【京都】理想の暮らし方から考えてみた COFFEE ROASTERS 中村佳太さん・まゆみさん
京都と大阪の県境にある町、大山崎。JR山崎駅あるいは阪急大山崎駅で下車して15分ほど歩けば、コーヒー焙煎所「大山崎 COFFEE ROASTERS」にたどり着く。東京から移住した中村佳太さん・まゆみさんご夫妻の仕事場だ。
2人が移住を考えたきっかけは、3.11の東日本大震災。結婚して半年も経っていないタイミングで地震が起こる。当時、佳太さんはビジネスコンサルタントとして、まゆみさんもOLとして互いに充実して働いていた。
「あれだけインパクトのある出来事があっても、東京では多くの人が家族を残して普段通りに仕事をしていることにびっくりしたんです。こんな状況でも期日までに業務をやらなきゃという空気があったように思います。
もちろん、絶対しないといけない仕事もあると思うんですけど、少なくともそのときの自分の仕事は、家族や生命を賭けてする仕事とは思えなかった。それよりも、家族と一緒にいることの方が大切だと感じた。このままこの生活を続けていたら、自分たちが思い描く結婚生活は出来ないんだろうなと思いました」
そんな状況の中から移住の選択肢が2人の中に自然と出てきた。
候補地選びで大切にしたのが、緑もそれなりにあるけど同時にある程度、「街」であること。そして、車を持つ予定はなかったので歩きで生活できる規模感であること(現在は、お店の配達やイベント出店などのために必要で車をお持ちだそうだが)。
九州・岡山・神戸・京都市内と、実際に足を運んでは自分たちで考えた。 東京の賃貸の更新をしないと決めてリミットを設定していた中、リミット1カ月前にまゆみさんが以前に目にした大山崎の風景をふと思い出す。京都―大阪間を電車に乗っていたときに、ぽかんと一瞬目の前に広がったのどかな田園風景、それが大山崎だった。
次の週末、東京から新幹線で直行し、大山崎に降り立ったふたりはすぐにしっくりきた。そして直感を信じ、その足で家を決めたのだった。
中村さんご夫婦がユニークなのは、まず暮らす場所を決めてから、ここで何の仕事をしようかと発想していったところだ。移住を考えるうえで2人が共通して好きなことであったコーヒーを生業(なりわい)にしようとは頭にあった。
普通、コーヒーを仕事に、というと、カフェなど飲食業を営むことを考えがちな気がしてしまう。だが、ビジネスコンサルタント出身の佳太さんは違った。「大山崎で」コーヒーを仕事にすることを考えた結果、焙煎に行き着いたのだという。
「カフェをする場合には本格的に人をお店に呼べないといけない。大山崎という町をまだよく知らない自分たちにはそれは未知数な点が多すぎたんです。けれどコーヒー豆の焙煎所であれば、たとえば遠方のお客さん、たとえば東京の友人にも届けられる。移住してお店を始める僕たちにも可能性があるんじゃないかと。
あと、日本でコーヒーの木を栽培することは難しいですが、焙煎っていう、ある意味『育てる』工程に関われる点にも興味があった。そうした興味の部分と、商売が成立するというリアルな部分の両方が合致したのが大きかったんです」
現在、まゆみさんがロゴや包装といったデザイン面を担当、ビジネス的な部分は佳太さんが行っている。
移住してもうすぐ3年。今だからこそ振り返ってみて思うことがあるという。
「当時、『移住します、コーヒー豆屋やります』って話したとき、東京の友人に『俺、佳太みたいにそんなにやりたいことないわ。夢がないし目標がない』ってよく言われたんです。だからわざわざ移住しないし独立しないと。それを聞いたときに、別に僕もコーヒー豆屋がどうしても叶えたい夢というわけじゃなかったのにな、と思ったんです。じゃあ、自分たちはなんで移住したんだろう?と。
今の日本って、『やりたいことをやらないといけない症候群』みたいなところがあるじゃないですか。僕たちはやりたいことが先にあったわけじゃなく、こういう生活がしたいんだっていうのがあって、それから何をやるかを考えて動き出した。『ライフスタイルから考える移住』をしたんだなぁ、って気づいたんです」
やりたいことがないと動き出してはいけない。そんなこと、無いんじゃないか。
中村さんご夫婦の場合、暮らし方から考えてみた先に「移住」、そしてコーヒー焙煎所が、いつのまにか自然にひとつの線で結ばれていったのだと思う。