【福島県・郡山市】カルチャーごと身に纏うライフスタイルを発信するアパレショップを営む渡辺高文さん
インタビュー
郡山駅から西に向かってまっすぐ歩き、駅前大通りを抜けてすぐの坂道を登ったところにあるアパレルショップ”sai”を営む渡辺高文(わたなべ たかふみ)さん。ヴィンテージの洋服や古着のほか、福島ではなかなか手に入らない家具や照明、陶器などの販売をしながら、店舗2F の「NOUS」をベースに、人が集う小さなイベントを仕掛けるといった、さまざまな活動をしている渡辺さんにアパレルショップを経営をするようになった経緯や発信するライフスタイルについてお話をお伺いしました。
社会福祉職からアパレルへの転身
社会福祉職を数年経験しながら、趣味であるカメラでまちを歩くおしゃれな人を被写体として写真を撮るストリートスナップが好きでやっていたと語る渡辺さん。
木村(筆者):そこからどのような経緯でアパレルショップを経営するようになったのでしょうか?
渡辺:2010年代にストリートスナップカルチャーが流行っていたこともあって。初対面でも声をかけて写真を撮らせてもらい、それをウェブに載せる活動を行っていました。最終的には、そこで生まれたご縁もあって撮影した写真を載せたフリーペーパーを故意に出していました。その後、またまたご縁があって郡山市の古着屋からお店番を頼まれるようになり、元々サービス業をやっていたこともあってか、初めてアパレルの店舗に立つことに「なんか、楽しいな。」と思うようになりました。
働く上でたくさんの常連さんたちと知り合い、ファッションの刺激を受け、そこからお店をやりたいと思うように
独立した時、渡辺さん自身は服屋”だとは思っていなく、ツールのひとつに服があるというイメージだったと語る。
渡辺:“sai”という場所を通して、服もそうだし音楽とかのカルチャーであったり、趣味だったり、生活する上で「スタイル」ってあると思いますが、コーディネートは服の組み合わせでもスタイルとは着る服だったり暮らす場所、音楽、好きな文化だったり。それらの細々とした要素が合わさってその人のスタイルだと思うんです。そのスタイルを提供でき、作れる空間であれば何をしても良いっていうコンセプトのもとやっているので自分は古着やセレクトのアイテム、家具などを販売しながら、この空間で音楽を演奏したりしています。
自分たちがやりたいことを表現する場として空間は在る
渡辺:僕には好きなパリのデザイナーさんがいて、『我々がやっているのはそのブランドのディレクションとかではなく「音楽やファッション、アートなど、人のスタイルを作る」事務所という感じでやっています』という思想みたいなものにすごい感銘を受け、自分もやるんだったら“ただの服”とかではなく、そういうStyling Officeというものをやって行こうと思っています。
木村:お店を営むうえでのコンセプトはありますか?
渡辺:コンセプトは特にないのですが、お店の名前の“sai”は3文字程度で覚えやすければいいかなって。しかも、”sai”だと文字としてはいろんな意味があって、“色”彩、“再”生、“才”能など。なんとでも後付けできるシンプルな言葉だったから選びました。
2022年の11月には福島市にsaiの姉妹店「THE JONA」をオープン。これにはどのような経緯があるのだろうか。
渡辺:単純に姉妹店としての店をやりたい考えがあって、高校から知り合いの方が僕のお店に足を運んでくれていて、彼が「古着屋をやりたい」って言っていたので「お店を出すからそこの店長に…」という流れでオープンをしました。
木村:どちらのお店も店内は真っ白に仕上がっていますが、これにも何か理由があるのでしょうか?
渡辺:空間の創りやすさ、やりたいことに対する表現のしやすさから壁は白くしています。真っ黒なキャンパスに「絵を描け」っていうよりも白いほうが描きやすいように。特に深いこだわりはないです。
渡辺さんは福島市にも新しくお店を構え、郡山と福島を線で結ぶようにエリアの拡大をしていきたいと話す。
渡辺:そもそも、ピラミッドのような形式の会社の構造が個人的には向いていなくて、大きいお店がボンってあるよりかは、地方に姉妹店が点在していたらいいなって思ってました。
もう一つは、「一人一人の実力はあるけど独立ってなるとハードルが高いと思うなか、すごく良い感性を持っているなっていう才能をもった子が多かったので、そういう子たちがお店を運営していきながら学んでいけるような環境があったら良いな」って思いました。
結局、自分がやってきたことを新しく伝えていってお店の運営をしながら、精神面とか経済面などあらゆる面で成長できるような環境を作る余力がありました。
木村:実際にお店の経営をするに当たってこれまで大変だったことはありますか?
渡辺:大変だったことに関しては正直、苦労話がな!」と決めて覚悟をしました。オープンする直前にやるってなったらあらゆることが起こりうるんです。でも、それを苦労と捉えるのは覚悟がないからだと思います。僕はそういうものだと思ってやってきているので苦労話はないです。
社会福祉職で経験した“ケアプラン”に基づく接客
渡辺:元々、介護や福祉の分野には「ケアプラン」という考え方があります。
患者一人一人がより充実した生活が送れるように、日常の動作の中にリハビリを組み込むことで、できなかったことをできるように、より自立した生活が送れるように支援をしていくという考え方がケアプランの仕組みで、僕の中に根付いています。
だからこそ、現在も、年齢や職業が違う一人一人の背景に向き合い、スタイルを提案することを心がけています。
アパレルとしての役割にある答え
渡辺:服やアパレルを凝縮すると「着る楽しさを伝える」なんです。僕がしている発信は色に関しても音楽に関しても着る楽しさを伝える一環です。
そこで、全然服に興味がなかった人が来てくれて服を買ってくれて、その人自身もオシャレになったら自信がつくじゃないですか。そういうものを見ているのが楽しくてアパレルをやっています。
木村:これからの展望はありますか?
渡辺:僕がやっているのは服がメインなので、そこを通じてより多くの人の役に立てる存在になりたいです。まだまだ、ずっと実験の繰り返しです。
色々やる中で「こういうのがあったらこの人にとって人生がちょっと豊かになったり、喜ばれるんじゃないかな」って。より多くの人に受け入れられたことを提供していきながらお店のスタイルや営業方針を定めていきたいです。
木村:以前、姉妹店「The Jona」のオープンに関して「福島と郡山を衣というジャンルで線を結ぶようにお店を展開していき、人やモノなどで楽しめる空間を創って提供しようと考えています。」と話していたのを覚えているのですが、そこで僕は「福島に対する熱意があって福島をもっと盛り上げていきたい!!」という熱意や想いを感じたのですが、正直なところ、それについてはどのように考えていますか?
渡辺:熱意は全くなくて、盛り上げていきたいという想いもないですよ笑
ただ福島は生まれた町なのですごく大好きです。そういう思いもあって、福島でより楽しく暮らしたいというのはありますね。
身の周りのちょっとした工夫でつくれる幸福
木村:僕も渡辺さんが発信する空間の楽しみ方をさまざまな目線で刺激を受け、ちょっとした拘りや工夫で幸福度が見て取れるようになりました。
渡辺:それの根本って恐らく服から培われて、服が好きだからそういう風になったと思うんですよ。
「衣食住」の一番最初に「衣」があるのは、まずは着ることだから。人生を楽しむための基礎が「衣」には備わっているんですよ。なので、「着る楽しさ」もそういうことなんです。
木村:記事を読む皆さんに福島の魅力だったり、過ごし方を勧めるとしたらどんなものがありますか?
渡辺:自然を楽しんでもらいたいですね。それがアウトドアをやれっていうような極端な話ではなく、自然や景色を求めて綺麗なところに行くのでも良いし。
現在、飯坂温泉街住まいの渡辺さん。休日の過ごし方やルーティンとは?
渡辺:休日と仕事に垣根はなく「仕事だからこうします!」みたいなのはなくて…
朝早起きをして渓流釣りとかをして、山道を散歩しながら戻ってきたら飯坂温泉に入ったり、郡山に戻ってお店の商品の準備したりします。
他の日であれば仕事前の畑の手入れ、仕事から帰ってきたらレコードを聴きながら家でのんびりと。
お店を早く閉めた時は山奥へキャンプに出て、ゆっくりお店のアイテムを発注したりしてます。
日常の細かなこと一つ一つに幸福を見い出す豊かな暮らし
渡辺:暮らしの中に幸福っていっぱいある。そこに気づいている人がどれくらい居るかはわからないです。
けれど、楽しもうと思えばなんでも楽しめるんですよ。飯坂もそうだけど、福島とか地方なりの楽しみ方ってたくさんあります。そういう思考で見い出す工夫はとても大切だと思います。
取材を終えて
自分自身、これまで”sai”ではいろんな刺激を受けて興味をもつものや人生の選択肢が増えたと実感しています。渡辺さんがおっしゃることを参考に、日頃の過ごし方が変わったことで福島や郡山に対する眺めが変わり、愛がより深くなりました。
取材時にお話を伺っていく中で心に響くような言葉がたくさんあり、とても素敵な方でした。
福島での過ごし方を聞いてみたり、渡辺さんが体現しているものがどのようなものか気になる方は、”sai”をぜひ訪れてみてください。
屋号 | sai styling office |
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URL | 【instagram】 |
住所 | 福島県郡山市清水台二丁目7-24 |
業種 | アパレルショップ |
定休日 | 不定休 |