS & Technique」とは?
回転するテックやしろ先生が被写体として写りこんでいる作品シリーズ「回転回」より

シャツとズボンではなく全身タイツである、ということの重要な点は、ユーモラスであること、ハッピーであること、テンションが上がること、特別な感じがすること、でしょうか。ビジネスマンがスーツを着てネクタイを締めるように、ぼくもこの全身タイツに身を包むとフォーマルな気分になって「よし、作品をつくるぞ!」という感じになります。また、祝祭的である、ということも大事ですね。日常をどう飛び越えていくかっていうときのひとつの重要なアイテムであるのはまちがいない。じぶんのテンションを上げて、さあ新しいところに飛び込んでいくぞ、というような、ね。

『Phonographer(蓄音機奏者)』/コンセプト
フォノグラフとは蓄音機のこと。トーマス・エジソンが1877年に発明したことで有名である。フォトグラフが光を記録する装置であれば、フォノグラフは音を記録する装置である。また、実験音楽のひとつの方法であるフィールド・レコーディングでは、写真撮影を意味するフォトグラフィにちなみ、屋外録音することをフォノグラフィーとも呼んでいる。この作品は道端に転がっているものや日常の生活用品から音を取り出して録音していく行為であり、身体表現だ。奏者(Phonographer)がピエゾピックアップマイクとアンプシュミレーターを用いてそれらのものから音を取り出すことで、生活用品は楽器に生まれ変わり蓄音されていく。

テックやしろ先生/屋代敏博
写真家、現代美術家、パフォーマンスアーティスト。多摩美術大学で映像と演劇を学んだ後、一貫してアート表現の可能性を探る実験的な試みを続けてきた。「回転回」という自分自身が台上で回転し、その場に円盤状の痕跡を残す身体的な動きを取り入れた作品によって知られており、この作品は令和5 年日本文教出版「高校美術」に掲載され、映像メディア表現の教材となった。2000年文化庁派遣在外研修員、2001年フランス政府文化機関 ImagesAu Centre 所属アーティストとしてポンピドゥーセンターのアーティスト・イン・レジデンスプログラムに参加、2002 年ケルンメディア芸術大学客員芸術家としてオープンイノベーションを経験する。近年はアートの世界で培ってきた実績を教育だけでなく、地域、ビジネス、起業の世界と結び、革新性、創造力を育成するプログラムを開発している。
https://www.toshihiro-yashiro.com/

プレイキューについて
PlayQ(プレイキュー)は、「こどもの創造的学びの活動を通して〈 創造都市やまがた 〉を実現する」をコンセプトに、クリエイティブとテクノロジー、ビジネス、そしてエコロジーの4 つの領域を行き来できる山形・東北らしい新しい人材育成を目指した、Q1 が主催するプログラムです。経済産業省「デザイン経営宣言」における BTC人材定義(=デザインを競争力にする人材・組織・教育)をベースに、山形・東北独自の視点として「エコロジー」を加えた、4 つの領域を横断できる人材を育成します。遊びを通して、地域と仲良くなり、地域に親しみ、地域に夢中になることで、「Local Friendly」(ローカル・フレンドリー)=「地域への優しさ」を持ったしなやかな感性を育んでいきます。

【Q1グランマルシェ】テックやしろ先生と学ぶ、自分の音を鳴らす楽しさ。そこにある「ROOTS & Technique」とは?
「PlayQ」テックやしろ先生のこれまでのワークショップより

 

聞き手:アイハラケンジ(Q1プロデューサー/ディレクター)
Text:那須ミノル(real local Yamagata)

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