山形でものつくりをすること
地域の情報
私は普段山形で販売の仕事をしていますが、刺繍作家としても活動しています。刺繍をはじめたのは、埼玉から山形に移住してからのことです。手芸には元々興味があり、なにか楽しい趣味が欲しいな、と思った時に、準備する道具が少なくて済み、手元ですぐにはじめることができる刺繍が良いと思いました。
山形で刺繍をはじめてから、変化したことがたくさんあります。
大きい変化のひとつは、「自分でつくったものを自分で売る」ようになったこと。人からお金をいただいて、自分の作品を手に取ってもらう。そういうことをするうちに、趣味から作家へと意識が変わり、人との繋がりも変わりました。
はじめての「じぶんのものを売る」ことになったのは、私が刺繍をしていることを知った知人がイベントに出店する際に、私の作品も一緒に置いてくれた時でした。置かせてもらったのはワンポイント刺繍をしたキャップで、わずか数個を並べただけだったのですが、売れることの嬉しさというものをその時に知りました。それで、その後は山形のマルシェに自分ひとりで申し込んでみたり、知人の飲食店に作品を置かせていただいたり、さらに最近では関東のイベントに申し込んで出店してみたりと、どんどん新しい場所に挑戦するようになりました。
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そのうちに、「自分で自分のイベントを企画したい」という思いが出てきて、山形市のBOTAcoffeeというカフェの2階の貸しスペースで、はじめて「自分のイベント」を作りました。スペース的に十分すぎる広さがあったので、自分の作品だけでなく、物作りをしている知人に声をかけ作品を預かり、4日間販売させていただきました。
そのとき声をかけたのが、画家の吉田真理さんです。真理さんも埼玉出身で共通の知人を通して知り合いました。それまでは一緒にご飯に行ったりすることがメインの関係でしたが、イベントをきっかけに制作についての話、山形で活動することについての話をするようになり、そうして盛り上がった勢いで、もう一度2人でBOTAcoffee2階でイベントをしようということになりました。2人で「ITO to E(イトトエ)」という名前でユニットをつくり、絵画と刺繍のコラボグッズもつくりました。以来、毎年夏はBOTAcoffeeで、冬は寒河江市にあるMISEcaffe’で、ふたりでイベントするということをもう3年程も続けています。
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私が真理さんと長くイベントを続けられる理由は、いつもそこに「遊び」があるからだと思います。2人で話して、わくわくしたことを実行できる。気付けば、もの作りによる人との関わりが自分の新しい「遊び」になっていました。
たまに感じるのは、山形って、遊びとお金がちゃんと繋がることをしている人が多いということ。そんな人たちの話を聞いたりして、私も実行する勇気が湧いたのだと思います。
2人でやるイベントでは、さらに山形のレザー作家さんや農家の方に作品を置いていただいたりもしています。みんな私や真理さんやBOTAcoffee店主との繋がりのある知人です。今年のイベントでは、BOTAcoffeeの看板犬のボタちゃんのグッズを作ってコラボしました。イベントを通して、色々な関係が出来ました。本気の遊びに共感する人ができて、加わって、一緒に遊ぶ。とても楽しいです。
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作品を通しても、新しい関係が生まれています。元々、妖怪とか宇宙とか、不思議でちょっと変なもの、ゆるくて可愛いものが好きでしたが、制作を山形ではじめるまでは、自分が好きな趣味趣向を友達以外に話すことは多くありませんでした。それが今では、作品を通してこんなのが好き、と発表している感覚です。だからでしょうか、同じような趣味の人と出会えるようになりました。
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そうそういう好きなものが似ていて「yoyoyo」という名前を通して親しくなった友達が、県外のとあるお店を紹介してくれました。それは、映画から妖怪から宇宙から、ヘンテコな物を扱うブックカフェ。今では実店舗は無く通販やイベントでの販売などすこし形を変えての営業になっていますが、それでも、楽園のような素敵なお店と店主に出会わせてもらいましたし、実店舗が閉店する前には友人と共に展示をさせていただくこともできました。
そういうお店は、たぶんネットで検索しても上手くヒットすることはないし、はじめてのお店はなかなかそこに辿りつくまで時間がかかるものなので、本当に素敵な出会いだと思います。自分の制作を通して好きなことを話せる人に出会えることは、最大の楽しみかもしれません。
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思い返すと、想像をしていなかった出会いが制作、活動を通してたくさん生まれていました。そのほとんどが良い出会いで、自分が自然体で素直でいられる関係ばかりです。このリアルローカルの記事を書いている事も、そんな流れの中で生まれています。まさか、自分が「書く事」をするとは夢にも思いませんでした。
思ってもない事が起きること、出会うこと。それが私にとって山形で制作をして活動していくことのやりがいでパワーです。
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