【鹿児島県鹿屋市】ピュアな気持ちを大切に、社会と繋がり、輝ける場を / 特定非営利活動法人Lanka 大山真司さん
インタビュー
鹿児島県鹿屋市にて障がいのある人の創造の場や仕事の場、表現を発信する場づくりを展開されている『特定非営利活動法人Lanka(ランカ)』。代表の大山真司さんに現在の活動に至った背景等を伺いました。
垣根を越えたコミュニケーション
転勤族の家庭で育ち、常に人間関係が変わる幼少期から青春時代を過ごした大山さん。
その中でも保育園時代の環境が
福祉の道を志す原点になったといいます。
通っていた保育園はハンセン病患者が入所している施設の敷地内(※1)にあったそうです。
「ハンセン病の影響もあり、入所されている皆さんはそれぞれ体に特性がありました。当時、まだ社会との隔たりがあり、普通に生活していたら中々会えない人ばかりでした。」
「僕が“遊ぼうよ”と声をかけると、皆さん温かく迎えてくれて、一緒に楽しい時間を過ごしました。結局、転校してしまい、長い付き合いはできませんでしたが、その時の経験があったからこそ、新しい環境でも積極的にいろんな人にコミュニケーションをとるのが自然になっていったと思っています。」
「世代だったり、障がいの有る無し関係なく、人との繋がりや交流が僕にとって大切なものになってきて、高校を卒業する前には福祉の仕事をしたいと思うようになったんです。」
「高校卒業後は、大学と並行しながら、福祉の専門学校にも通いました。」
※1 全国に13カ所ある国立ハンセン病療養所の一つ。鹿児島では昭和10年に大隅半島の鹿屋市に開設された。
“もっと知らない世界を知りたい。”
そんな気持ちが強くなり、大学と専門学校卒業後は
海外を数ヶ月周る決断をされます。
当時はアメリカやヨーロッパが主流だった中、
大山さんが選択されたのはインドネシアでした。
「皆が選択する場所ではなく、言語が通じない場所で、自分にしかできない経験をしたいと思いました。」
「“日本人が多い場所へ行くと、頼ってしまうのでは?”という疑問がありました。それなら、ジェスチャーやフィーリングで、必死に考えながら現地の人とコミュニケーションをとったほうが自分のためになると感じたんです。」
「その日暮らしのように、歩いて周って、時には出会ったお店でアルバイトをさせてもらったりもしました。その時の経験を通して“必死にやれば、どこでもやっていける”と思うようになりました。」
「言葉がわからない中でのコミュニケーションって、転校して新しい環境に入った時と似ているんです。振り返れば、垣根を越えたコミュニケーションをずっと自然に続けてきているんだなと。」
人として、輝けることを
日本に帰国後、数社の福祉や医療の現場を経験。
その中でも、援護寮(※2)で働いた時のことをお話してくださいました。
そこでは、入所者が社会復帰をするために
生活上必要なサポートや指導を行っていたそうです。
「一人一人の症状や状況に応じて、行政に必要な申請だったり、禁止されていた行為をしないように指導する立場でした。」
「でも、指導するはずの僕らが逆にいろんなことを教わっていたんです。入所されていた皆さんは社会で働けない状態とはいえ、それぞれ得意分野があって、僕らが持っていない力ばかり持っていました。」
「例えば、料理が得意な人がいて、その人からは魚の捌き方だったり、難しい料理を簡単に作るコツだったりを教えてもらって、ワクワクしている自分がいました。」
「本当に人間味のある時間を経験させてもらいました。障がいや病気があるといっても、みんな、人なんです。人だからこそ、温度感のあることを教わりました。」
「誰だって喜怒哀楽はあります。嬉しいことがあれば素直に喜んでほしいし、悲しいことがあれば思いっきり泣けばいい。あの時間を通して、日々の現場にそんな気持ちで臨めるようになったと思います。」
※2 精神障がい者のうち、入院治療の必要はないが、独立した生活を営むことができない者を対象に、低料金で居室・設備などの生活の場を提供して、日常生活に適応するための必要な指導・訓練を行う施設。
そして、3年後。
医療・介護・福祉の現場を通して得たノウハウや経験を活かし
『特定非営利活動法人Lanka』(※3)を立ち上げます。
「Lankaはフィンランド語で“糸”を意味しています。活動を通して、メンバーがLankaとしての誇りが持てるようになったら嬉しいですし、福祉は福祉しかないではなく、いろんなモノ・コト・ヒトと繋がることでの可能性をつくっていきたいという想いを込めています。」
「就労支援はメンバーが社会に出るための準備をする訓練施設です。だからといって、彼らが望んでいないことを機械的にさせるのは疑問がありました。」
「どこにもなくて、一人一人が輝く仕事を作ってみたい。そんな気持ち強く、試行錯誤を繰り返しました。時には、県外の福祉事業所まで、勉強しに行ったりしたのですが、思い描くものが見つかりませんでした。」
「そんな時、尾道でカカオの実から作るチョコレート工場のことを知ったんです。居ても立っても居られず、すぐにアポをとり、見学に行くことにしました。」
※3 就労継続支援B型事業所。農園芸作業や施設内の簡単な作業を通じて働くこと、社会に参加する練習を行っている。
一人一人が“できる”仕事から、生まれるもの
見学に行かれた際のことをこのように振り返ります。
「工場へ行くと、歌を口ずさんでいる人もいれば、踊っている人もいたんです。“あれ、これって、うちの施設と変わらないじゃん”“これだったら、ウチでもできるかもしれない”と感じました。」
そして、ついに2017年に
チョコレートブランド『kiitos(キートス)』を立ち上げ。
メンバーそれぞれが
カカオ豆の仕分け
チョコレートの製造
商品の包装
包装のイラストなど
能力に応じて役割を担っています。
「単に型にチョコレートを入れて終わりではなく、豆を選ぶ工程から作ることでチョコレートの味が全然変わってきます。“よくそこまでするよね”と言われるのですが“そこまでできる人たちだから”できていることなんです。」
「チョコレートを作るなら、全員が関われることをしたい。全員が“自分だからできる仕事”だと思ってほしい。それで、メンバーの能力に応じて、それぞれができることを一緒に考えていきました。」
「立ち上げから6年経ち、今では“仕事に行ってくるね”と家族に言うメンバーも増えてきました。自分たちで選択して、責任をもって仕事に臨んでいて、専門家のようにカッコよく見えます。」
kiitosを立ち上げてからメンバーそれぞれに変化があったそうです。
「チョコレート長と呼ばれるメンバーがいるのですが、チョコレートに対するこだわりが強く、勉強も熱心にしています。僕以上に愛をもって、語ってくれます。」
「他のメンバーも作業中に声をかけると“ここは、こうでね…”と嬉しそうに語ってくれるし、その表情からは“自分たちの作っているチョコレートはすごいぞ!”という自信が伝わってきます。」
「単に下請けを受けるのではなく、自分たちでモノを作ることで“チョコレートブランドとしてkiitosは鹿児島にあるんだ”という気持ちになるし、売上に繋がればモチベーションも高くなってきます。まだまだですが、もっといろんなところで販売してもらえるように僕も頑張りたいです。」
「将来、バイヤーさん向けの商談会ができたらと思い描いて言います。福祉施設が作ったから単価が低いじゃないんです。ちゃんとしたものは伝えれば、きっと相手に伝わって、それなりに評価を受けてもらえると信じています。」
福祉が好きだから
Lankaの立ち上げ当初から
事業所を支えている事務長の有馬さん。
大山さんの高校時代の同級生で
ある事がきっかけで合流する決意をされたそうです。
「高校時代に“将来、福祉の事業所を立ち上げるから、その時は手伝ってね”と言われていました。卒業して10年後に本当に声をかけてきて、運命的なものを感じ、僕も福祉の道を歩むことになりました。」
「大山はいろんなフィールドの人とコミュニケーションをとり、アイデアを考えてくれます。だったら、僕はそれを実現できるように彼の手の届かないところを組み立て、スタッフに割り振っていくのが役割だと感じるようになりました。」
「あるメンバーが社会経験を積んで、Lankaの正社員として就労してくれた時はとても嬉しかったです。障がいがあっても、僕らと同じように仕事をする姿は、僕らにとっても、メンバーにとっても励みになります。」
「僕は元々福祉とは違う仕事をしていました。でも、それを言い訳にせず、大山の想いを汲み取りつつ、それがメンバーにとってプラスになるような事業運営を心がけています。」
今までの福祉の道や
メンバーやスタッフとの関わりを通して
大事にされていることを最後に伺いました。
「僕はずっと福祉の仕事をしてきましたが“何て素晴らしくて、幸せな仕事ができているんだ”と思っています。」
「だからといって“偉いことをしている”というわけではありません。僕にとっては“福祉が好きだから”その仕事をしているだけなんです。」
「“これしかできない”じゃないんです。僕もメンバーもスタッフも、大変なことを忘れるくらい、好きというピュアな気持ちで臨んでいるからこそ、力が発揮をできています。」
「よく“Lanka、何かやる”と言っていて。常に何かしら取り組むことで、何かに繋がって、僕らの可能性も広がっていくと感じています。」
「福祉の枠を越え、いろんな人の力が集まることで、僕らにしかできない根強いモノを今後も生み出していきたいです。それはLankaだからできることだと思っています。」
屋号 | 特定非営利活動法人Lanka |
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備考 | ●SNS https://www.instagram.com/lankaito2011/ ●kiitos(キートス) SNS ※工房は鹿屋市の『ユクサおおすみ海の学校』内にあります。 |
住所 | 鹿児島県鹿屋市北田町11132-1 |