real local 郡山【福島県西会津町】土地に根っこを張るって、どういうことだろう?“文化的な根っこ”を求めて、この町へ。長橋幸宏さん - reallocal|移住やローカルまちづくりに興味がある人のためのサイト【インタビュー】

【福島県西会津町】土地に根っこを張るって、どういうことだろう?“文化的な根っこ”を求めて、この町へ。長橋幸宏さん

インタビュー

2024.01.25

何か特別なきっかけがなくても、目的や目標が定まっていなくても。自分の嗅覚やセンサーがむくほうへ、流れに乗っかってみる。そんな話をしてくれた、西会津町地域おこし協力隊の長橋幸宏さん。2021年に長野県から移住し、町でも前例がないような「デジタル推進」の取り組みの中心人物として活動しています。そんな長橋さんの移住の背景にあるのは、「土地に根っこを張ること」への興味なんだとか。長橋さんの活動や生き方を通じて、地方移住することや、ローカルで活動することの意味や価値を考えるきっかけになれば幸いです。

町にとっても前例のない、デジタル推進の取り組み。

西会津町の中心地、野沢地区。その商店街に佇む「にぎわい番所ぷらっと」の扉を開いた先に、長橋さんの姿がありました。この日は、定期的に開かれる「デジタルよろず相談会(以後、よろず相談会)」の開催日。スマートフォンやタブレット端末、パソコンといったデジタル機器の操作方法など、町民のデジタルに関する相談ごとにこたえるというものです。

【福島県西会津町】土地に根っこを張るって、どういうことだろう?“文化的な根っこ”を求めて、この町へ。長橋幸宏さん
スマートフォンの操作方法を教える長橋さん

相談に訪れる人の多くは高齢者。「これってどうすればいいの?」と訊ねる町民に対して、「これって、こういうことなんですよ」と、相手のペースに合わせながら長橋さんが教えています。

− こんにちは。「よろず相談会」の開催中にすみません。今日はよろしくお願いします。

長橋さん:いえいえ、よろしくお願いします。

− いつもこんな感じで、相談に乗っているんですね。

長橋さん:そうですね。相談に来られる方がいたり、いなかったり、なんですけど。大抵は、こんな感じでスマホやパソコンの操作方法を教えたり、わからないことに答えるといったことをしています。この町は高齢者の方が多くて、最近スマホデビューしたという人も多いんです。若い人だと、スマホやパソコンってそんなに操作に困ることはないと思うんですが、やっぱり高齢者の方は操作に慣れるまでに時間がかかることもあって。それを家族の方に教えてもらうとなると、家族もなかなか時間がとれなかったり、難しいこともあると思うんですよね。そうした時に、気軽に来て相談できる場所でありたいなと思っています。

【福島県西会津町】土地に根っこを張るって、どういうことだろう?“文化的な根っこ”を求めて、この町へ。長橋幸宏さん

− 長橋さんの「地域おこし協力隊」としての担当分野は「デジタル戦略推進」なんですよね。協力隊と聞くと、例えば「移住担当」とか「空き家利活用」とか「情報発信」とか、そういった分野はよく耳にするんですが、「デジタル戦略推進」って珍しいなと思います。

長橋さん:そうかもしれないですね。西会津町って、役場の企画情報課の中に「デジタル戦略室」というのを組織しているんです。「西会津町デジタル戦略」という計画を掲げて、その方針に基づいていろんな事業を町全体で行っているんですけど。例えば、AIオンデマンドバスの導入や、LINE公式アカウントの構築、役場内にweb会議システムを導入したり。この「よろず相談会」も、町民むけのデジタル教室として、町で定めた方針のもと生まれた企画なんです。

− そうした活動を支援するのが、長橋さんの役割なんでしょうか?

長橋さん:そうですね。実は「デジタル戦略推進」そのものが、令和3年にスタートした新しい取り組みなので、やること全てが町にとっても初の試みなんです。それって、前例がないということですから、やることや仕事内容が明確に決まっているわけではなくて。その時々に生まれた企画やプロジェクトの中心メンバーとして、いろいろ試しながら動かしてみる、という感じですね。

− 例えば、どんなプロジェクトに関わっているのか教えてもらえますか?

長橋さん:2023年の夏にリリースしたばかりのプロジェクトがありまして。「石高プロジェクト」っていうんですけど。

【福島県西会津町】土地に根っこを張るって、どういうことだろう?“文化的な根っこ”を求めて、この町へ。長橋幸宏さん

− 石高…?チラシに「RICE to meet you」って書かれてありますね。なんだか、すごくおもしろそう!

長橋さん:石高(こくだか)って、近世の日本において用いられていた一つの基準なんです。各領地の経済規模とか、国力を表わすために用いられたそうなんですけど、それがお米の量で規模を測れるようになっていて。お米に置き換えると、1年間でどれくらいの収入が見込めるかを示していたみたいです。僕たちが中学生の時に、社会の授業中に聞いた覚えがあるような、ないような感じだと思うんですけど。

− たしかに、そんな話があったかも…。なぜ、その石高を取り上げているんですか?

長橋さん:西会津町って、農業が基幹産業なんです。お米グランプリ日本一に輝いたこともあるくらい、全国トップクラスのおいしさを誇るお米なんですけど。でも今、農家さんの人口って全国的に減っていますよね。この町も例に漏れず、現役の農家さんが減っていたり、その担い手も不足している状態でして。その上、お米の値段がどんどん下がっているんですよね。このままだと、経済的にも人的リソースという側面からも、農家さんの負担やリスクがどんどん増えていってしまう。じゃあ、そうしたリスクを農家さんだけが抱えるんではなくて、私たち消費者も一緒にリスクを分け合って、農家さんを応援しましょうというのが「石高プロジェクト」です。

− 農家さんの応援、すごくいい取り組みですね。でもそれって、「お米を買う」という方法とどんな違いがあるんですか?

長橋さん:たしかに、一般的な応援って、お米を買うことだと思うんです。「石高プロジェクト」では、ただ「買う」ということだけでなく、「参加する」「貢献する」というニュアンスが大きいかもしれないですね。例えば、実際に田んぼに足を運んで米づくりを手伝い、労力として農家さんの活動に貢献する。あとは、通常はお米って、スーパーマーケットや通販で買ったりすると思うんですが、「石高プロジェクト」では収穫する前にお米を買うということができるんです。

【福島県西会津町】土地に根っこを張るって、どういうことだろう?“文化的な根っこ”を求めて、この町へ。長橋幸宏さん

− どういうことですか?

長橋さん:お米って、その年の気候や自然環境によって、収穫できる量が変わるんですよ。豊作の年もあれば、不作の年もある。それに近年は、異常気象や災害がよく起こりますよね。そうなると、その年の収穫量が激減したり、もしくはゼロという可能性も無くはないんですよ。それって、農家さんにとってすごくリスクになる。

− そうですね。

長橋さん:だから「石高プロジェクト」は、そうしたリスクや負担を少しでも減らせるように、収穫前に買うんです。先払いして予約するみたいな感じですかね。そうすると、農家さんにとっては精神的にもより前向きな気持ちで、お米づくりに専念してもらえるのかなと。

− 日本一のおいしいお米、ずっとつくってほしいですもんね。

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長橋さん:そうした支援のやりとりの中で、ブロックチェーン技術を活用していることも、「石高プロジェクト」の大きな特徴です。さっき、田んぼに来て米づくりを手伝うという話をしましたよね。そうした活動や貢献を、「石高アプリ」に記録していって、最終的にはその人の貢献度合いに合わせてお米が返礼されるんです。

− お金じゃなくて、お米でお返しするんですね。

長橋さん:はい。さらに、その人の貢献度合いやステータスが、アプリ上では「百姓」とか「大名」という位で表現されています。

− ためしに、アプリダウンロードしてみますね。

※石高アプリは、公式サイトからダウンロードいただけます※

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石高アプリのアカウントページ

− あ、百姓だ。(笑)

長橋さん:がんばって貢献していただいて、百万石の大名をめざしてください。(笑)

− なるほど、農家さんの応援をすればするほど、このステータスが上がっていくんですね。おもしろい!長橋さんは、このプロジェクトにどんなふうに関わっているんですか?

長橋さん:プロジェクトマネージャーという立場で動いています。運営事務局という感じですかね。プロジェクト立ち上げにあたっては、西会津町役場、町内の米農家、町内のデザイン会社、東京にあるシステム開発の会社が連携しながら、企画や仕組みづくり、webサイトやアプリの構築、広報活動などを行っています。私は、その4者をむすぶ真ん中のポジションに立って、プロジェクトが円滑に進むように調整したり、企画を考えたり、オンラインコメニティを運営したりしています。

町のアートの取り組みや表現に、びびっときて。

− 「よろず相談会」や「石高プロジェクト」など、デジタル推進を担ってるということは、長橋さんはデジタル関係の仕事をされてきたんですか?

長橋さん:いやいや、まったく。

− そうなんですね、移住されるまでどんなことをされていたのか、移住のきっかけなど教えていただけますか?

長橋さん:西会津に来る前は、長野県に住んでいました。もともと出身は東京なんですけど、大学進学で長野に行って。20代のほとんどを長野で過ごしたという感じです。

− 大学ではどんな勉強をされていたんですか?

長橋さん:現代アートとか、キュレーションとか、芸術系のことをやっていました。主な進路としては、学芸員とかになりますね。

【福島県西会津町】土地に根っこを張るって、どういうことだろう?“文化的な根っこ”を求めて、この町へ。長橋幸宏さん

− デジタル系ではないんですね。

長橋さん:はい。大学卒業してからも、デジタル系にはふれてないですね。バンドとアルバイトが主で、全国いろんなところをツアーでめぐったり、音楽仲間がやっている山小屋で働いたり、スキー場やホテルの厨房で仕事をしたり。食関係の仕事をしていると、農業にも興味が出てきて、2ヶ月ほどフランスへ農業研修に行ったりもしました。

− やっていること、すごく多彩ですね。充実した日々を送られていた印象を受けますが、なぜ西会津に…?

長橋さん:長野での暮らしも、すごく良かったんですよ。カルチャーも感じられるし。でも、なにか大きな目的や目標を掲げてやっていたというよりは、周りにいた人たちの関係性とか、その環境の変化とか、全部流れに乗る感じだったんですよね。それがあるタイミングで、自分の土地を持つことや、土地に根を張ることへの興味が出てきて。何か自分ではじめてみたいな、とか、自分で何かやってみたいな、とか。

− それが、長野ではなかったんですね。

長橋さん:当時は、松本市や諏訪市にいたんですけど、自分が何かをするには規模が広すぎるかもしれないと思いました。手応えを感じづらいというか。地域の規模が小さくなればなるほど、反響が大きかったりして、手応えを感じやすいんじゃないかと思ったんです。

− たしかに、たとえばパン屋さんがたくさんある町でパン屋をはじめるよりも、パン屋さんがない場所でやるほうが、手応えは感じやすそうですね。その点でいくと、西会津町は人口が5,000人台ですし、松本市や諏訪市よりも規模がコンパクトですね。

長橋さん:それと、私の出身地は東京なんですけど、祖父母や親戚が山形県にいるというのと、パートナーの出身地が福島県なので東北にルーツがあるんですよね。だから、東北はいいかもしれないと思い。

− 西会津はどうやって見つけたんですか?

長橋さん:移住系のサイトで調べていたら、ふと目に留まりました。西会津町のことをいろいろと調べていたら、「西会津国際芸術村(以後、芸術村)」があることや、アート系のプロジェクトも多数やっていると知り。その様子を見て、いい感じだなと。

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西会津国際芸術村。国内外からアーティストやクリエイターが集い、制作展示や、さまざまなアートプロジェクトを行っています。

長橋さん:で、パートナーと話して一度見に行ってみよっかということになり。2020年の11月に、初めて西会津に来ました。その時に町内を案内してくれた人が協力隊の方だったんですけど、おためし住宅があることや、仕事もあると教えてくれて。じゃあ、来てみようかということで、2021年3月に引っ越してきました。

− すごい、流れに乗っていますね。

長橋さん:そうですね。あまり当時のことを覚えていないくらい、流れに流れていますね。

− じゃあその後すぐに、協力隊に着任されたんですか?

長橋さん:そういうわけでもなく。予定していたプロジェクトが打ち切りになってしまったという事情もあって、最初の1年は、芸術村でアルバイトをしたり、地元の左官屋さんや農家さんの手伝いをしたり、いろいろやってましたね。

− では、現在の「デジタル推進」の活動を始められたのはいつからなんですか?

長橋さん:先ほどお話しした、町の「デジタル戦略室」が2021年に発足したんです。その最高責任者の方と知り合って話をしていたら、デジタル担当の協力隊として働いてみないかと声をかけていただきまして。それで、今に至ります。

− 移住してからの1年間、やっぱり長野に帰ろうとか、ほかの地域に行ってみようとか、そういう気持ちはなかったんですか?

長橋さん:定職に就かなかったからこそ、いろんな会や場に参加できて、特に町に訪れるアーティストと交流できたのが良かったなと思います。仲良くなって、いろんな話をして。お金にはならないけど、それも一つの手応えだったかなと。友だちができていなかったら、ちょっと考えてたかもしれないですね。

【福島県西会津町】土地に根っこを張るって、どういうことだろう?“文化的な根っこ”を求めて、この町へ。長橋幸宏さん

自分の嗅覚やセンサーがむくほうへ。

− 先ほど、土地を持つことや、土地に根を張ることについてお話しされていましたよね。それらの手応えはありますか?

長橋さん:どうでしょう。あると言えば、ありますし。根を張ろうとして張っているというよりは、気がつけば根が張っていた、みたいな感覚かもしれません。いろんな会や場に参加して、仲良くなって、話をしていたら、そこが自分の居場所になっていたというような。西会津って、挙げるときりがないくらい、町のいろんなところでプロジェクトやイベントが行われているんですよ。私も協力隊のほかに、農業やアート、教育、場づくりなど、いろんな企画に参加していまして。地元のおじいちゃんおばあちゃんや、若手の農家さん、県外から訪れた専門家など、いろんな人と話をするんですよね。

− すごい、積極的ですよね。

長橋さん:積極的というか、自分の嗅覚とかセンサーがむくところに赴いているという感じで。自分がどの場に、どうやったら馴染めるか、そこにいられるか、というのは大きなテーマだと思いますね。だから、自分には合わないなと思う人や、場には関わりを持たないようにしています。そんなこと、現状ではあまりないんですけどね。でも、嫌われないように自分を取り繕うこととか、肩肘張るようなことはしないようにしています。どうすれば、自分は精神的にも、身体的にも、リラックスできるのか。それを意識していれば、おのずと自分の居場所がひらいて、根を張ることにつながるのかなと思います。

【福島県西会津町】土地に根っこを張るって、どういうことだろう?“文化的な根っこ”を求めて、この町へ。長橋幸宏さん

− 簡単に言うと、人にも、場所や土地に対しても、合う・合わないはありますもんね。

長橋さん:そうですね。

− じゃあ、長橋さんが西会津が自分に合うな、とか、根を張ってみようと思えるのって、どうしてなんでしょう。

長橋さん:漠然としてるんですけど、“ふるさと的なもの”への郷愁があるんじゃないんですかね。特に私の場合は東京生まれで、自分にとってはその生まれた場所に、文化的な根っこがないわけですよ。実際にルーツはあっても、そこで10年過ごしてても、どこか表層的で。文化的な根っこがなかったことに対する不足感から、ここに来てると思うんですよね。うまく言えないんですけど。

− 西会津町は、遡れば縄文時代から栄えていた歴史がありますし、築100年〜200年単位の昔ながらの古民家や、守り継がれてきた美しい風景、自然と共生する暮らし、その中で培われてきた人々の知恵や文化、人と人のつながりがありますよね。

長橋さん:今って、昔に比べれば根っこを張らなくても良い時代だと思うんですよね。その時代に、あえて根っこを張ってみるとはどういうことなのか、その研究をしているんだなとも思います。

− さいごに、今後の展望についてお話しいただけますか?

長橋さん:先ほどお話しした「石高プロジェクト」の活動を継続・発展させていくために、会社を立ち上げようと思っています。そのための事業計画を今たてているところなんですけど。どうすれば「石高プロジェクト」を事業化できるのか、そのためにどんな仕組みが必要なのか、関係者の人たちの意見も聞きながら準備しているところです。

− 協力隊の任期を終えても、この町で活動を続けていく予定ということでしょうか。

長橋さん:そうですね。古民家をリノベーションして、そこに住みながら時々カフェをやれたらいいな、とも思っています。それも流れの中で、かたちにしていけたら良いですね。

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【令和6年度・西会津町地域おこし協力隊を募集しています!】

 西会津町では、外部からの人材を積極的に誘致し、その人材の定住・定着を図るとともに町外からの視点や情報発信力、独自の技術などを活かした地域活性化に向けて「地域おこし協力隊」を採用しています。現在は、総勢9名の地域おこし協力隊が町内外で活躍しています。多くの先輩隊員と一緒に仕事ができることも西会津町地域おこし協力隊の魅力の1つです。(西会津町地域おこし協力隊の皆さんについては紹介ページをご覧ください)

 令和6年度の募集分野数について、現在8分野で募集中です。なお、町HPをご参照ください。 各募集分野に興味関心のある方はもちろん、自身のスキルやアイデアを地域の活性化に生かしたい方、何か新しいことにチャレンジしてみたい方などを募集しています。新規学卒者の採用実績もありますので、ご興味がある方は「西会津町役場商工観光課/西会津のある暮らし相談室」までお問い合わせください。

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