【鹿児島県南大隅町】ハナノキフェス〜凸凹を活かしあう日常づくりを〜 / 社会福祉法人白鳩会 花の木農場
イベントレポート
『社会福祉法人白鳩会 花の木農場』は農福連携(※)を軸に軽度の障がい者(以下:利用者)が就労する能力を身につけたり、仕事をする場として農場を運営されています。今回、利用者を主体とし、地域内外のいろんな人たちの手を借りて『ハナノキフェス』を開催しました。その背景や当日の様子をお送りします。
(※)農業と福祉の連携。障がい者が農業分野での活躍を通じ、自信や生きがいを持って社会参画を実現していく取り組み。
利用者を主体にすることで、福祉を日常に
まず、イベントの背景について社会福祉法人白鳩会・理事長の中村隆一郎さんに伺いました。
「コロナ渦で4年ぶりにイベント開催をするにあたり、地域や来場者の皆さんにとって、利用者や福祉、農福連携によるものづくりを日常生活に近づけるきっかけになればと考えました。」
「一年ほどかけて準備を進めてきたのですが、地域外や他分野の方々にもサポートをお願いしました。そうすることで、いろんな価値観(凸凹)が入り混じり、多くの人が楽しめると考えたんです。」
「運営メンバーと話す中で“利用者を主体にし、それを取り巻く私たちや地域がどう関わっていくか”に重点を置くことにしました。そこで生まれたのが今回のワークショップや音楽ライブ、シンポジウムなどになってきます。」
「イベント名をハナノキフェスとしたのも、会場にいる皆さんで一緒に場をつくっていく空間そのものをフェスのようにしたいと考えたからなんです。」
イベント内容について、
それぞれの特徴を伺いました。
「特別ゲストと一緒に、案山子とベンチづくりのワークショップを行います。利用者や参加者も含め、違う特性を持った皆さんが交流しながら、一緒に一つのモノをつくっていく過程を体感してもらいたいと考えています。」
「フードブースでは利用者が調理補助と接客に入ります。注文したものと違うものが出てきたり、調理に時間がかかる可能性がありますが“そこは笑って許してください”と皆さんにお伝えしています。そうすることで豊かな食事に繋がると考えました。」
「ステージでは鹿児島県内で活動されているクリエイティブなアーティストの方々に出演していただきます。地域に根付いているアーティストと会場がどんな雰囲気を調和していくか楽しみです。」
「シンポジウムでは、利用者や参加者に囲まれながら、地域や暮らしの中における福祉をどう発展させていくか。すぐに答えが出るものではないですが、そんなお話を皆さんとすることで、福祉を日常に置き換えて考えていただくきっかけになってもらえたらと思っています。」
凸凹な人たちが、同じ時間を楽しく過ごす
午前中はワークショップ。
町内の案山子づくりの名人の指導のもと
家庭で使わない古着を集め、参加者が各々考えた案山子ができあがっていきました。
ベンチづくりにおいては
廃材を活用し、その場にいたメンバーで話しながら
「ここは、こうするといいよ」「色を塗ったら面白そう」と
即興でつくっていく雰囲気が印象的でした。
どちらも共通して感じたのは
初対面で、得意・不得意の違う人たちが一緒に考え、
一つのモノをつくっていく光景。
それが自然と繰り広げられていたのは
普段交わる機会がほとんどない利用者・参加者・地域の人たちが
同じ空間で、目的に向かって、楽しみながら
時間を共有していたからのように感じました。
ステージでは、アーティストによるパフォーマンスがスタート。
地域に根付き活動をされているからこそ
活動拠点でのローカルネタや
今回のイベント関係者との接点、
そして、地域に対する想いなど
親近感が湧く話題で盛り上がり
さらに会場が一体となるパフォーマンスも繰り広げられました。
あるアーティストのパフォーマンス終了後、
利用者の一人が駆けつけるシーンがありました。
「楽しかったからCD買っちゃった。また、ここに歌いに来てね。」(利用者)
「福祉は自分たちの日常から遠い印象がありました。でも、こうやって、利用者の方に声をかけてもらったり、運営側や参加者とも交流することで、身近に感じましたし、また花の木農場に遊びに行こうと思いました。」(アーティスト)
参加者からもこのような声がありました。
「福祉施設での音楽って硬いイメージだったのですが、ポップなものが多く、観衆側との距離が物理的にも心理的にも近くて、楽しく過ごすことができました。」(参加者)
みんな凸凹だからこそ、広がる風景
続いて午後からはシンポジウム。
ボタニカルファクトリーの黒木靖之さんや特別ゲスト、中村さんを含め『凸凹もよし。人やモノづくりを支える地域の力』をテーマに話が展開されました。
特別ゲストの俳優はボタニカルファクトリーと共に商品開発され、その工程の一部を花の木農場の利用者が担っています。
そこから話が展開されました。
「誰もがみんな凸凹なんです。それは決して悪いことではなくて、お互いが補い合っているから成立するし、最高のモノが生まれてくるんだと思います。」(俳優)
「健常者では根を上げてしまうことを、利用者の皆さんは2~3時間延々とできるんです。これって才能だと思います。絶対モノづくりの現場に必要な人材だと感じています。」(黒木さん)
「地域の人たちと一緒に仕事をすることで“自分を受け入れてもらえた”という喜びに繋がると思うんです。」(中村さん)
「それって、職員と利用者という関係性ではなかなか実現できません。この素晴らしさが実は地域と繋がるということになると考えていて。凸凹があっても、それを受け止める地域の豊かさを、いろんな方と共有したいです。」(中村さん)
さらに、特別ゲストのモデルとネイリストは今年8月に南大隅町の無人島で利用者と一緒にゴミ拾いイベントを開催されたのだとか。
「ゴミ拾いと聞くと、マイナスなイメージかもしれません。でも、次第に宝を探すような感覚になって、それを皆で集めたのが達成感につながりました。その後のご飯も美味しかったですし、こんなふうに仲間が増えていったらいいなと感じました。」(モデル)
「私たち人間も動物も植物も虫も命があって、何かしら繋がって循環し、成り立っているとゴミ拾いで感じました。だから、みんな一緒なんだって。」(ネイリスト)
最後に今回の話を通し、開かれた福祉の可能性について
中村さんから言葉がありました。
「福祉という言葉を出すと、どうしても壁や難しさを感じさせてしまいます。でも、いろんな人が才能を共有し合い、関わることで花の木農場の雰囲気は生まれています。それを体感しに、気軽に日常でも足を運んでほしいです。」(中村さん)
凸凹を活かしあう日常づくりを
利用者や参加者、そして、地域と一体となったハナノキフェス。
それぞれ3者に今回の場を通して、感じたことを伺いました。
まず司会を担当した利用者から。
「人前で司会をするのは初めてでした。皆さん、楽しそうに聴いてくれたので、緊張せずにすみました。また機会があれば、挑戦したいです。」
続いて、花の木農場へ初めて訪れたお子さん連れのご家族から。
「普段、福祉施設に踏み入ることはなくて、堅い印象しかありませんでした。でも、それとは逆に気軽というか、カジュアルな印象を受けました。今度はカフェに家族でランチに行って、利用者の働いている姿を見てみたいです。」
そして、地域の人から。
「どうしても障がいと耳にすると、距離を置いてしまう自分がいました。今日数名の利用者と話しましたが、全然自分たちと変わらないと感じたんです。周りの人にも、今回感じたことを共有して、今度は地域の友人と足を運んでみたいです。」
シンポジウムの後は利用者と職員で結成された花の木ファーマーズクワイヤのコーラス。
この日のために、数ヶ月練習されてきたのだとか。
無事に2曲歌い切り、会場は拍手で包まれました。
最後に中村さんから、ハナノキフェスの時間を通した
今後の展望についてお話がありました。
「イベント自体はこれで終わりですが、1年に1回会いましょうではなく、ここにいる人同士が花の木農場や他の場所で再会して、新しい何かが始まるというのも素敵ですよね。」
「そして、そこには障がいがある人だったり、老若男女関係なく、いろんな凸凹な人がいて、お互いの力を活かしあうという風景があちこちで見られたら嬉しいです。それがハナノキフェスきっかけだったら、最高の幸せだと思うんです。」
「来年はさらにパワーアップして開催できたらと考えています。主催をしている私たち自身、まだまだなところが多いです。だからこそ、皆さんのお力を借りながら、いろんなことが地域全体で循環していける原動力の一つになれるように精進していけたらと思います。」
屋号 | 社会福祉法人白鳩会 花の木農場 |
---|---|
URL | |
住所 | 鹿児島県肝属郡南大隅町根占川北9466-8 |