【愛知県・岡崎市】北欧の暮らしに学びながらも、 日本人として大切にしたい暮らし方を発信。
インタビュー
【real local名古屋では名古屋/愛知をはじめとする東海地方を盛り上げている人やプロジェクトについて積極的に取材しています。】
アイルランドではオーガニック農家でファームステイ、日本では限界集落で村・留学を経験し、自らが体感した豊かな時間をさまざまな角度から表現している近藤さん。「持続可能な豊かな暮らし」や「裏側まで感じられる食」をテーマに、珈琲店だけでなく焼菓子店やマルシェなど幅広く活動する近藤さんに話を聞いてきました。
ヨーロッパの田舎にある豊かな暮らしと、日本の田舎にあった暮らし。
海外好きだったご両親の影響もあり、親子で7ヶ国語を楽しく学びながら異文化に触れる「ヒッポファミリークラブ」というコミュニティに、近藤さんは子供の頃から参加していたそうです。
「そこでは、小学6年生の時にアメリカでホームステイをする子供が多く、私も当然行かせてもらえるだろうと思っていたら、両親から「うちは自営業だからそこまでのお金は出せない」と言われたんですね。そこで奮起したのかな。だったら自分で行くぞ!と。英語も独学で学び続けました。高校生になって英語が上達するにつれ、英語圏で暮らしてみたいという想いが強くなりました。」
外国語大学に進学した近藤さんは、4年生で休学をし、欧州留学に出ます。アイルランドに3ヶ月滞在した後に、スイス・フランス・イタリアを3ヶ月にわたって旅するという、観光三昧の前半を終えると、後半はイギリスに渡り、調理学校で3ヶ月間、ファームステイで2ヶ月間を過ごしました。ヨーロッパの街を歩いたり、田舎の家族と農作業をしたり、幼い頃から思い描いていた海外の暮らしを経験する中で、その豊かさを体感するとともに、日本人としての自分を見つめるようにもなったと言います。海外に出てみると尚更のこと、自分が日本のことを全く知らなかったと感じたそうです。
「日本ならではの固有性と独自性にも興味を持つようになりました。帰国後は、持続可能な社会をめざす人たちに向けた8泊9日の村・留学を何度か利用して、限界集落で過ごすという体験をさせてもらいました。日本の田舎で伝統を学び、そこで受け継がれてきた家庭の味に触れると、ヨーロッパのオーガニック農家での経験と結びつくものがありました。日本にかつてあった暮らしを少しだけでも体感できたことは、とてもいい経験になりました。」
大学卒業後はそうした経験を活かせる場を求め、岡山県にある食育に力を入れているスーパーに就職。3年間、食育活動に従事することに。親子で田植えから稲刈り、餅つきまで楽しめる食農体験では、米農家の想いを伝えることも大切にしていたそうです。感動している我が子の顔を見ると、親の意識も変わるのだとか。互いに作用しながら家族の食が変われば、日々の選択も変わっていくはず。食育は今後も関わっていきたいことだと、近藤さんは言います。
たまたま戻ってきた岡崎で、私ができること。
友人の結婚式で戻ってきた岡崎で久しぶりに過ごしてみると、地元に残っている旧友が多いことに加え、みんなこの街をよく知っていて、暮らしを楽しんでいることを目の当たりにしました。素直に、戻ってみようかなと思えたのだとか。
「最初は、両親が自営する会社の敷地内に焼菓子のお店「北欧の焼菓子店コンディトリ」を2020年5月にオープンしました。マフィン作りは高校生の時から大好きで、イギリス調理学校に留学した時も焼菓子の勉強は特に力を入れていたほどなので、やるなら焼菓子店という感じでした。
2021年4月から3ヶ月間は、岡崎の中心部にある籠田公園内の出店支援ボックスに出店させてもらい、これがいろんな人に知ってもらえる機会となりました。同時に、お店の営業が終わると籠田公園周辺で楽しむのが日課となり、人との出会いも多かったのがこの時期です。このエリアでお店を出せるといいなと思っていた矢先、岡崎では知られたギャラリー「MATOYA」さんが移転されるということで、移転後に入居させてもらえることになりました。何とか資金を工面してオランダの中古焙煎機を購入し、家族総出で店づくりをして、「北欧の珈琲店ÅTER(オーテル)」をオープンできたのが2022年の4月です。」
いろんな巡り合わせの中で毎年のように新しい展開があり、それに向かって突き進んでいけるのは「考えるよりも動くタイプだから」だと、近藤さんは言います。自営の両親を見て育ったせいか、事業には浮き沈みがあって当たり前。やってみないと分からないから、まずは「えい!やっ!」とやってみるのだとか。
その原動力となっているのは、「上手くいかなかった時に、人のせいにはしたくない」という思い。だからまずは自分が動いてみて、できそうならやる。そんな中で、籠田公園前にお店を持てたことが大きかったと振り返るのは、岡崎の真ん中に拠点を作ることに意味があると考えるから。
村・留学でコミュニティを近くに感じたり、いろんな集落での価値観や、人との関わり方を体感してきた近藤さんだからこそ、コミュニティというものに強い関心を寄せています。また、岡崎出身でありながら、どこか余所者のような目線で岡崎を見ている自分にできることは何か。その時に自分がいる場所のことを全力で考えるようにしている。それが今は岡崎なのだと、近藤さんは言います。
食べ物の向こうにあるものまで感じられるように。
籠田公園内の出店支援ボックスでの出店を機に市役所と関わることが増え、街のためにできることを考えるようになった近藤さん。お母様が立ち上げた「岡崎トレッドゴーマーケット」での運営経験を活かし、自らも「スコシズツ.マーケット」を立ち上げました。サスティナブルな暮らしを目指して年に2回開催されるマーケットは、その思いに共感する60店舗ほどが集結し、今年11月25日の開催で6回目を迎えます。
「スコシズツ.マーケットは、モノを売る場ではなく、作り手の発表の場であり、モノやコトが価値を持って行き渡る場です。人と自然、人と人が、豊かに生かし合える暮らし方をみんなで考え表現する実験の場として位置付けています。何かを真似するのではなく、一人一人が考えてやってみることが大切で、その試みをブラッシュアップしていくことが持続可能な暮らしにつながると考えています。
岡崎市には「QURUWA(クルワ)」と言って、町内会と自治体が一緒になって市民の「やってみたい」にトライできるような環境が用意されていて、さまざまなプロジェクトが動いています。そうしたことも相乗効果となって、街が動いていくといいですよね。」
マーケットでは豊かな時間の過ごし方、自分たちが大切にしたい文化や暮らし方を発信。欧州のファームステイや日本の村・留学での経験を活かし、日本らしい豊かさをジャパニーズスタンダードとして、みんなで創り上げていきたいのだとか。コーヒーと甘いものを楽しむ、そんなシンプルな時間のためにある「北欧の珈琲店オーテル」も、手段の一つに過ぎないのだと言います。
「今後は、食べ物の向こうにあるものまで感じられるようなことをしていきたいですね。例えば、珈琲店ならコーヒーの向こうにはコーヒー農園があって、そこに働く人がいる。もともと食の裏側が好きで、これまでの経験の中で食の生産から調理までを知るようになったけれど、知ることで食の問題を解決するきっかけにもなると実感しています。それを押し付けることなく、食育イベントなどを通して滲ませていくことで、それぞれが考えるきっかけになっていくといいなと思っています。」
いろんなことに興味があるから、何でもやってみたくなるという近藤さん。でも「今じゃないな」ってこともあって、それは自分の中で温めているのだとか。いつか機が熟する時、また新たな展開を見せてくれることを楽しみにしています。
備考 | 北欧の焼菓子店Konditori(コンディトリ)
北欧の珈琲店ÅTER Tokyo(オーテル トウキョウ)
スコシズツ.プロジェクト
QURUWA |
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