【鹿児島県日置市】顔のわかる関係性の中で、日々積み重ねる未来への導線 / お茶のにいやま園 新山寛樹さん
インタビュー
ブランド“かごしま茶”を専門に、昭和60年の創業以来、全国のお茶屋を中心に卸売を展開されてきた『お茶のにいやま園』(以下:にいやま園)は日置市の伊集院町が拠点となっています。専務取締役の新山寛樹さんに現在のお仕事に至った背景などを伺いました。
face to face
かごしま茶の問屋としてお祖父様が創業、
その会社をともに支えてこられたお父様をもつ新山家で生まれ育った寛樹さん。
しかし、家業へ合流するまで
お茶からは縁がほとんどない道を歩まれてきたといいます。
高校までは部活動に勤しみ、
県外の大学に進学してからは、さらにアルバイトなど
目の前のことに夢中になる日々だったそうです。
「就活の時期になり、いろんな業種の会社説明会に足を運んだのですが、興味を持つところが中々なかったんです。そもそもが“何をしたいか?”ということも決めていなくて…。」
「結果的に鹿児島県内の金融機関に就職が決まりました。金融に興味が湧いたことや、お客様を一軒一軒まわることも面白そうと感じたことが大きな理由です。」
「入社したての頃、集金した金額が合わなくて、先輩と一緒にお客様に謝りに行ったのを覚えています。かなりショックでしたが、先輩が伴走してくださったので、何とか立ち直ることができました。」
銀行マンとしてノルマをこなさないといけないこともあり
帰りが夜遅くというのも多かったのだとか。
それでも、前向きに過ごせたと話す寛樹さんを支えたのは
お客さんとの顔が見える関係性でした。
「ある繁華街近辺で勤務していた時は、近くのタバコ屋のおばあちゃんが“私の孫なの、よろしく頼むね”と、血が繋がっている家族のように周りに紹介してくれたりして、その人とお話するのが日課になっていました。」
「違うまちでは“飯でも食っていけよ”“お茶一杯、飲んでいけよ”と毎回声をかけてくださるおじいちゃんがいて。出されるお茶が毎回薄かったのは、ここだけの話ですが(笑)。」
「前職では“face to face”を社訓としていたのですが、当時は深く意味を考えていませんでした。でも、振り返ると、一軒一軒お客様と顔を合わせて話をして、何かカタチにしていく過程は今でも繋がっていると思います。」
一つ一つの積み重ねを大事に
銀行マンとして5年目の正月。
ご両親からのある言葉が寛樹さんの心を突き動かしたといいます。
“家業のこと、どう考えているか?”
「それまで話に出たこともなかったので“これは、家業に合流してほしいのではないか?”と感じたんです。それで、銀行マンを辞めることを決意しました。」
「何となく実家がお茶の問屋をしているということしか知らなかったので、お茶に関する知識や技術は全くない状態でした。それでも“始めてしまえば、何とかなる!”というプラス思考があったんです。」
そして、7年勤めた金融機関を退職後、にいやま園に合流し、
ご両親と従業員2名、そして、寛樹さんの5名体制で
新たなスタートを切ることになるのです。
合流された時期はお茶の繁忙期の真っ只中。
周りからの指示をこなすのでやっとだったそうです。
工場の作業の基本的なところを一つ一つ覚えつつ、
仕事のリズムをつかんでいきました。
「ウチは問屋なので、お茶農家さんの育てたお茶を預かって加工します。お茶はたくさんありますが、自然環境など毎年異なるので、同じお茶は二度とありません。」
「だからこそ、間違ってはいけない。一つ一つしっかり確認していこう。商品となるお茶を楽しみにしているお茶農家さんやお客様の気持ちを裏切らないように。そのように周りから教わりました。」
「従業員の先輩たちは会社を創業時から支え、今では当たり前になっている工場の作業工程を一から組み立ててくださった方々です。」
「その基盤があるからこそ、今新しいことに挑戦できていると感じています。そこも地道な日々の努力の積み重ねですよね。」
先を見据えた新しい挑戦
合流された1年目の冬。
寛樹さんはあることに気づきます。
“自分の給与が発生したことで、会社としての利益が下がっているのではないか?”
“給与をもらっている分は自分で稼がないと。今までと違う切り口で販路を広げられないだろうか?”
「それまで自社商品って、ほとんどなかったんです。今までやってきたことを大事にしつつ、新しいことに挑戦しないと問屋としての未来はないと感じました。
「いろんなところにお茶っ葉を持って、一軒一軒営業してまわりました。銀行マン時代のやり方を真似たカタチではあったのですが“じゃ、少しもらおうか”と手を差し伸べてくださり、ありがたいことに近隣の物産館に少しずつ取り扱いさせてもらうようになりました。」
「でも、その動きだけでは限界だったんです。さらに広げたいと思った時に、にいやま園としての強い武器がないことに気づきました。」
そこで前職の繋がりからデザイナー等を紹介してもらい
チームで商品開発に挑むことになるのです。
「ここで仕掛けないと、自分が合流した意味がない…。そんな気持ちで臨みました。」
当時の心境をそのように語ります。
そして、2015年。
試行錯誤の末、『フレーバーシリーズ M’s cha-ippe』が完成しました。
上品で飲みやすいかごしま茶に、鹿児島の特産の中でも風味があるものを厳選して加えることで、より一層スッキリとしたお茶の風味を楽しめます。
桜島小みかんや霧島レモングラスなど、数種類あり
ティーパックタイプで忙しいときにもすぐ飲めるのも特長です。
「鹿児島は素敵な特産がたくさんあるので、それらと合わせたブレンド茶の商品を作ったら、若い層にも興味を持っていただけるのではないかと考えました。」
「鹿児島のモノにはこだわりたい。そこはベースにありました。イベント出店などを通し、お客様と顔を合わせて、直接声を聞くことで改良を重ね、今のカタチに落ち着きました。」
「自然と気づいたら、今の状態になっていて。目の前のことに地道に取り組んでいたら、縁と縁が繋がって、そこからどんどん広がっていったんです。」
身の丈に合ったことを、目の前の人たちと
にいやま園の一員として、大事にされていることを伺いました。
「“鹿児島のお茶をしっかり広めて販売する”という軸はブラさないこと。そして、自分たちも含めて、社員が安心して暮らせること。この2つはとても大事にしています。」
「後者については、お茶の世界にいなくても、そこを大事にしたと思います。与えられた環境の中で、目の前のことを、一緒にいる人たちと一つ一つ積み重ねることが僕は向いているんだと思います。」
さらに、お祖父様とのエピソードを含めて
お話してくださいました。
「小さい頃、よく祖父から“身の丈に合った商売をしなさい”“派手なことをしなくてもいい”と言われていました。」
「言葉の表現は違いますが、結局、考えていることは祖父と似ているんだなと気づきました。会社の敷地内に石蔵があって“お茶がダメだったら、みかんでもやるか”と祖父が昔話していたらしくて“みかんまで同じか”と思いました(笑)。」
最後に今後の展望について伺いました。
「職種関係なく、お茶を取り扱ってみたいと感じる人が増えてほしいなと思っています。鹿児島には、これだけ身近にお茶があるので。」
「実は、今オーダーメイドでお客様一軒一軒とお話してお茶を作るサービス『にいやま園のOEM』も展開しています。そうすることでお茶に興味を持っていただける方への導線を増やしていけたらと考えています。」
「私たちは製造業なので“つくる”ことは得意ですが、それ以外は得意ではありません。地域や職種を越えて、いろんな方と手を組んで、お茶を発信することにも力を入れていきたいです。」
「そのためには、まずは自分たちができることからきちんと積み重ねていくことが大事です。なおかつ、視野は広く持ち、時代の流れを見極めながら、挑戦できることがあれば攻める姿勢で臨んでいこうと思います。」
屋号 | お茶のにいやま園 |
---|---|
URL | |
住所 | 鹿児島県日置市伊集院町麦生田2142番地 |
備考 | ●SNS ●にいやま園のOEM https://ochanoniiyamaen.com/?mode=f10 ●商品一覧 |